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56話 七夕、短冊に願いを込めて……

「今日は七夕よっ!! さぁ、願いましょう! あの遥かなる彦星と織姫に!」


「……そうですね」


 相変わらずテンション上げ上げの先輩と、余り乗る気がないボク。うん、何時も通りだ。

 予定調和、マンネリ、そんなことはかまわない。ただ、平和でボクが殴られないオチならば。そうだ。ボクだって妥協したんだ。いや、譲歩? って誰に対して?

 よくわからなくなってきたけど、とりあえずボクは生きてます。


「あぁぁ、願いが叶う! それすなわち、わたしが世界を制す時が来た!」


「それは勘弁してください。もう少し、普通の願い事しましょうよ」


「何よ後輩くん、まるで年寄りみたいなこと言ってぇ。わたしたちは若者よ、前途あり、輝かしい未来が待っているのよ! 年寄りには光り輝く頭しかないわ!」


「そうやって年寄りを馬鹿にしてはダメですよ。少子高齢化が進んでいる今、人口での比率で――」


「難しい話はやめてぇぇ! わたしの脳は4バイト……」


 少なすぎますよ先輩。

 ボクは濁流のごとく迫り来る知識(別に難しいものではないのだが……)に翻弄され、頭を抱えながら悶えていた。そんな様子を向かい側の席からボクは呆れた様子で見る。


「もう、どこぞのパックではないんですから……」


「え!? つまり、わたしは妖精!?」


「いえいえ違います。そんなファンタジーな設定無いですから」


 ひらひらと手を振ってをそれを否定する。

 その対応に先輩が唇を尖らせた。


「ぶぅ〜そうやってぇ! いいじゃない、たまにはロマンチックな妄想……想像したって」


「妄想って言ってる時点で負けですから」


「今日も変なところだけは鋭いわね後輩くんは……」


「いえ、別に」


「まあそんな無駄話はいいのよ! せっかくの七夕なんだから、短冊に願いをつづりましょう!」


 逃げましたね先輩。最近気付いた事だが、先輩がいきなり話を変えるのは、たんに無茶苦茶な時と、自分に苦しい状況を打破するための手段として使う事がある。

 今回のあれは、後者だとボクはにらんだ。いや、別にどっちにしろ逆らえないことには変わりないのだが……。


「短冊ですか……」


 ボソリと呟くと、先輩がボクの前に一枚の色画用紙を差し出した。


「さぁ、思う存分願いを書き留めなさい! 笹ならジェシカが用意するから心配要らないわ」


「そうですか」


 水色の色画用紙を受け取り、ボクはマッ○ーの黒を筆箱から取り出した。

 願い事ね……。

 そんなこと言われてもな……正直困ってしまう。


 書くことが浮かばず、先輩の方を見ると、物凄い勢いでピンク色の画用紙に願いをつづっていた。一体、何を願う気なんだろう? 人類が困るようなことではなければいいかな。


「できたわぁぁ!」


「早いですね」


「ふふん、わたしの願い、それは!」


 不敵に笑みを零す先輩が、ボクへとその短冊を見せ付ける。


〔はやく人間になりたいっ!!〕


「……ってネタですか!! 先輩はどこぞの妖怪人間ですか!!」


 まさか、ここでツッコミのタイミングが来るとは……。少しだけ油断していた。


「べムスター! ベラクルス! ベロリンガ!」


「ええっ!? なにもの!?」


「約して、べム、ベラ、ベロ!!」


「嘘ですよね! それ嘘ですよね!」


「その通り、やっつけよ!」


「胸を張る要素ないですから……」


「最初は、カップラーメンができるのを待ってられないヒーローの敵で、二番目は、メキシコ湾に面する港湾都市のことで、最後は、まあ10歳になったら旅に出される過酷な少年少女成長物語に出てくるピンクのやつ」


「解説お疲れ様です。二番目は……ネタ、無かったんですね」


「それは言わない約束でしょう?」


「すみませんでした……」


 先輩の静かなる恫喝により、ボクは自然とこうべが垂れる。


「まあいいわ。ネタだったのは認めるから、すぐに次のを書くわね」


 鼻歌を歌いながら先輩がまた別の紙に願いを書き込む。

 書き終わったのか、またボクへと提示した。


〔世界がわたしを中心に回るようにせよ〕

〔地球の自転を逆回転にして欲しい〕


「だぁぁぁぁ!! またネタですか! どこぞのハ○ヒさんですか!」


「な、何よ! ちゃんと、私をわたしって変えたわよ!」


「そういう問題じゃないですって!!」


「もうわかったわよぉ……後輩くんはがみがみうるさいわねぇ」


 残念そうに先輩は二枚の短冊をテーブルの上に乱暴に投げ捨てた。

 立っているのに疲れたのか、先輩は一度椅子に座り、気だるげに肘をついて、ぐったりとする。


「ねぇ後輩くん、わたしね、七夕でどうしても忘れられない思い出があるの」


 どこかしんみりと、その当時を思い出すかのように先輩は語る。


「幼稚園に通っていたいた時に、七夕のイベントをやったの。その時にね、園児全員がそれぞれに願い事を思うがままに短冊へと書きつらねたわ。特に夢も野望も無かった当時のわたしは、ただ、『たくさんおかねがほしいです』って書いたわ」


 幼稚園児ですでに金の亡者なのはどうかと思うけどな……。


「それでね、それを笹飾りに結びつけることになって……隣に居た女の子が、笹に結び付けのを見たらね……『おとうさんのしごとがみつかりますように』って書いてあったわ。どうしてかはわからないけど、物凄く心が痛くなったわね」


「聞いててボクも痛いです……」


「他の子にもね、『おかあさんがげんきになってたいいんしますように』とかね、『おにいちゃんとなかなおりできますように』とかね……とっても、優しさに溢れていたわ」


 その幼稚園は、比較的、できた子どもが多かったのだろう。そして、不幸な子が多かったのだろう。いや、それは不幸、と言うのだろうか?


「後輩くん」


「はい」


 澄んだ声。水気たっぷりな瞳。


「わたしはね、思うの。そういう人たちって、やっぱり、きっと幸せなのよね。その当時がとかじゃなくて、幸福な人生なんだと思うの」


 先輩が言いたい事はなんとなくわかる。

 うまく言葉にできないけど、うん……確かに、心から誰かを想えるのは、とっても幸福な人生ではないだろうか?


「そこでね、わたしは考えたわ。七夕の願いって誰が、叶えるのかしらね?」


「それは――」


「だから、わたしの願いは……」


「先輩、ボクが半分書きます。先輩はもう半分をお願いします」


 今から何をしようとしているのか、それを理解したボクは、それに協力することにした。


「……わかったわ」


 先輩が淡く微笑んで答えた。後は、ただピンクの短冊に向かって真剣に一文字ずつ刻んでいく。

 それにならい、ボクも水色の短冊へと文字を、願いを刻む。


 数十秒の沈黙。


「できたわ!」

「できました」


 先輩とボクは、同時にそれをお互いに見せ合う。


〔織姫が幸せになれますように!〕

〔彦星が幸せになれますように!〕


 自然と笑みが零れた。本当に、子どもっぽいことだ。それでも、なんとなく、書きたくなった。




 その後、ジェシカ先輩が、小さめの笹を持って部室を訪れた。

 ジェシカ先輩も書いて、もう一つ書いていい気がしてきた、と言う先輩に従い二枚目を書いた。

 その短冊を飾った。


〔織姫が幸せになれますように!〕


〔彦星が幸せになれますように!〕


〔目指せ小説家、学生デビューですわ!!〕


〔これからも楽しい日々が続きますように! あと、後輩くんのヘタレが直りますように!〕


〔せめて身近な人だけでも幸せな毎日を享受できますように〕


 数は少ないけど、なんとなく見ていて体の内側が、切ない熱を帯びる。それはとても心地良かった。微妙に先輩の後半の願いが、あれだがまぁ今のボクから余裕で許せる。


 あれ? なんだか感動的な終わり方のような……いや、たまにはいいか。

ぎりぎりセーフ! 明日にあと二分でなってしまう!

ということであとがきを書いている暇が! あわわ!


色々とぎりぎり過ぎる今日この頃。

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