13話 私だけを
「進藤くん」
「……」
「進藤くん?」
「……」
「むう……進藤くん!」
「おわっ」
ふと我に返ると、頬を膨らませて拗ねた天宮の顔が目の前に。
じっと睨みつけられている。
「進藤くん、私のことを無視していました」
「あ、いや……すまない、そういうわけじゃないんだ。ちょっと考え事をしてて、ぼーっとしてたというか……」
さきほど聞いた天宮の話が頭から離れなくて……
こうして二人でいても、ついついぼーっとしてしまう。
「考え事ですか? どんな?」
「まあ……大したことじゃないさ」
「大したことじゃないなら、その……」
天宮がもじもじとしつつ、ちらりとこちらを見る。
「……他のことは考えないで、私のことだけを考えてほしいです」
「そ、そうだな……」
そういう台詞をぶつけられると、フリだとわかっていてもドキドキしてしまう。
天宮は、こういう風にやたらと積極的なのだけど……
本当にフリだよな?
なんて。
それ以外のなにものでもないか。
実は好きでした、とか。
漫画じゃあるまいし、そんな都合のいい現実はそこらに転がっていない。
それよりも、今は天宮の言葉の意味を……
「えいっ」
ぷに、と天宮の指が俺の頬に。
「な、なんだ……?」
「進藤くん、またぼーっとしていました」
「それは……」
その通りなので、なんとも言えない。
天宮のことを考えていたんだ、と言えばいいかもしれない。
ウソでもない。
しかし、どこか不誠実なような気がして……
それはやめておきたい。
「進藤くんは……」
「うん?」
「私だけを見てください」
俺の頬に左右の手をやり、くいっと顔の向きを変えられる。
その先には、天宮の綺麗な顔が。
その状態で、覗き込まれるようにして……
吐息が触れ合うほどに近くなる。
「……」
「……」
俺の頬が熱くなる。
天宮の顔も赤くなる。
ついつい、という感じで動いてしまったみたいだけど……
これから先、どうするかという部分は考えていなかったらしい。
ただただ、至近距離で瞳と瞳がぶつかる。
「……」
「……」
不思議と心地いい沈黙だ。
「わかった」
「え?」
「これからは、天宮だけを見るように努力する」
「ふぇ……!?」
さらに天宮の顔が赤くなる。
自分で言い出したことなのに、いざとなると照れていた。
そんなところも、かわいいと思う。
こんな子が彼女なら……なんて、贅沢な妄想をしてしまう。
「……今、進藤くんがなにを考えているか、当ててみせましょうか?」
「どんな?」
「ズバリ、私のことですね?」
「正解だ」
「はぅっ……!? あ、あっさりと言うんですね……」
再び自爆していた。
ちょくちょく、こんなところを見かけるけど……
ひょっとして、天宮はおっちょこちょいなのだろうか?
「その……どんなことを考えていたんですか?」
恐る恐る尋ねてくる。
俺たち、実は昔に会っている?
と尋ねてしまいたいのだけど、その場合、立ち聞きしていたことを話さないといけない。
そういうことをする人なんて思いませんでした、とか言われたら、立ち直れるかどうか……
「……料理のことかな」
結局、ヘタれた俺は別の話題を持ち出した。
「料理ですか?」
「練習、今日もするんだろ?」
「はい、進藤くんさえよければ。その……一日でも早く、進藤くんにおいしい、って言ってもらいたいですから」
ぎゅうっと拳を握り、がんばるぞ、とアピールする天宮。
その仕草、姿がたまらない。
人目がなかったら、悶絶していたかもしれない。
「進藤くん、どうしたんですか?」
「いや……なにも」
まずいな……最近、天宮に見惚れる機会が多くなっているような気がする。
あくまでも、俺たちはフリの関係。
本気じゃない。
勘違いをしないように、少し自重した方がいいかもしれない。
「それじゃあ、進藤くん。いつもみたいに、一緒にスーパーに行きましょう」
「そのことなんだが、今日は一人で行ってくれないか?」
「え……私一人、なんですか……?」
天宮の目がうるうると潤む。
「……やっぱり、一緒に行くか」
「はい!」
どうしても天宮を突き放すことができない俺だった。
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