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14話 一緒に買い物

 そんなわけで、天宮と一緒に買い物にやってきた。


 あれから、天宮は毎日料理の練習をしていて……

 俺は試食役として、それに付き合っている。


 材料が足りるわけもなくて、基本、学校の帰りにスーパーで買っている。


「進藤くん、今日はなにを食べたいですか?」


 スーパーのカートを押しながら、天宮は笑顔で尋ねてきた。


 料理の練習がメインだけど……

 毎回、天宮は俺の食べたいものを作る。

 そうしないと気が済まないらしい。


「えっと……」


 食べたいものを思い浮かべる。

 昨日は焼き魚とさっぱり系だったから、今日はガッツリといきたい。

 とんかつだろうか?


 しかし、まだ揚げ物は天宮には早い気がする。

 ならば間を取り、トンテキはどうだろう?

 ガッツリとして食べごたえがあるし、それに、手間がかかるわけじゃないから練習にはぴったりだ。


 なんて。

 食べたいものを口にするのも、色々と考えないといけない。


「トンテキなんてどうだろう?」

「トンテキですか……はい、わかりました。じゃあ、まずはお肉を見に行きましょうか」

「了解」


 カートを押す天宮の隣を歩く。


 学校帰りなので、当然、俺たちは制服姿だ。

 しかし、こうして並んで歩いて、一緒にスーパーの商品を見て回っていると……


「「なんだか……新婚みたい」」


 二人の声がピタリと重なる。


「……」

「……」


 そして、同時に照れる。

 天宮は耳まで赤くなり……

 俺は、ひたすらに顔が熱くなる。


 互いに、なんとなく思ったことを、なんとなく口にしてしまったみたいだけど……

 まさか、タイミングも内容もピタリと一致するなんて。

 奇跡的な偶然に、色々なことを思う。


 大げさかもしれないが、これは……


「あ、あの……なんていうか、こんなに色々なものが合うと、運命……みたいですね」

「……」

「あう……だ、黙らないでくださいよぉ……」

「いや、その……ごめん。悪いことを考えていたわけじゃないから」

「じゃ、じゃあ、なにを考えていたんですか?」


 同じことを考えていた……なんてことは、さすがに言えなかった。




――――――――――




「ど、どうですか!?」


 天宮は緊張した面持ちで、トンテキを食べる俺をじーっと見つめる。


 最初はこの視線に慣れなかったが……

 最近では、少し慣れてきた。


 そんな風に天宮に見つめられつつ、感想を口にする。


「うん、わりといいと思う」

「本当ですか!?」

「肉は柔らかくできているし、ソースもしっかりと味がついていておいしい。強いて言うなら、もうちょっと濃くてもいいけど……そこは好みの差になるから、問題ないと思う」

「問題アリですよ」

「そうなのか?」

「私は、その……おいしい料理が作りたいんじゃなくて、進藤くん好みのおいしい料理を作りたいんです。だから、もっともっと勉強して、進藤くんの好みを教えてください」


 天宮って、いつもこんな感じだよな。

 なにをやるにしても全力で、手抜きなんて一切しない。


 それでいて、どこか抜けていて……

 時折、ちょっとしたドジをやらかしてしまう。


 でも、そんなところも愛嬌といえば愛嬌で、素直にかわいいと思う。

 姫の名は伊達じゃない。


 ただ、どうしてここまでしてくれるのか?

 どうして、こんなにも尽くしてくれるのか?

 そこがよくわからない。


 恋人のフリをしているから、という答えもあるかもしれないが……

 それにしては、やたらと本気な気がする。

 時々、フリの範囲を超えているような気がするんだよな。


「天宮は、どうしてここまでしてくれるんだ?」


 聞かずにはいられなくて……

 気がついたら、そんな言葉を口にしていた。


「すごくよくしてくれるというか、尽くしてくれるというか……フリだとしても、ちょっと大げさな気がするんだよな」

「そ、そうでしょうか?」

「まあ、そこが天宮らしいといえばそうなんだけど……なんか、違和感もあってさ」

「……私のこと、よく見てくれているんですね。そういう風に進藤くんに理解してもらえて、私、うれしいです」


 褒めたつもりはないのに、うれしそうに微笑む天宮。

 こういうところも、気になる反応ではある。


「なんていうか……天宮は、俺に隠してることないか?」

「隠していること、ですか?」

「悪いこととか、そういうことはまったく考えてないんだけどさ。ただ、俺の知らないなにかを、天宮だけが持っているような……うまく言葉にできないんだけど、たまに、そんな気がするんだよ」

「……」


 天宮はなんともいえない顔になり……

 それから、困ったような笑みを浮かべた。


 その笑みが示すところは、いったいなにか?

 気になる。

 気になるのだけど……

 でも、深く立ち入ることができない。


 それをすれば、俺たちの関係が決定的に変化してしまうような……

 そんな予感を覚えた俺は、ヘタれであり、結局退いてしまう。


「まあ、いいか」

「え?」

「天宮のことだから、意味なく黙っているなんてことはないんだろ? なにか、理由があるんだと思う」

「それは、その……はい」

「なら、無理に聞くようなことはしないさ。問題ないと判断したら、いつか聞かせてほしい」

「それでいいんですか?」

「いいさ。よくわからないことを無理に聞いて、天宮を困らせたくない。今は、まあ……天宮と一緒にいられれば、それでいいさ。天宮と一緒にいると楽しくて、いつも笑顔に困らないからな」

「……ふふっ」


 思わずという感じで、天宮が小さく笑う。

 その笑顔はとても優しいもので、見ていると心が癒やされていくみたいだった。


「やっぱり……進藤くんは、私が思っている通りの、とても素敵な男の子です」

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別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
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