11話 一緒だから
昼休み。
「よぅ、歩。飯いこうぜ」
真司にそう声をかけられた。
「……」
「な、なんだよ。その呆れた顔は?」
「呆れてるんだよ。お前、鳥あたまか? 昼は俺、天宮と一緒すると朝に言っただろう」
「わかってるよ! その上で、邪魔をしてやろうと、とりま声をかけてみたんだよ!」
俺、なんでコイツの友達をやっているんだろうな……?
「悪いが、しばらくは一人で頼む」
「歩以外に友達がいないような言い方、やめろや!?」
「いたのか?」
「いるよ! 心底驚いた顔をするんじゃねえ!」
「金で買うのは友達と言わないと思うぞ」
「月額制の友達でもねえよ!」
叩けば響く。
それが真司というヤツだ。
「ったく。さっさと行ってしまえ。俺は俺で、彼女と楽しむことにするさ」
「そういえば、真司はなんでいつも彼女と一緒しないんだ?」
「いつでも顔を合わせられるんだ。いつも一緒にいる必要はないだろ? 互いのプライベートゾーンっていうものがあるし、そこらは尊重していかねーとな」
「なるほど」
真司って、意外と考えているんだよな。
こういうところ、フリをするにあたり参考になるかもしれない。
いざという時は、真司を頼りにしてもいいかもしれない。
「また後でな」
「おうおう、行ってしまえ」
真司と別れて、教室の外へ。
「あっ、進藤くん」
天宮が待ってくれていた。
俺を見つけると、やはりうれしそうな顔になる。
なんていうか、忠犬を連想した。
「悪い、待たせたな」
「ううん、そんなことありません」
心の底からそう思っているらしく、快晴のような笑顔だ。
ホント、いい子だよな。
かわいいだけじゃなくて、心も綺麗だ。
もしも本当に付き合えたら……なんて、そんな妄想を抱いてしまう。
まあ、無理だろうけどな。
「行こうか」
「はい」
天宮と一緒に学食へ。
ウチの学食は、安くてうまくて量が多い。
大人気で、いつも混んでいるのだけど……
「おっ、ラッキー」
今日は運が良くて、二人分の席が空いていた。
「天宮は席をとっておいてくれるか? 俺、買ってくるから」
「向かい合う、席ですね」
「それが?」
「いえ、その……隣同士の席の方がよかったかな、なんて……その方が、進藤くんをより近くに感じることができますから」
「そ、そうか」
今は大して注目されていないから、そこまでの演技をする必要はないんだぞ?
そんなことを天宮だけに聞こえるように、小声で言うのだけど……
「……演技じゃないですもん」
なぜか、拗ねられてしまう。
……なぜだ?
――――――――――
俺はカツカレー。
天宮はきつねうどん。
向かい合うようにして席に座り、それぞれの料理を食べる。
「ふぅー……ふぅー……あつ!?」
「……」
「はふっ、はふっ……あつ!?」
「……」
天宮は、湯気が立つきつねうどんに苦戦しているみたいだ。
猫舌らしいけど……
「あつ!?」
食べ方が不器用というか……
どこか幼い感じがして、ともすれば年下に見えてしまう。
ただ、そんなところも魅力の一つ。
きつねうどんに悪戦苦闘する天宮を見て、周囲の男子はでれーっとした顔になっていた。
「むぅ……」
そんな男子たちを見て、若干、俺はイラッとしてしまう。
フリだということは、もちろん理解している。
しているのだけど……
天宮のかわいいところは俺だけのものにしたいような、そんな独占欲が湧いてきてしまう。
「大丈夫か?」
「うぅ……熱いうどんにしたの、失敗したかもしれません……」
「天宮、猫舌なんだな。ちょっと意外だ」
「そうなんですか?」
わんこみたいだから、なんてことはさすがに言えない。
「5分くらいすれば、少しは冷めるだろ。それまで、雑談でもしていよう」
「え? でも、進藤くんは猫舌じゃないですよね? わざわざ私に付き合わなくても……」
「そうしたい気分なんだ。いいだろう?」
「……はい、ありがとうございます」
にっこりと、はにかむように天宮が笑う。
その笑顔は、俺だけに向けられたもの。
そう思うと、ついつい胸がドキドキしてしまうのだった。
「熱くて、まだあまり食べられていませんけど……でも、今日のごはんはすごくおいしいです」
「そうか? いつもの学食、って感じだけど……まあ、うまいよな」
「いえ、そういうのではなくて……」
天宮は微笑み、
「進藤くんと一緒だから、おいしいんですよ」
またもや、人の心を打ち抜くような言葉を口にするのだった。
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