表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/69

1話 噂の美少女転校生は彼女

 授業終了のチャイムが鳴り、俺は吐息をこぼす。

 本日最後の授業は英語。

 英語が苦手な俺としては、なかなかに辛い時間だ。


 とはいえ、サボるなんてことはしたくない。

 苦手だとしても、全力で取り組むことが学生のあるべき姿なのだ。

 そうだろう?


 あとは、ショートホームルーム。

 それが終われば放課後だ。


「うん?」


 英語の教科書やノートを鞄にしまっていると、教室の入り口の辺りがざわついた。

 先生が来たのだろうか?

 それにしては、やけに早い。

 まだ授業が終わったばかりなのだけど……


 気になり、視線を移動させる。


「進藤くん」


 教室の入り口にいたのは、どこかの国の王女と見間違うほどの美少女だ。

 天宮六花。

 最近、この九条学校にやってきた転校生だ。


 夜空のように鮮やかな黒髪は長く、腰の辺りまで伸びている。

 絹と勘違いするほどにサラサラで、歩くとたおやかに揺れる。


 スタイルは抜群で、高校生とは思えないくらいだ。

 ついつい目をやってしまう男子生徒も多い。

 そして、女子生徒に軽蔑される。


 天は二物を与えずと言うが……

 彼女の場合は三つも四つも五つも与えられているのではないか?

 それほどまでに完成された、完璧な美少女だ。


 故に、最近では『姫さま』と呼ばれるように。


「どうしたんだ、天宮?」


 天宮は、トテトテと小走りで俺の席までやってきた。

 そして、ほんわりと笑う。


「進藤くんに会いたくて……来ちゃいました」


 ほんのりと頬を染めて、優しい顔して……極上のスマイル。

 その笑みに心を撃ち抜かれた隣席の男子生徒が、「ぐふっ」と言いつつ机に突っ伏すのが見えた。


「来ちゃいました、と言われても……なんで?」

「進藤くんは、私に会いたくなかったんですか……?」


 天宮は途端に寂しそうな顔になる。

 それを見た俺は慌てる。


「いや、違う。悪い意味じゃないんだ」

「では……?」

「ただ、一緒に帰る約束をしているだろう? だから、後で問題なく会えるはずだ。今すぐに会う必要性がわからない、それだけなんだ」

「私に会いたくない、というわけじゃないんですね……?」

「もちろんだ」

「よかったぁ」


 心底安堵した様子で、天宮はふにゃりと笑う。

 その笑顔はまたかわいらしく……

 今度は、別の席の男子生徒が心をやられて、撃沈していた。


「その……」


 天宮は、ちょっとだけ拗ねたような顔になる。


「確かに、一緒に帰る約束はしていました。そのことをとても楽しみにしていました。でも……でもですね? 私たち、クラスは別々じゃないですか?」

「そうだな」

「だから、離れている時が寂しくて……ついつい、進藤くんのことばかり考えてしまうんです。進藤くんは、今、なにをしているのかな? どんなことを考えているのかな? 私のことを考えてくれているのかな? ……そんなことばかりです」

「そ、そうなのか……」

「そんなことを考えていたせいか、もう、無性に進藤くんの顔を見たくなってしまいまして……だから、来ちゃいました」


 最後に、「えへっ」なんてはにかみつつ、天宮は言葉を締めくくる。

 本物の姫のような愛らしさに、今度は女子生徒が「なにあのかわいい生き物」と口にして、プルプルと悶えていた。


 男子だけではなくて、女子も虜にしてしまう。

 姫さまは、そのうち堕天使さまになるのではないか?

 そんなわけのわからないことを考えてしまう。


「私の方から迎えに来ても、いいですよね?」


 「だって……」と間に挟みつつ、天宮は言葉を続ける。


「私は、進藤くんの彼女なんですから」


 瞬間、教室内の男子生徒たちの視線が俺に殺到した。

 全員、鋭い目をしていて、殺気が込められている。

 「爆発しろ……」というつぶやきは当たり前。

 中には、藁人形を持ち出すバイオレンスな男子生徒もいた。


 勘弁してくれ……


「進藤くん?」


 クラス内の変化に気づかない様子で、天宮は、こてんと小首を傾げた。

 その仕草が、またかわいい。

 幼さとあどけなさの両方が際立つような仕草で、男女共に心を撃ち抜かれる。


「どうかしたんですか?」

「えっと……いや、なんでもないよ」

「そうですか?」


 「そうそう」と言うと、思い出した感じで天宮が言う。


「今日の帰り道、せっかくだから寄り道をしていきませんか?」

「寄り道か……」

「私、この街に来たばかりだから、よくわからないことが多くて……よかったら案内してほしいです」

「俺でいいのか? 女子には女子にしかわからないことがあると思うし、微妙な結果になる可能性もあると思うが……」

「むぅ」


 天宮はリスのように頬を膨らませた。

 ちょくちょく、子供っぽい仕草を見せるんだよな。


「私は、進藤くんと一緒がいいんです。進藤くんじゃないとイヤなんです。絶対の絶対に、進藤くんがいいんです」

「あ、いや。別に案内がイヤとか、そういうことじゃないんだ。ただ、俺で役に立てるかどうかわからないから……」

「気にしすぎですよ、進藤くんは」


 天宮はほんわりとした笑みを浮かべつつ、優しく言葉を紡ぐ。


「進藤くんのオススメとか、そういうところを教えてほしいんです。進藤くんのことを、もっともっと知りたいから。女の子に必要なお店とかは、また今度、クラスの子にお願いしますから」

「そっか。そういうことなら……」

「あと、微妙な結果になるなんていうこと、絶対にありませんよ」

「え? どうしてだ?」

「だって……大好きな進藤くんと一緒なんですから。幸せになりこそすれ、イヤに思うなんてことは絶対にありえませんよ」


 この瞬間、教室内の男子生徒の殺気が最大限に膨らんだ。


 ただ、俺はそんなことに気づかないほどに、天宮の言葉に心を撃ち抜かれていて……

 ついつい、ぼーっと見惚れてしまうのだった。


「進藤くん?」

「あっ……い、いや。なんでもない」


 危ない。

 ついつい、本気になってしまうところだった。


「あー……コホンッ」


 その時、わざとらしい咳払いが聞こえた。

 見ると、教室の入り口に担任の先生が。


「天宮、ウチのクラスはまだショートホームルームが終わっていなくてな。彼氏に会いたい気持ちはわからんでもないが、もう少し待っててくれないか?」

「……ふぁっ」


 先生の言葉を受けて、ややぽかんとした後、天宮の顔がぼんっと赤くなる。

 自分がいかに大胆な行動をしていたか、今になって自覚したのだろう。


「す、すみませんでしたっ!」


 天宮はその場でぺこりと頭を下げて、タタタッと教室の出口へ。

 そのまま廊下に出て……

 思い出した様子でターンをして、こちらに手を振る。


「また後でです、進藤くん」


 そんな言葉と笑顔を残して、今度こそ、天宮は廊下に消えた。


「おーおー、愛されてるなぁ、進藤」

「……うるさいですよ、先生」


 ショートホームルームが始まる前に、少しの間、先生にからかわれてしまうのだった。

今日だけ、19時にもう一度更新します。

明日からは、12時に一度の更新になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] これが、途中で時を経て再開した小説か・・・。
[良い点] 僕も苦手なものに対して、頑張る姿は萌えます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ