10話 どういうことだ?
「どういうことだ?」
教室に入るなり、真司に詰め寄られた。
ものすごく鋭い目をしていて、俺刺されるの? なんてことを思ってしまうほどだ。
「なんだ、いきなり? っていうか、邪魔だ」
とりあえず真司をどけて、自分の席へ。
鞄を机の横にかける。
その間、真司は俺のことをじーっと見つめていて……いや。
真司だけじゃない。
クラスメイト、ほぼ全てがこちらを見ていた。
「どういうことだ?」
真司が追いかけてきて、同じセリフを繰り返した。
「主語をつけてくれ」
「どうして、お前が姫と一緒に登校して……あまつさえ、姫と手を繋いでいる!?」
ああ、なるほど。
そういうことか。
俺と天宮は、手を繋いでいることを隠すことなく……
むしろ堂々として、正門から登校してきたから、目撃者多数。
話が一気に広まり、クラスメイトたち……そして、真司の耳にも届いた、というところだろう。
こういう展開は予想していたが……
ある意味で、予想以上だ。
俺の考えでは、昼くらいに話が広まるかと思っていたが……
まさか、登校した直後には、もう話が広まっているなんて。
さすが姫、というべきか。
「ま、まさかとは思うがお前、姫とつ、つつつ、付き合っているとか……いや、それこそまさかだよな。ありえない話だ。こんな朴念仁が姫に選ばれるなんてありえねーし」
「付き合っているぞ」
「うそだぁあああああっ!?」
「うお!?」
ものすごい勢いで否定されてしまい、思わず驚いてしまう。
「姫が……俺たちの姫が、なんでお前のようなヤツに!? ありえねーだろ!? お前のようなヤツに!」
「なんで今、二回言った?」
「それくらい信じられねーんだよ!」
「お前、俺の友達だよな……?」
「友達ではあるが、それ以前に一人の男として妬ましい!」
コイツと友達やめていいかな……?
「彼女に言いつけるぞ?」
「ゴメンナサイ」
土下座する勢いで頭を下げる真司。
わかりやすい男だった。
「で……マジでどういうことなんだ? 俺の知らないところで、いつのまに姫とくっついた?」
「色々とあって、知り合い、付き合うことになった」
「なんだ、それ?」
訝しげな顔をされてしまう。
しまった。
今の答えは、素っ気なさすぎたか?
いかに恋人らしく見えるか、を考えるだけではなくて、周囲に対する対応も考えておくべきだったな。
怪しまれているというわけではないが……
下手をしたら、一気に疑惑に変わってしまうかもしれない。
どうしたものか……
「あの……進藤くんはいますか?」
「天宮?」
なぜか、天宮がウチのクラスに。
ちょっとおどおどした感じで、教室内を見回して……
俺を見つけると、ぱあっと顔を明るくする。
「あっ、進藤くん」
「どうしたんだ、天宮?」
「えっと、その……二つ、用事がありまして。今日のお昼、もう誰かと約束をしてしまいましたか?」
「いや、なにも」
真司と一緒する確率は高いが、約束をしているわけじゃない。
なんとなくのその場の流れというやつだ。
「じゃ、じゃあ、一緒にお昼を食べませんか!?」
「ああ、いいよ」
「やった♪ あ、ありがとうございます!」
こんな些細なことなのに、天宮は本当にうれしそうな顔をする。
そんな天宮を見て、納得する。
なるほど、これはフリを本物に見せるための策だな?
人目の多いところで昼の約束をして、うれしそうに笑う。
そんなところを見れば、誰もが本物だと思うだろう。
天宮は、なかなかの策士だな。
単純に深く考えず喜んでいるだけのように見えるが、それも演技なのだろう。
「ありがとうございます、進藤くん。お昼休み、楽しみにしていますね」
「学食でいいか?」
「はい。進藤くんと一緒なら、どこでも構いません」
俺たちのやり取りを見て聞いて、真司を始めとするクラスメイトたちは、恨み妬みに身悶えていた。
改めて、天宮の人気の高さを思い知る。
「じゃあ、お昼休みに。楽しみにしていますね」
「あれ? もう一つの用事っていうのは?」
確か、二つあるとか言ってたよな?
「えっと……それは、その……」
天宮は赤くなり、
「……単純に、進藤くんの顔が見たくなっただけです」
「なるほど」
「あと、声も聞きたかったです」
「えっと……」
「あとあと、できれば、頭を撫でてもらえると……」
「……」
天宮がなにか発言する度に、周囲の圧がすごくなる。
それほど深く考えずにフリを引き受けたが……
思っていた以上に大変なことなのかもしれないな。
まあ、天宮のためだ。
泣き言なんて言わず、がんばりたいと思う。
「俺も、天宮の顔を見れてうれしかったよ」
「はぅっ……!?」
「天宮?」
「い、いえ……進藤くんは、ちょくちょく不意打ちをするから、ずるいです」
なんのことだろう?
「じゃあ、昼休みに」
「はい」
手を振り合い、俺と天宮はさようならをする。
そんな俺たちを見て、クラスメイトたちは呪いを振りまくのだった。
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