15話 デートがしたいです
天宮と恋人のフリをするようになって、一週間が経過した。
俺たちの本当の関係が周囲にバレることはなくて……
穏やかな日々を過ごしている。
季節は6月。
空は夏に入る準備を始めて、あちらこちらで雨が降り始めている。
それと同時に、軽く蒸すようになり……
衣替えの季節だ。
「あの……ど、どうでしょうか!?」
最近は、天宮と一緒に登校するのが当たり前になった。
朝……今日も今日とて待ち合わせ場所に行くと、どこか緊張した面持ちの天宮に、そんなことを言われる。
どうですか、と言われても……なんのことだ?
こういう時の女子の台詞って、オシャレに関することだよな?
髪型は変わっていないし、たぶん、切っていない。
染めてもいない。
ヘアピンなどは問題ないが、指輪などのアクセサリーを身につけることは禁止されているため、真面目な天宮はそういう類のものは身につけていない。
かといって、服はいつも通りの制服で……ああ、そういうことか。
今日から夏服だ。
たぶん、そのことを指しているのだろう。
「えっと……」
女子は、夏服になると若干、スカートが短くなる。
冬服が長すぎるという意見があるため、特に問題はない。
上は白の半袖のブラウスとネクタイ。
「……」
なんでだろう?
ほんの少し露出が増えただけなのに、やけに天宮がかわいく見える。
新鮮な気持ちになり、ドキドキしてしまう。
「あの……進藤くん? 私、似合ってないでしょうか……?」
ついつい黙り込んでしまうと、天宮はとても不安そうな顔になった。
いけない、いけない。
恋人のフリをしていようがいまないが、こういう時は、きちんと感想を口にすることが礼儀というものだ。
「うん、よく似合っていると思う」
「ほ、本当ですか!?」
「本当だ。ラフな感じが今までになくて新鮮で、とてもいいと思う」
「えへ、えへへ……進藤くんに褒められちゃいました。すごくうれしいです」
にへら、と天宮が笑う。
そんなところも、夏服を着ているせいか、いつもと違う感じがして……
「本当にかわいいな、妖精みたいだ」
「ふぇっ……!?」
ついついそんな言葉がこぼれてしまい、天宮が真っ赤になった。
「あ、あの……そう言ってくれるのはうれしいですけど、そ、そこまで言われてしまうと恥ずかしいです……」
「悪い。つい本音が……」
「あうっ……!?」
ますます赤くなる。
って、俺のせいか。
というか俺も、なんて恥ずかしいことを……
冷静に考えると、とんでもないキザなことを口にしている。
「……」
「……」
俺と天宮は一緒に顔を赤くして、一緒に学校に向かう。
言葉はなくて、二人の足音がコツコツと響く。
それもまた、心地いい。
「……あの」
学校まであと10分というところで、天宮が口を開いた。
こちらの様子をうかがうような感じで、静かに尋ねてくる。
「少し聞きたいんですけど、その……進藤くん、今度の日曜日は空いていますか?」
「日曜? えっと……」
頭の中でスケジュールを確認する。
特に予定は入っていないはずだ。
「ああ、なにも問題はないが……どうしたんだ?」
「あの、ですねっ……その!」
やけに力んで、天宮がなにか言おうとする。
しかし、なかなか言葉が出てこない。
それほど言いにくいことなのだろうか?
急かすようなことはしないで、天宮のタイミングで言えるように、静かに待つ。
「進藤くんの貴重な休みの時間を奪うことになってしまうんですけど、その、あの……できたらでいいんですけど……わ、私と……デート、してもらえませんかっ!?」
「……デート?」
「は、はいっ、デートです!」
男女が一緒に遊ぶデート……だよな?
俺と天宮がデート……デート!?
遅れながら天宮の言葉の意味を理解して、ついつい動揺してしまう。
「えっと、ど、どうしてそんなことに?」
「あっ、いえ、その……まだデートをしたことないから寂しいというか、進藤くんとデートしたくて……あっ、いえ!? 違います、違います! えっと、つまり……フリを完璧にするために、やはり、デートは必須ではないかと思いまして!」
「な、なるほど」
そうか……うん、そうだよな。
あくまでもフリのためだよな。
「でも、そうか……デートか」
恋愛初心者の俺が、うまくデートできるかわからないが……
天宮の言うことは一理あり、放置していい問題ではない。
「……わかった」
「え?」
「それじゃあ、デート……しよう」
「い、いいんですか!?」
「ああ、もちろんだ。やるからには、全力を尽くす」
「……やったぁ、進藤くんとデートだぁ……」
なにやら小さい声でつぶやいて、天宮はひたすらにうれしそうにしていた。
女の子なのに、小さくガッツポーズまでしている。
「デート♪ デート♪ デート♪」
「えっと……天宮?」
「えへへ、進藤くんと一緒に……えへへ」
「おーい、天宮……?」
「ふぁっ!?」
我に返った様子で、天宮はぴょんとその場で跳ねた。
それから、慌てて手を横に振る。
「あっ、いえ、その!? 今のはなんていうか、えと……れ、練習です!」
「練習?」
「進藤くんとデートの約束をして喜ぶ彼女の姿……という練習です! そう、練習なんです!」
「なるほど……天宮は、どんな時も気を抜かないんだな」
「あ、納得しちゃうんですね……それはそれで、複雑な気分です……」
どうしろと……?
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