52話 フォローはよく考えてからしましょう
「七月ね〜。やっぱり、暑いわ」
試験の力ではなく気温の力により、先輩はぐったりとテーブルに伸びていた。その向かい側に座るボクは、そのだらけた姿を観察していた。
「そうですね」
「ねぇ後輩くん、どうして、七月になってしまったの?」
「知りませんよ」
「そうよね」
「そうですよ」
「はぁ〜〜」
ボクの対応が間違っていたのか、先輩は深く溜息をついた。どう答えれば正解だったのだろう? きっとボクには一生わからない。
「そういえば、七月って何かイベントはあったかしら」
「イベントですか……。七夕とか、そういうのですか?」
「あっ、そうそう! 七夕よ! 七夕! ずーっと考えていて出てこなくって困ってたの」
「漫才部でなにかやるんですか?」
「特にやらないわよ。なに、やりたいの?」
「いいえ、やりたくないです」
「…………」
ジト目で睨んで来る。ちょっと、冷たい対応を続けすぎただろうか。いや、先輩にはこのぐらいの調子で行かないと、いつの間にかにハイテンションへと行ってしまう。
まだ睨んでくる先輩は、唇を尖らせつつ言った。
「後輩くんって……物凄くツンデレよね」
いきなりこの先輩は何を言い出すんだ……。
「ボクはツンもデレも持ってないです。ノーマルです。オールドタイプです。一般人です」
「残念、わたしはニュータイプだから相容れないのね……」
「先輩ってニュータイプだったんですか?」
「そりゃあもう、全盛期のシ○アやア○ロを超えるわ!」
「凄いですね!」
「もちろん、あのお馴染みの、何かに感付いた時の言葉では言い表せないSEが付いてるわ」
「見える! とか言っちゃうんですか?」
「ええ、見える! 見えるぞ! お前の未来がぁぁ!」
「なんかそれ違いますよ……」
どこぞのすぐにやられる中ボスのセリフを吐き捨てた先輩に、少し残念な気がした。
一応お伝えするが、先輩は突っ伏したままで話をしている。どこか声がくぐもっているのは、うつ伏せになっているからだ。
「まあそんなことはどうでもいいの。そう、後輩くんの命ぐらいに」
「酷い……」
「あ、流石にそれは酷かったわね。命の重さは皆同じっていう設定だもんね」
「設定!?」
「ごめん、間違えちゃった……。暗黙の了解だったね」
「え!? なんですかその諦めの心境的な感じ! 命は誰のでも重いですって!」
「そういうのは、偽善者か、裏がある政治家か、ボランティア集団や、どうしようもない馬鹿だけよ」
「ボクはどれなんですか?」
「全部」
衝撃的真実の発覚! ボクはボランティア集団に所属する裏がある政治家のどうしようもない馬鹿な偽善者だった。最悪だぁぁ……。
その真実はボクの生きる気力を奪うのには十分過ぎるものだった。
ガクッと首を曲げ、そのまま床に寝そべる。
「こんなへぼでごめんなさい……」
おいおいと女々しく泣くボクの傍らに先輩が腰を下ろした。
「大丈夫、そんなゴミクズ的な存在の後輩くんの命も同じ重さがあるから!」
「うぐっ」
それが最後の決め手だった。ボクのHP0。
ボクと同じ命の重さ=全人類はゴミクズ。
その方程式が成り立ち、急に向こう側の世界をもう一度見たくなった。
「鬱です……鬱々ってます。あああぁぁぁぁぁ!! ボクの所為で全人類がゴミクズにぃぃぃ!」
もう発狂寸前だ。狂ったように床に指で、『鬱』という文字をなぞる。
「こ、後輩くん!? だ、だだだ大丈夫よ! 後輩くんがゴミクズとか、後輩くんの存在を知っている人のが少ないから、皆自覚無いわ!」
「ぐはっ」
追加ダメージ。ボクのHP−5780。
「あ、そ、そそそそれに! 後輩くんはそもそも人間ではないから、そう! ミジンコだから大丈夫!」
「がはっ」
渾身の一撃。
ボクのHPが−109848に達した。
ボクは、先輩の優しい優しいフォローによって、またあの世を旅した。
まさか……臨死体験をもう一度することになるとは……人生ってわからないなぁ。
こういうミスはした事あります。いえ、悪意は無かったんですよ。
さて、七月ですねぇ。夏本番! そして夏休み! 今年の夏は……大忙しなんですよぉ……。色々とね。
下着で寝ようとしたら怒られた今日この頃。