48話 電波な歌詞の曲はテンポがいいので割と好き
「フィギュアもある意味三次元〜〜♪」
先輩が壊れた。部室の端で蹲り、怪しげな歌詞の曲を歌っている。
なんとも不憫な姿だが、たかが試験ぐらいでどうしてそこまで可笑しくなれるのか、やっぱりボクにはわからない。結局のところ、他人の考えを完璧に理解することなど無理に違いない。
「あの先輩、大丈夫ですか?」
「だめ」
即答だった。そしてまた、歌い始めた。ボクはそれを黙って視聴する。
「あお〜げば〜とうとし〜〜和菓子の恩〜〜♪」
「って先輩!! 和菓子ですか! そこは、先生にお礼を言うところでしょう!!」
「ナイス……」
親指を立てた右手をボクへと向けてきた。どうやら、ツッコミを入れるポイントでよかったようだ。それにしても、元気が無いのか、すぐにそのサインは下ろされた。
死んだ魚の目をした先輩がまた歌を口ずさむ。
「わたしのニーソックスかえ〜してよねっ〜〜♪」
さっきは卒業関係だったが、またアニメやゲームの方に戻ったようだ。
なんだかマニアックな歌詞だな。やっぱり、先輩ってそういうの好きなんだろうな。
「エプロンと〜っちゃいけませーんっ〜〜♪」
……どんな状況の曲なんだ?
ツッコミを入れるべきなのか、それとも黙って聞いているべきなのか、その判断が妙に難しい。やっぱり先輩の知識量はボクの比ではない、到底すべての元ネタがわかる訳が無い。
「一万円と二千円くれたら愛あげる〜〜♪」
あれ? 今度は替え歌だ。ん? これは、ツッコミを入れるべきかな。うん、迷っていてもしょうがない、やろう!
「随分と軽い愛ですね! というかそんな愛いりませんって!」
変化球気味のツッコミを入れた。オプションで手が出てしまうのは、先輩の日々の洗脳教育の賜物である。
グー! と今度は左手でボクのツッコミを褒めてくれた。
サインを下ろしつつ、先輩が口を開く。
「八千円くれたらもっと恋しくな〜る〜〜♪」
「やっぱ軽過ぎですって!」
「うんうん、良い感じね。でも、ネタがちょっと古い! っていうツッコミも欲しかったわ」
どうやらギリギリ合格ラインらしい。ツッコミの道は険しそうだ。
そのどうでもいい険しい道に嘆息しつつ、ボクは先輩に微笑みかけた。
「ボクも少しは成長しましたよね」
体育座りをする先輩が首をゆっくりと横に振る。
「まだまだよ。やっと、おかまになれたぐらいね」
「えっ!? ボクって男にも満たないんですか!?」
「当たり前よ。世の中の男の人が後輩くんなんかと同じカテゴリーに入れられたら可哀想でしょ? まあおかまの人も可哀想だけど……」
ボクはどうやらおかま以下らしい。いつぞやの数学的力関係の図で、五円チョコ以下だったんだ。人間になれただけよしとしよう。
「後輩くんへの評価は、ファン○シースターユ○バースぐらいね」
「それって2006年度のクソゲーオブザイヤーじゃないですか……。P○Pのやつはやりましたけど……えっと、ノーコメントで」
「しょうがないわね。じゃあ、スペ○ンカーくらいでどう?」
「それはそれで悲しいですね。あれって本当にそんなに難しいんですか?」
「知らないわ。でも、著者が持っているらしいの。それでね、『頑張って二面行けたよぉぉ!』って喜んでるわ」
「二面って……」
「しょうがないじゃない。本当にちょっとした段差で死ぬんだから……。『鬼畜過ぎ!』ってゲーム好きの著者がコントローラーを投げ出したぐらいよ。それで、一時期ファ○コンが動かなかったのは秘密です」
「言っちゃってるじゃないですか……」
「大丈夫。わたしは、読者を、」
「それは前に言いました」
「あぅ……。こうなれば、」
「な、何をする気ですか?」
「逃げるが勝ちっ!!」
先輩が立ち上がり、猛ダッシュで駆けて行く。
試験で力が無いはずなのに……。
すると、ボクの心を読んだかのように、
「ふふっ、こういう時のためにエネルギーを蓄えてたのよっ!!」
と言って、廊下を覗いた頃には、その姿は確認できなかった。
なんというか、きっと、今日もボクに勉強漬けにされるとか思って、逃げたのだろう。
「やれやれ……」
ボクは、手に負えない先輩に呆れた。
ふらふらと椅子に座り、黙考する。
「明日は絶対に逃がさないようにしなくては……」
方法が決まったので、そう決意し、ボクもまた部室を後にするのだった。
サブタイトルが私の気持ちだけという、もうそれすらギャグ的な感じの話です。
咲彩と同じく、私も試験によってパワーダウン中……。
それにしても、仰げば尊しって懐かしいな、と書いていて思ったりした。卒業、遠いと言えば、遠い……ってその前に受験だっ! ぎゃぁぁぁ……。
三回回って、わんっ! って言った人を初めて見た気がする今日この頃。