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58話 演技かどうか、その真実は闇の中

「伏線を張りましょうっ!!」


「部室に入ってきてそうそうどうしたんですか?」


「えっ? なんだか推理小説を読んでたら、後になって謎が回収されていくあの感じにたまらない爽快な気分にさせられたのっ!」


 そうやってすぐに影響されるんだから……。

 今日もボクは今一元気が沸かない。夏バテ気味なのだ。

 しなびているボクの横を通って、先輩は所定の位置に着いた。


「という事で、今日は伏線を張るわよ!」


「あの、具体的にどうやって?」


「さぁ……」


 何時もの考え無し、ということか。本当に困るな。


「そ、そんな冷たい目で見ないでよ! もちろん、この伏線遊びも、ツッコミ練習の一環だから、ちゃんと自分の役目を忘れちゃダメよ?」


「ああ、はい」


「よろしいっ! では、後は任せた!」


「えぇ!? ボクにどうしろと?」


「やっぱり殺人事件が起こればいいんじゃないかな。ほら、早く死になさいよ」


「そんな無茶な! これって確かにコメディですよ、ドラゴン○ールみたくきっと主人公が死んでもどうってことないですよ! でも、そんな突然に死ねって言われても……」


「何言ってるの? 後輩くん、死者が蘇るなんて非現実が起こる訳ないでしょ……」


「ってそっち!? そっちなんですか!? しかも、蘇れないの!?」


「うんうん、今日のツッコミはなんだかオーバーだけど、中々ね」


 しまった……乗せられた。恐るべしかな先輩。

 声を張り上げたので、少しだけ気分が楽になったが、先輩にはめられた事を思うと、なんだかブルーだ。


「さて、後輩くん、そろそろ事件が…………あっ! あんな所に都合良く死体が!」


 先輩が指を指して、目を見開いた。また、ツッコミか……。


「そんな事あるわけ……って本当に死体がぁぁぁっ!!」


 部室のテーブルが置いてなく、空白スペースに、金髪の女子生徒がうつ伏せで背中にナイフを刺して倒れていた。制服が赤黒く変色している。


「こ、これは、事件かもしれないわね」


 暢気な先輩に、「もろに殺人事件ですよっ!!」とツッコミを入れつつ、その女子生徒に近づく。

 すぐそばに座って、生きているかどうかを確かめようと、手を伸ばす。


「圭太さん、レディに気安く触れるのはご法度でしてよ」


「えっ?」


 死体が喋った。いや、それはまぁ先輩の遊びなんだから当たり前として……。そういえば、この学校に金髪の生徒など、ジェシカ先輩しか居ないじゃないか!


「ふむふむ、これは、他殺の可能性が……」


 探偵ぶってる先輩。その能力は、発言から察するに皆無だろう。


「あの、ジェシカ先輩、なんで死体役をやってるんですか?」


 プライドの高いジェシカ先輩が、こんな無様とも言える役を引き受けるなんて……。


「ちょうど、死体が主人公の話を書こうと思ってましたの。だから、その胸に抱く気持ちをより深く理解するために、しょうがなくやってるのですわ」


「そうですか……」


 死体が主人公の話ってなんだか物凄く気になる内容だが、まぁ今はいいんだ。きっと、今回の話はこの殺人事件の犯人を見付けるまでは終われない。

 最後に、「死体になりきりますから、声を掛けないようにお願いしますわ」と言ってジェシカ先輩は、呼吸以外の音を立てなくなった。

 そっと先輩の顔を伺うように見上げる。


「うむむ、犯人は、この中に居る!!」


 ってそれってボクと先輩だけではないか。更には、そういう発言するってぐらいだ、自分は可能性の内から除いているのだろう。つまり、ボクしか該当しない?


「ちょっと待って下さい! いつの間にかに現れたジェシカ先輩も謎ですから、きっと犯人だってどこかに瞬間移動するぐらいの能力があるんですよ!」


「いえ、犯人は、この二人の中に居る!!」


 二人? ボクと、先輩? または、ボクとジェシカ先輩?(この場合は自殺も)


「なっ、僕にはちゃんとアリバイがあります」


「ってあなたは誰ですか!?」


 何時の間にやらボクの横に、一人の男子生徒が立っていた。


「僕はできれば、小泉的な立場いいですね。ああ、元総理ではなくいい男の方で。ん? これって阿部さんネタですかね?」


「いきなり現れて何を言い出すんですかっ!」


「何って、それは今後のキャラ位置を決めておかないと不味いと思いましてね」


 随分と著者思いの生徒だった。雰囲気から察するに、多分上級生。ボクが思うに、先輩と同じ二年生だろう。

 その謎の男子生徒は、ボクを見て会釈した。


「紹介が遅れました。僕は、空葉翔そらはかけるといいます。一応は、演劇部部長という肩書きを持っていますが、まあどうでもいいことです。それでは、よろしくお願いしますね、津古溝くん」


 あれ? ボクの名前を知っている? 先輩の知り合いだろうから、先輩の方から聞いたのかな。

 空葉先輩が、握手を求めてる手を差し出してきた。

 それに答えてボクも手を伸ばし、手と手が繋がった。

 長めの黒髪は、学校の規定ギリギリまで伸ばされ、瞳の色はセピアだった。長身で、ボクが見るに線の細いタイプのイケメンだ。


「よろしくお願いします」


 ボクがそう言うと、にっこりと微笑んだ。


「あぁぁ、すべすべな肌ですね。ええ、気持ちいいです」


「えっ?」


 握手する手をやたらとすりすりと擦ってくる。なんだろう、もしかしてこの人も危険人物?


「やはり、顔を見て肌の質を想像していましたが、見事なものです。ええ、たまりませんね。猫の肉球の三レベルぐらい上ですよ」


「いえ、あのどのぐらいのレベルだかわかりませんけど?」


「そうですね、堂本さん的に例えるなら、クリリンと、悟○とべ○ータのヒ○ージョンしたゴジ○タ並みに力量差がありますかね」


「物凄い差ですね……。というか、そろそろ手を離してもらえるとありがたいのですけれど」


 まだすりすりしてきている。それに、ずっと先輩が怖い顔をしてこっちを見てきているのも気になるし……。


「ああ、すみません」


 やっと手を開放してくれた。でも、なんだか恍惚とした表情でボクの顔を見てくるのがなんとも居心地が悪い。どうしよう、やっぱりこの人も変人なのかな?


「津古溝くん、今後も仲良くしましょう。もちろん、性的な意味で」


 ゾゾゾっと何か得体の知れないものが背筋を這い上がった。不味い。本能がレッドサインを示している。


「あ、あのあの、性的な意味というのは勘弁して下さい」


「そうよっ! 既に後輩くんはわたしにラヴなんだからねっ!」


 少し離れた位置でごちゃごちゃと先輩が言っている。それは違う! と否定したいのだが、今は目の前の変質者を優先せねば。

 見ると、なんか指をワキワキと、ダンゴムシの足のように気味の悪い動きをしている。


「まあ、そんな遠慮しなくてもいいですよ。ちょーっとね、十八禁的なあんなことや、こんなことをするだけですから」


「それじゃあ、『小説家になろう』に投稿できる作品じゃなくなりますよっ!」


「我慢は体に悪いですよ?」


「してませんっ! 人を勝手に薔薇の道にいざなわないで下さいよ!」


「否! 僕は両刀使いである!」


「そんなことどうでもいいですって!」


「大丈夫。この学校の八割は両刀使いです。男でも女でもいけますから!」


「宣言するみたく、知りたくも無い現実を見せ付けないで下さい!」


 ボクは行き絶え絶えながらも、全力で拒否という名のツッコミを入れ続ける。まるで、異界が現実を蝕むような、そんな存在の空葉先輩は危険過ぎる。

 変態的にぐへぐへ言ってるのが決め手だ。


「空葉くん! だから、後輩くんに手を出すのはダメって言ってるでしょう!」


 遂に怒りを放出し出した先輩が、空葉先輩に詰め寄る。


「まあまあ、落ち着いてください。僕はきみも愛しているから」


「なっ!? わたしは別に嫉妬なんかしてないわよ!」


 修羅場が展開されている。しかみ、ボクを巻き込んで……。


「知っていますよ。僕が演劇部で活躍し、女子にきゃいきゃい言われている時、きみはCMのチワワのように、くーん、と鳴(泣)いているのを」


「そんなこと断じてありえないわ!」


「いいんですよ。正直に、なっても」


「いつでもわたしは正直よっ!」


「まあまあ、落ち着いて。きみにとって愛すべき存在が僕だけなのはわかります。でもね、僕は多くの女性と男性を愛しているんだ」


 なんだろう。痴話喧嘩? というか、帰っていいかな?

 それとも……もしかして、空葉先輩の行動はすべて演技なのか?

 何も分からない。


 ボクが二人のやり取りを傍観していると、不意に凄まじい殺気を背に感じた。

 そうだ……すっかり忘れていた。ああ、これは、死亡フラグ? いや、バッドエンド確定ですねっ♪ どんなに明るく言っても、意味なんてさ、ないね。

 ゆっくりと、ボクは振り返る。ボクの人生、終了の鐘が鳴る。


「あなたたち、ワタクシを放置して、一体……なにをしているのかしら?」


 あは……。死体が動いた。ダメだよ。ナウシカ的に、まだ早過ぎたんだ、腐ってやがる! とかネタを言っている場合じゃないよ。


「あ、ああ、ジェシカ……あの、ごめんね? ってあれ!? 空葉くんが居ない!?」


 もしかして、はめられた? 空葉先輩にはめられたのか!?


「二人とも、覚悟はできてまして?」


 邪悪なオーラをラスボスばりに周囲へと垂れ流しにし、前に突き出した右手には、黒で四角が描かれていた。

 結○師だったのか……ジェシカ先輩。しかも、正統継承者なのか……。

 スッと、右手で印を組む。


「結!」


 死刑宣告は余りにも短かった。

 ああ、どうか、滅はきませんように……。平に願う所存であります。


 今日の教訓、ジェシカ先輩は怒らせては絶対にダメ!

新キャラでした。この話、本当は44話でやるはずでした。でも、どうにもストーリーが堅苦しくなったので、後で書き直そう、と考えていたら、見事にこんなに遅くなりました。


サブタイトルの通り、彼の行動が演技のかどうかは謎です。いずれ、明かすかもしれませんし、そのまま永久に謎のままかもしれません。

少しだけ、ミステリアスのキャラを考えたのですが、やっぱりただの変人かもしれません。


お菓子が大分値段上がったなぁと思う今日この頃。

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