12話 盗み聞き
放課後。
「よぉ、歩。一緒に……」
「昼休みと同じボケはいらん。俺は、天宮と一緒に帰るからな」
「……ぐすん」
真司を撃墜して、帰り支度をする。
とはいえ……
フリとはいえ、彼女ができた途端に友達をないがしろにするのは、どうだろうか?
真司は彼女ができた時も、わりとマイペースに俺を誘っていた。
本当のことがバレる可能性があるから、天宮と一緒にというのは、まだ早いかもしれないが……
たまには、真司を優先した方がいいかもな。
その辺り、今度、天宮に相談してみよう。
「って、歩」
「うん?」
「お前、今日掃除当番だろ?」
「あ……そうか」
ウチの学校では、掃除は基本、放課後に行われる。
教室の掃除は、週に二回。
生徒全員で。
その他、廊下やトイレなどの掃除が、当番制で回ってくるのだ。
今日の俺は、トイレを担当している。
「教えてくれて助かった。あやうく、すっぽかすところだった」
「トイレ掃除なんて、普通のヤツは喜んですっぽかそうとするんだけどな。真面目にやろうとするの、歩くらいだぜ?」
「自分たちで使うところだ。自分たちが掃除をするのは、当たり前のことだろう?」
「生真面目だねえ。ま、それが歩らしいか」
なぜか笑う真司に見送られて、廊下へ。
「あっ、進藤くん」
すでに天宮が待機していた。
俺を見つけると、犬が尻尾を振るような感じで、トテテテと駆け寄ってくる。
「あ、あの、一緒に帰りませんか!?」
「うん。ただ、ちょっと待ってくれないか? 俺、今日は掃除当番なんだ」
「わかりました。終わるまで、待ってますね」
いつまでも待っていそうな雰囲気だった。
なるべく早く終わらせよう。
――――――――――
……そんなことを考えていたのだけど、30分もかかってしまった。
一人、風邪で休んだらしく、手が足りなかったんだよな。
天宮、待っているだろうな。
急ごう。
まずは、小走りで自分のクラスへ。
そこで鞄を手にして、天宮が待つ隣のクラスに……
「ねぇねぇ、天宮さん。噂の彼氏のこと、聞いてもいい?」
「はい、いいですよ」
ふと、そんな会話が聞こえてきた。
なんとなく顔を出すタイミングを逃してしまう。
「天宮さんの彼氏って、隣のクラスの、えっと……誰だっけ?」
「進藤くんですよ。進藤歩くん」
「そうそう、その進藤くん。ぶっちゃけ、地味だよね。顔はそんな悪くないけど、なんかこう、華がないっていうか良いポイントが見つからないっていうか……」
「むうっ」
「天宮さん?」
「私の進藤くんのこと、悪く言わないでくださいっ」
ちょっと不機嫌そうな天宮の声が聞こえていた。
そんな反応に、クラスメイトらしき女子の慌てた声が聞こえてくる。
「あっ、その……ごめんごめん。悪く言うつもりはなかったの」
「私にとって進藤くんは、とてもかっこよくて、華がありまくりで、良いところしかないんですからね」
「マジで惚れ込んでるんだねぇ」
「あっ、今のはその……つい」
今度は、照れくさそうな声。
というか……俺も照れくさい。
「ねね、もうちょっと彼氏のこと、聞いてもいい?」
「は、はい。大丈夫ですよ」
「じゃあさ、好きなところ、もっと詳しく教えて」
「な、なんでそんなに楽しそうなんですか?」
「女子高生は、他人の恋バナが主食なのよ」
「あはは、そういうものですか……」
天宮が苦笑する顔が思い浮かぶ。
「えっと……まず、優しいところですね。一見するとぶっきらぼうに見えるんですけど、ちゃんと私のことを見てくれていて、いつも気遣ってくれているんです」
「ほー……それでそれで?」
「私が失敗した時とか、仕方ないなあって苦笑して、一緒にがんばろう、って言ってくれるんです。そういう時、すごく癒やされたりします。
「いいねー。他には他には?」
「あとは……単純って思われるかもしれないですけど、顔が好きです」
「ん? でも、すごくいい、ってわけじゃないよね? あ、悪く言うつもりはないんけどさ」
ほっとけ。
それくらい、こちとら自覚しているんだよ。
「そ、そんなことないです。進藤くんは、すごくかっこいいです」
「好きな人のことは、全部かっこよく見えるからねー。で、具体的には?」
「ちょっと無骨な感じのするところです」
「ん? それ、プラスポイントになるの?」
「普段は頼もしく感じますし……それに、たまに笑うと、すごくかわいいんです」
「あ、なるほどねー。そういうことか。そういうギャップならわかるわー」
なんていうか……
声をかけるタイミングを完全に見失ってしまった。
というか、これ、盗み聞きじゃないか。
いくらなんでもまずい。
俺はこの場を離れようと……
「じゃあさ、進藤のどこを好きになったの?」
下手な答えを返すと、フリがバレてしまう。
大丈夫だろうか?
心配になり、ついついその場にとどまってしまう。
「えっと……ここだけの話にしてくださいね?」
「うんうん、わかってるよー」
「本当ですか……?」
「ホントホント。それで?」
「えっと……私のことを助けてくれたんです」
「助ける? え、なんか危ない目に遭ったわけ? 大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。ちゃんと、進藤くんが助けてくれましたから」
「そりゃそっか。大丈夫だから、今、こうして笑ってるわけだしね。でも、なにがあったの?」
木に登って降りられなくなった、天宮の家の猫の話だな。
「その……実は私、幼い頃に迷子になったことがあって」
……うん?
「その時、進藤くんがすごく必死になって助けてくれて……思えば、あの時にはもう好きになっていたんだと思います」
「おー、いいねいいねー。単純だけど、そういうの、けっこうグッとくるよねー。お姉さん、そういう話は好きよー」
「私と同い年じゃないですか」
楽しそうな話し声が聞こえてくるが、もう俺の耳には入っていない。
猫を助けたことで、俺と天宮は知り合ったはずだ。
迷子になっていたところを助けた覚えなんてない。
天宮が話を間違えた?
いや。
声のトーンを聞く限り、情感が込められていて、とてもじゃないけれど作り話とは思えない。
だとしたら、本当にあったことなのだろうか?
そうなると……
「……俺と天宮は、転校以前に会ったことがある?」
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