51話 咲彩の今週の占い! さぁあなたの人生はどれほど歪む?
「あれ? 先輩が本を読んでいるなんて珍しいですね」
ボクが部室のドアを開くと、椅子に座って本を読む先輩の姿が目に入った。
「…………ん〜」
先輩はボクが入ってきた事に気付いていないのか、ん〜何か思案するように唸っている。それを邪魔するのは気が引けたので、ボクは声を掛けず、何時もの位置の椅子に腰掛けた。
バックからブックカバーがされた文庫本を取り出し、読み始める。
そのまま数分が経った。
「ええっ!? 後輩くん、何時の間に!?」
「へっ? 少し前から居ましたけど……」
本当に気付いていなかったらしい。先輩は、目を大きく見開くことで驚きを示していた。
「それなら声を掛けてくれれば良かったのに」
「いえ、読書の邪魔になると思ったので」
「気にしなくていいのよ、これは後輩くんが来るまで暇で、おさらいしていただけだから」
「おさらい?」
「そうよっ!」
先輩は勢いよく立ち上がり、その分厚い本を天井へと掲げた。
「今日は読者サービス!! 気になる今週の運気をわたしが直々に教えてあげるという、素晴らしき企画なのよっ!!」
爛々と輝く先輩の瞳から目線をはずし、手に持つ本へと目を向ける。
本の表紙には、『ズバリ! 貴方のデスティニー! 復刻版』と書いてある。復刻版というにはやっぱり人気があったのだろう。タイトルに関してはツッコミを入れないことにする。
「図書館で借りたんですか?」
「こんな貴重な本が図書館にあるわけが無いわ! ヤ○オクで出したら一兆はくだらない品なんだから……。お宝鑑定なんかに出したら、スタッフが持ち逃げするような品よ!」
す、すごい。お宝かどうか判断する前に持ち逃げとは……。どれだけ凄いんだろうあの本。
「その本の凄さはわかりました……。えっと、どんな内容なんですか?」
「いいわ。特別に後輩くんには教えてあげる」
先輩は一度椅子に座り直してから、本をテーブルに置き、ページを開けた。
それにしても、やっぱり分厚いな。広○苑を越せるのではないだろう。
「どれだけボリュームがあるんですか……」
「このボリュームがこの本の魅力なのよ。だって、人類誕生……いえ、世界が生まれてから、滅びるまでの歴史が刻まれてるの」
「もう占いとかそういう領域を余裕で突破してます……」
「別名、死海○書よ」
「なっ!? 先輩ってまさかゼー、」
「それ以上言ったら後輩くん、戸籍ごと抹消されるわ」
「はい」
なんだか怖かった。
「はいっ! という事で、今週の運気を占うわよ!」
どうやら目的のページを見つけたのか先輩は明るい声で言った。
死○文書の力はいかに!? というかこれって、日曜日にやるべきだったような……いや、気にしたら負けだ。
「まずは、牡羊座のあなた!」
国民的ニュース番組のテンションで占いの内容を読み上げる先輩。
「今週のあなたは、なんだか調子が出なさそう。でも諦めないで、そんなあなたの力になってくれる人が多分居るから。
ラッキーアイテムは、厚手のジャケット」
ちょっと待ってくれ……。これってツッコミを入れないとダメなのか?
先輩へとテレパシー送る。
返答はすぐにきた。先輩の瞳はどんな名刀よりも鋭い眼光を放った。それに対して少しの身震いで応じ、ツッコミのコンディションを整える。
すぅ〜……はぁ〜……。
よし! OKだ!!
「先輩っ! 多分ってなんですか! 希望が湧くようで湧かないですよ! それに、こんな暑い時季に厚手のジャケットって殺す気ですか!」
「ぐーっ!」
必死にツッコミを入れたボクに、先輩は親指を立てた右手で答えた。
「さーって続いて行くわ。次は、牡牛座のあなた!
残念ながら今週は失敗が続きそう。オタクの気持ちを逆撫でしない様に気をつけてね!
ラッキーアイテムは、金」
「オタクのせいで失敗が続くんですか!? 牡牛座ってどんな生活を送ってるんですか! それに、ラッキーアイテムが金って……物凄く、嫌です。なんか、そこに世界の真理を垣間見た気がします……」
微妙にボクは凹んだ。
「さてさて、テンションが落ちた後輩くんをスルーしつつ、続いては、双子座!
喜びなさい! 今週はハッピーの連続よ。ただし、某ライトノベルのハ○ヒ的な意味で。ガチホモな転校生があなたの席の隣になったり、親友が実は宇宙人だったという事実に気付いたり、担任教師が未来人だったりする衝撃のオンパレード! でも、異世界人は現れないから安心してね。
ラッキーアイテムは、あなたに逆らわない男の子!」
「拒否したいような気もするけど実は待ってましたって感じの運勢ですね! でも、ガチホモだけは勘弁! 男子は気をつけようね! それと、これは補足! キョ○っぽい雰囲気の子で、非日常反対派の人は、今週は双子座に関わらないようにしましょう!」
「見事な乗り方ね! 後輩くん、今日は一段と輝いているわ!」
「あ、ありがとうごいざます」
やっぱり複雑な気分がするのは、ボクはどこかしらこの成長を拒否しているからに違いない。
更にノリノリになった先輩は怪しげな占いを続ける。
「はーい! では、次! そう! 蟹座のあなたよ!
あぁぁ残念……。父親がリストラされて、母親が家を出て行って……。そんな感じで悲劇が続くけど、安心して! 人には現実逃避という逃げ道があるから!
ラッキーアイテムは、紙とペン! 遺書は前もって準備しておこう!」
「うわぁぁぁぁぁっ! 先輩! 蟹座が不憫過ぎます! なんですかそれ! 現実逃避って結局解決になってませんって! それに、ラッキーアイテムで余計なことしちゃダメですよ!」
「うんうん〜後輩くんのツッコミが心地良いわ〜。ってところで次! そう、獅子座のあなた!
気を付けて! あの人はすぐに後ろまで来てるわ! そろそろあなたの優しさは自分の首を絞めかねないから、警察に相談する事をお勧めするわ。大丈夫……あの人は純粋過ぎて不器用なだけ、長い時間を掛けてケアしてあげてね!
ラッキーアイテムは、睡眠薬! 不安な時はぐっすり寝ましょう!」
「え!? ストーカー!? ストーカーですか!? 獅子座の人ってそんなに人気者!? しかも結構危機的状況!? ってラッキーアイテムが死を誘う〜……」
「ブルーになった後輩くんはまたもやスルー! さぁ、次は乙女座のあなた!
そんなに頑張らなくても想いは十分に伝わっているわ。だから、少し後をつけたり、荷物のチェックをしたり、ケータイの確認をしたりすのは控えてね! 強引なあなたにあの人も少し動揺しがちよ。
ラッキーアイテムは、拘束具! これを抱きしめれば不安も吹っ飛ぶ! ただし、本来の使用方法で使用するのは控えましょう!」
「えっ……ええ!? 獅子座へのストーカーって乙女座の人!? あわ、あわわわ……怖いよ! 本当に怖いよ! 先輩の言うとおり、拘束して監禁するのは犯罪です。ストーカーも犯罪ですよ」
「はいっ! それでは、次! 天秤座のあなた!
勘違いしないで、世界はあなたを中心に回っている訳じゃないわ。それをよく考えて行動すれば、おのずと仲間は増えるわ。今週は、根気と我慢が大切! ちなみに、英雄とおだてられ調子に乗ると、世界を破壊しかねないから気を付けてね! あ、後、髪を切ってもヘタレ要素は残るからあんまり安心しない方がいいわよ。
ラッキーアイテムは、剣! それがあなたの唯一の取り柄!」
「物凄く個人攻撃ですね。いいえ、別にテイ○ズのル○クだなんて思ってませんよ。ええ、思ってません」
「後輩くんの冷たい視線を浴びながら、続いては蠍座のあなた!
えっと…………えっ? …………あーうん。
ラッキーアイテムは…………あのその……ごめんなさい!」
「え、ええ、えええっ!? 結局何一つ不明!? 先輩、ちょっとそれは!」
「ごめんなさい。わたしには無理……。では、誤魔化す様にして射手座!」
「誤魔化すって言ってる!?」
「射手座のあなたは、なんと運命の選択を迫られます! 二人の人に言い寄られていい気になってはダメ! よく考えて行動しないと、鮮血の結末があなたを待っている! 二股というハーレムエンドを目指すより、健全に一人の女の子を愛しましょう!
ラッキーアイテムは、ババロワ! 別に世界を選べって訳ではないからね!」
「またそうやって……もう! 原作プレイしている人なんてそんなに居ないですから。はい、元ネタを知らない人も、二股は止めましょう! 世の中には、付き合いたいと思っても、誰とも付き合えない不憫な子もいるのです!」
「後輩くんこそ不憫な気がするな〜ってところで、山羊座!
そこ! これを、やまひつじと読んでしまった山羊座の人! 大丈夫安心してね。わたしも最初は読んだから」
「先輩、それ、本当ですか?」
「うるっさい!」
「ゲハッ!!」
ボクは床に転げた。飛び散った赤い液体は血ではありません。赤い絵の具です。
「さて、邪魔が入りましたが、山羊座の今週の運勢は、概ね良好です。何度も失敗を繰り返した結果、あなたは求めたものをついに得られます。更に、ずっと振り向いてもらえなかった人がやっとあなたを見てくれます。それがすべてゲームの事だというのは、あなたがニートでひきこもりだからです。
ラッキーアイテムは、ハローワーク。親に頼るのは止めましょう」
「リアル……」
「死にそうな後輩くんの存在はスルーして、次に行きます! 水瓶座!
クールなキャラのあなた。でも、今週はそんな印象を打ち壊す出来事が多々ありそう。素直に答えないと、ツンデレだと思われてしまうので気をつけましょう。フラグ、フラグ、と言って近付いてくる人にまともな人は居ないので、交際は丁寧にお断りしましょうね。
ラッキーアイテムは、十年前の自分の写真!」
「あの頃は良かった……」
「はい、床で哀愁を漂わせて寝転がる後輩くんはスルーして、ラスト! 魚座!
うんうん、あなたは主人公よ。そう、ちゃんと主人公だからね。安心して、モビルスーツに乗りなさい。ヘタレって言われても、うん、しょうがないの。キラ・ヤ○トがねちょーっとね、強過ぎただけ。えっと、あなたは弱くは無いわ。出る作品を間違えちゃっただけだからね。
ラッキーアイテムは、妹のケータイ」
「可哀想……」
「よーし! 終わり! 以上よ! それじゃあ今日は帰るから、じゃあね後輩くん!」
「…………」
先輩はボクが横に転げたまま放置して、部室に後にした。
ヤバイ……体が冷たい。血が……血が足りない。
あ、ああああ……最後に、蠍座の人の 真実を…………。
見ると、テーブルの上に○海文書が置いたままだった。あんなに大事、と言ったのに忘れていったのだろうか? いや……そんなことは構わない。今は、ただ蠍座の真実……。
ボクは精一杯に力を振り絞り、テーブルまで這って行く。
「着いたぁぁ……」
テーブルの足にしがみ付き、体を起こす。
「なっ!?」
ボクが立ち上がった時、そこにあった死海文○は蠍座のページを開いてあった。
その内容は…………、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああっっ!!」
とボクを発狂させるレベルだったとさ。
その後の記憶が曖昧で今だちゃんと思い出せない。気付いたら、家のベットで寝ていた。
いや、真実なんて考えたくない。これでいいんだ。うん、蠍座のページに書かれていた内容、そんなもの記憶から抜け落ちているけど、二度と見たいとは思わない。
歪む事前提。恐ろしい事です。
長くなってしまいました。申し訳ないです。いえ、長いのがお好きなら寧ろ嬉しいかもしれませんがね。
さてはて、今回のネタ、適当です。まるで占いとか関係ないです。
こんなんでいいのかって感じがする今日この頃。