68話 予定? そんなもの無いよ。……ちくしょぉぉっ!
「シルバーウィークよぉぉぉぉっ!!」
またスタートからお見苦しいとこをお見せ致しました。
先輩は部室にある唯一の窓から、外へと向かって叫びを上げていた。そんなにも連休が嬉しいのか、と問いたい所だが、ボクも休みは嬉しいので、恥ずかしい先輩を止めたりしない。
いつもの位置のパイプ椅子に腰掛けて、ボクはなんとなく溜息をついた。
ジェシカ先輩の所有する島へのバカンスから帰ってきて、なんだかんだで夏休みは終わって、そしたらまたこの連休。ちょっと頭がまだ学校モードへと切り替わらないものだ。
「後輩くん、休みよ! またまた休みなのよっ!」
「そうですね」
キャンキャン騒ぐ先輩を適当にあしらいつつ、ボクも窓から外を眺めてみた。
いつの間にかに夏の暑さは引いて行き、まだ死に掛けの蝉が鳴いてはいるが、スッカリ気温は秋になってしまっている。
「シルバーウィークでも、漫才部は年中無休よっ! 力の限り戦い続けるわよっ!」
…………えっ!?
「先輩、もしかして休み無しですか!? ダメですよ、労働基準法で休日の日数は指定され――」
「だまらっしゃいっ! 後輩くん、世の中にはね、休みたくても休めない貧しい人たちだっているのよ!」
なっ!? 先輩がまとまな事を言っている!?
「って昨日のニュースで言っていたわ」
「そ、そうですか」
ボクは相変わらずの先輩に安堵のような諦めのような不思議な感情を抱いた。
先輩は窓の側から離れ、ボクの向かい側にある所定の位置へと着いた。
「ニュースといえば、豚インフルエンザがまた頑張り出してるわよね。この連休でまた流行るのかしら?」
割と真剣な顔をした先輩だった。だから、ボクもそれに相応しい真面目モードで答える。
「多分そうなるでしょうね。なんだかんだで家族で出掛けたりすることが多くなるでしょうし」
「ん~これは学校、そして漫才部の一大事よね」
「なんでそうなるんですか?」
「簡単な話よ!」と言って先輩はバックからノートと筆記用具を取り出した。「つまりね、こういう事になるわけ」
チマチマとノートにシャーペンで文字を刻んで行く。
書き終わったのか、文字を書いたページをボクの方へ示した。
〔みんな旅行に行く→この学校の生徒も旅行に行く→豚フルが生徒の中で流行→漫才部に豚フルの脅威が!?〕
…………別に間違っていないが、なんとも極論である。
「言いたい事はわかりましたけど、それで、どうするんですか? 漫才部でどうやって豚フルを阻止する気ですか?」
ん~、と唸っていた先輩だったが、ボクの後半の言葉で何かが閃いたらしく、頭の上に電球マークを浮かべた。どこから出てきたんだろう?
「そうよっ! 漫才部の力を持ってして豚フルの接近を阻止するのよっ!」
「いや、ですからどうやって? 漫才部にはそんな凄いパワーは無いと思いますよ?」
「何を言ってるの後輩くんっ! そんな消極的な態度ではダメよっ! 世界の終わりにラブソングでも歌うつもりっ!?」
「いえ、豚フル如きで地球が滅びるレベルまで行くとは思えませんが……。それに、この物語は世界で最後のラブストーリーではありませんよ」
「じゃあ世界の終わりにハミングでも奏でるの!?」
「また、マイナーだか有名だかわからないネタを出さないでくださいよ。この小説を某ライトノベルと一緒にしないでください」
「って後輩くん、ネタで遊んでいる場合では無いのっ! いまは緊急事態よっ! 漫才部のフェイズ5よ!」
「いえ、ですから漫才部がどうやって豚フルを阻止するのか、具体的な方法を説明してくださいよっ!」
先輩が、おちこぼれを見るような蔑む視線をボクへと向けてから、またノートに何かを書き出した。
書き終わったものをまた提示する。
〔豚フル殲滅作戦〕
丸秘、と書いてあるがそこまで重要な資料ではないのは一瞬で理解できる。
そこには漫才部による豚フルを広めない方法が書かれていた。ただし、この学校に広めないという方法だった。
作戦内容を簡単に説明すると、こうなる。
シルバーウィーク中、この学校の生徒のみを体育館へと集め、一日中漫才部の漫才を見せる。それにより外出はなくなり、豚フルは広まらない。
なんという拷問だろうか。ボクに対しても、この学校の生徒たちに対しても。
しかし、先輩はやる気満々らしく、
「新ネタを続々投入よぉぉっ!」
と意気込んでいらっしゃる。勘弁して欲しい。というより、万人向けのネタを先輩が用意できるとは思えない。いや、考える前から無理に違いない。
ボクはどうにか先輩の強硬手段を阻止すべく思考を展開していく。
だが、どうにもうまく行かない。
どうやら連日の寝不足が響いているようだ。
くっ……先輩に強制的に見せられている咲のせいで、眠い。あのアニメは、燃えるべきなのか萌えるべきなのか、判断が難しい。ってそんなことはどうでもいいんだ。
ダメだぜ、全然ダメだ。
先輩を止めるのではなく、呼ばれる客の心情を理解するために、
「ここでチェス盤を引っくり返すぜ!」
ボクはチェス盤思考で、詰めにはいった。だが、結論はすぐに出た。
漫才部の漫才を他の用事より優先させて誰が見に来る?
「ははっ……なーんだ」
ボクは、窓から外に向かって、「漫才部の時代到来っ!」と叫ぶ先輩の後姿を見つつ、安堵した。
誰も漫才部の漫才なんて見に来るわけがないじゃないか。
少し胸が痛んだが、大勢の人の前でネタをやるよりは幾分もマシな精神的ダメージであった。
シルバーウィークですって。こんなタイミングに連休……もう少し後に欲しかったです。
さて、部室へとやっと戻って来れました。
このテンションで、適当に書く、これがいいです。
うん、やっぱりストーリーを作るのは苦手です。
当然予定なんて無いですよな今日この頃。