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55話 マク○スは別に歌番組ではない

「デカルチャー!!」


 先輩の叫びが暗幕をし暗くなった部室に響き渡る。

 突然でとても見苦しいが、現在、漫才部で映画の上映中である。ジェシカ先輩が持ってきたDVDをパソコンで再生し、それを映写機でスクリーンに映している。


「咲彩。少し大人しくしてほしいですわね」


 ボクの横の席――今は向きを変えているので前の席――に座るジェシカ先輩が騒がしい先輩をたしなめる。

 それを受け、幾分か落ち着いた先輩は席に座りなおした。

 二人のやり取りを見てボクは軽く嘆息する。


 今、上映しているのは、デ○ズニー映画だ。どうやら著者は自殺願望があるらしい。打ち切りになってもなんら困らないボクに止める気は無い。

 とりあえずは、ディ○ニーなわけで、途中にミュージカル的なシーンが入る。そのたびに、先輩は、『デカルチャー!』と奇声をあげるのだ。


 それから数十分後。


「あわ、あわわ……キ、キキキスシーン!? デカルチャー!!」


 また壊れた。セリフ通り、キスシーンに入ったところで壊れた。元ネタはわかるし、先輩がそういうのは苦手だというのはわかる。でも、いい加減、うるさい。


「先輩、あの静かにして下さい」


「だ、だだだだって! この映画、エロいわ! 十八禁よ!」


「どれだけ厳しい基準ですか……。もうほとんどのドラマが深夜帯にしかやれませんよ……」


「わ、わたしテレビっ子じゃないからあ知らないもん! 見るとしたら、アン○ンマンとか、お母さんと一緒とかだけだもん!」


 先輩の精神年齢は見た目通りらしい。


「そんな番組を見ているのは驚きですが、とりあえず! 少し静かにしましょうね」


「あら、圭太さん、ワタクシも見てましてよ」


「えっ……?」


 カタカタカタと首だけを曲げて、ジェシカ先輩を見る。にこやかに微笑んでいた。


「は、はは、そんな冗談はよしこさんですよ」


 衝撃的な事実にボクも少し壊れた。


「ワタクシ、冗談は余り好きではないですわ」


 真剣な顔をしてジェシカ先輩は答えた。

 つまり、本当なのか? あのジェシカ先輩が、アンパ○マンを見て、楽しそうにしているのか? そ、想像できない……。いや、したくない。

 ジェシカ先輩は愕然と少々の失望をするボクに、継ぎ足すようにして言葉を紡いだ。


「わかっていないですわね。アンパン○ンの話は、大人でも楽しめる仕組みになっていますわ。どうして、ああもタイミングよくバイキ○マンが事件を起こすと思いまして? そうですわ。裏でジャ○おじさんと繋がっているという説が一番有力でしてよ。

 ですが、最近新しく出てきた説では、カ○オくん真犯人説というのもありましてよ」


「それ以上はやめてぇぇぇっ!! 子どもの夢をぼろぼろにしないで下さい!」


 全世界の子どもたちのためにボクは全力でツッコミを入れた。


「ふっ……。ア○パンマンの魅力が出来まして?」


「ええ、痛いほどに……」


 本当に胸がずきずきとするのはなんでだろう。

 きっと、知りたくも無い現実を見てしまったときと同じ気分だ。


「とりあえず、圭太さんは今のテレビを馬鹿にし過ぎですわ。最近の仮面ラ○ダーを子どもたちが完全に理解するなど不可能だとワタクシは思っていますわ」


「ま、まぁそれはそうですけど……」


「でも、レンジャー系の番組は劣化しているように思えるのは何故なのでしょうね」


「お金が無いんですよ」


「やっぱり、世の中は……お金、なのですわね」


 ジェシカ先輩の声はどこか寂しげだ。どんな思いがそうさせるのかはボクにはわからないが、お金が最も大切な世界は遠慮したいのは同じだ。

 それ以上会話を続ける気がない様子なので、ボクはまたスクリーンに目をやった。

 どうやらまたミュージカルなシーンのようだ。


「デカルチャー!!」


 やっぱり先輩は壊れていた。それも、さっきより酷い。どうやら、キスシーンによって相当のダメージを負っていたようだ。

 立ち上がりふらふらと部室内を徘徊する。


「あ、あわわ……らめぇぇ……毒電波がわたしを狂わせる〜〜」


「先輩、本当に大丈夫ですか?」


「多分だめぇぇ……」


 ふらふらふら、くるり、ふらふら、ぱたん……。


「…………」


 さっきのボクの説明で理解できたなら非常に楽で済むんだけどな。

 もう許容範囲を超えた毒電波によってぶっ壊れた先輩は、覚束無い足取りで部室内をふらつき、優雅に一回転し、それでバランスを崩したのか、一歩、二歩と歩いたところでうつ伏せで床に倒れた。

 恐らくは顔面から落ちてしまっているので、すぐに先輩のもとへと行く。ジェシカ先輩は、お金かぁ、とまだ凹んでいた。


「先輩、生きてますか?」


 ゾ○ハ病の末期症状のような顔をした先輩が、呻くように言った。


「これからスパ○ボαをプレイする……皆さん…………柿崎は……可哀想だけど途中で死ぬわ……まあ原作通りというわけよ……だから、育てないことをおすすめするわ……」


「あの先輩? 第一次ってプレ○テですよ? 今更プレイするなんて……」


「後輩くん……最後に一言いいかしら……」


 息も絶え絶えな先輩が苦しそうにしながらも微笑む。


「ええ、いいですよ」


「わたしね……後輩くんのこと……」


 心臓が高鳴る。なんでだ? どうして……ボクはなにを……。


「後輩くんのことが…………別に好きでもなんでもなかったわ……ガクッ」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 ボクは吠えた。先輩の亡骸の傍らで、絶叫した。

 そして、ノートにそっとメモをする。


 先輩には、デ○ズニー映画が有効、と……。



 それにしても先輩、どこのゼン○ラーディーなんですか……。

 変な疑問が残ったが、ボクとジェシカ先輩は、床に可愛らしく寝息を立てる先輩を放置し、映画鑑賞へと興じた。

一番最初が好きですね。ミンメイがいいです。

フロンティアはちゃんと見てなかったのでよくわからないですけど……。

ってあれ? また私の年齢が疑われている!?


ゴキブリとの死闘を振り返る今日この頃。

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