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47話 口は禍のもと、それは寝ていても同じ事!

「後輩くん、世界の半分をあげるから、わたし、三日ほど学校を休んでいいかしら」


「先輩が世界の半分を手中に収めていたのには驚きですが、ボクはそんなものもらっても嬉しくないので、ちゃんと学校に来てください」


「鬼ぃぃ……人でなしぃぃ……」


 まったく先輩は……。

 先輩は、テーブルに身体を突っ伏してグッタリとしている。その理由は、期末試験という余りに(先輩にとって)強大な敵が立ち塞がっているからだ。

 今日からその試験は始まった。なので、本来ならもう午前中に日程を終え、家に帰れている筈なのだが、先輩の曲がった根性により、今日も今日とて漫才部は活動中である。


 ボクもさっさと家に帰って、試験勉強をしたいのだが……。そう思いつつも、この部室に訪れてしまうのは、試験後の先輩が怖いからに違いない。


「しょうがない事ですよ。諦めて、最後まで頑張って下さい」


 こうして、部室に来ても試験期間は先輩に元気が無いので、勉強をしている。ボクは、いったんその手を止め、先輩の方を見た。


「うぅぅぅ……勉強、嫌い……あんなもの、将来使わないわっ……数学なんて不要よ。算数で十分じゃない」


「まぁそこは諦めて下さい。必要ないのなんて、ほとんどの人が該当しますから。でも、仕方が無いのですから、勉強、しましょうよ。今回も赤点を取ると、先輩は苦しいんじゃないですか?」


「その通りなのでムカつくわ。そうよ……わたしは、運動で生きていくわ」


「いえ、勉強からの逃避で成功するスポーツマンなんてきっと存在しませんよ……多分」


「居ないのなら、わたしが第一人者になるわ! そうよ、人類の新たなる一歩、わたしが刻むのよ!」


 テンションが上がってきたようだが、まだ身体は突っ伏したままだ。


「そんなもの刻まなくていいですから。ほら、また勉強は教えてあげますから」


 ボクは席を立ち、先輩の側へと回る。バックから、あらかじめ先輩から教科書を借りて、まとめておいた今回のテスト範囲のノートを先輩の横に置く。


「これをやっておけば、赤点は免れますから」


「い、いつの間に後輩くん……」


 先輩は本当に驚いているようだ。まぁ確かに、まだ習っていない二年の授業内容だというのに、ノートへとまとめたのだから、自分でも言うのも難だが凄い事だろう。家でやることが今は勉強以外に何も無い。だから、そこまで苦ではなかった。


「ジェ○ンニが一晩でやってくれました」


「流石は後輩くんね、寧ろジェバ○ニより優秀だわ」


 先輩が褒めてくれた。多分、ネタを言ったからだ。

 ノートの内容の軽く説明をして、ボクは自分の席へと戻った。


「ん〜ねぇ後輩くん。いくら暇で暇でしょうがなくても、よく勉強にここまでのめり込めるわね」


 勉強が苦手な先輩からしたら、大変な奇妙で興味深い事に違いない。

 しかし、どうしてか、と聞かれても……ボクにはよくわからない。ただ、目の前に教科書があって、必要で、捨てる事はできないから、ただそれだけだったと思う。

 ひきこもり生活の最初は、もちろんゲームをやり続けていたが、その内、どうしようもなく心が空虚になって、それで勉強を始めたのを思い出した。


「切っ掛けがあれば、誰でも勉強への意欲は湧くものです。ですから、無理に好きになろうとするのは、余り意味が無いと思います」


「そんな無理矢理に好きになる気なんて更々無いわ。ええ、断じて無いわ!」


「そこで意気込むのもなんだかダメ人間な気がしますけどね」


「酷いわ後輩くん、人は、勉強が出来るかどうかより大切な事があるはずよっ!」


「なんで感動的ムードなセリフがここで出るんですか……」


 先輩が、まったくぅ、と語尾の『ぅ』を強調しながら呟いた。何故かはわからないが、先輩の事を無性に………………殴りたくなった。


「ってなんでよ!? 後輩くん、そこは普通、抱き締めたくなった、とかでしょ!!」


「先輩こそボクの心を読まないで下さいよ!! それに、そんな冗談を言ってると、本当に抱き締めますよ」


「なっ!? 後輩くんのエッチィィィ!!」


 必死に、床をごろごろ転げながら逃走を図る先輩。芋虫みたいだ。

 そのまま床を転げ、脱出……という所で、廊下側からジェシカ先輩が入ってきて、先輩の腹に見事な蹴りが入った。


「ぐふっ……」


「あら? 何か、足元に……」


 先輩が瀕死状態に陥った。芋虫なだけに、虫の息だ。


「ジェシカ先輩、そんなわざと先輩を踏みつけなくても……」


 ジェシカ先輩は、部室に入るのにわざとさっき蹴った芋虫のお腹を軽く踏み付けて立ち入った。


「ひぎゅぅぅっ……」


 芋虫が可愛らしく鳴く。いや、泣く。


「誰かぁ……わたしをポケ○ンセンターに連れてって……」


「凄いですわ圭太さん、この芋虫、日本語を喋りましてよ」


「大発見ですね」


 先輩の言葉を二人でスルーした。


「うぅぅ酷いわ……まだ瀕死だから、ポケモ○センターに行けばぁ」


「ジェシカ先輩、ここら辺に○ケモンセンターってありました?」


「東京にならあると思いますわ」


「ジェシカァ……リアルなポケモ○センターはどうでもいいのよぉ……わたしはいま、ジ○ーイさんの優しさを欲しているのよ」


 もう死ぬ寸前の芋虫が、必死にトレーナー(?)のボクとジェシカ先輩に懇願した。


「所持ポケ○ンの状態で、『死亡』なんていうのは見てみたいですわね」


 ジェシカ先輩はいろいろと残酷だった。


「それって、なんだかゲームの対象年齢がグッと上がりそうですね。というか、怖いですよ」


「あら、圭太さんは反対ですのね。リアルポ○モンに……」


「反対、というか、これ以上にポケ○ンが問題を起こすのはちょっと……。ポ○ゴン事件だってまだボクの記憶では新しいですから」


「懐かしいですわね。アニメでは登場しませんけど、ゲームは新作が出る度に、進化系が増えますわね」


「あんまり育てる気が湧かないのはきっと仕様ですよね」


「ええ、そうですわね。それにしても、咲彩は今日は妙に静か……あら? そこで何をしてるのかしら?」


 床に寝転ぶ芋虫……って、あ……先輩の存在をすっかり忘れていた。

 ボクはうつ伏せで倒れたままの先輩の横に座り込んだ。軽く肩を揺する。


「先輩、せんぱーい! 生きてますか? 生きてますよね?」


 ゆさゆさ――。


「反応しませんわね」


「ん〜……拗ねてるんですかね」


 ゆさゆさゆさ――。


「先輩! おーい! 先輩!! …………んん? 本当に、どうしちゃったんでしょう」


「圭太さん、もしかして……」


 ジェシカ先輩が顔を真っ青にし、口を開いたままになる。


「……そんな」


 何を言おうとしているのか、それはすぐにわかった。ジェシカ先輩と顔を見合わせる。

 ジェシカ先輩は残念そうに首を振った。

 という事は……つまり、


「すぅー……すぅー」


 先輩は寝ていた。どうすれば、学校の床でこうも無防備に寝られるのか、全くもって理解できない。やはり、先輩の脳の構造は特殊過ぎる。


「帰りましょうか」


 肩を揺するのを止め、ボクは立ち上がった。

 その行動を見て、ジェシカ先輩が目を丸くする。


「咲彩はどうするんですの」


「放置です」


 ボクは即答し、先輩に貸すノート以外の荷物をバックに仕舞い、それを背負う。


「くすくす、圭太さんも意外に遠回しなことをするんですのね」


 クスリと笑みを零し、何も荷物を持たないジェシカ先輩は先に部室から廊下に出る。廊下に出たところで、こちらを振り返った。妖艶な笑みがボクを捉える。


「放置プレイなんて、マニアックですわね圭太さん」


「なっ……」


 すぐに言い返そうとするも、ジェシカ先輩は、軽やかな足取りで廊下を歩いていった。

 放置プレイ……。寝ているんだから、精神的苦痛を伴わないし……そもそもプレイって…………。


「はぁ……」


 ボクは嘆息し、先輩を起こす事にした。

 何時も何時も苦労をかけさせる先輩だ。起きたら勉強付けにしてやろう。それならきっと、ボクが先輩いじめを楽しめて、先輩の成績が上がる。うん、実益が伴うなんとも素晴らしい憂さ晴らしだろう。


「さて、それじゃあ起こしますか……」


 もう一度先輩の横に座り、肩を軽く叩こうと……、


「ひゃっ……こ、後輩くんのエッチ! だ、だから……そうやってぇ女の子に嫌われるのよぉ……全くぅ……わたしが付いてないとダメねぇ…………むにゃむにゃ」


 まだ触れてない。でも、喋った。目を瞑りながら。

 どんな夢を見てるんですか先輩、というかなんですか、何時も付いていないと不安になるのはボクの方ですよ。

 さっきまで芽生えそうだった優しさは、強風にさらされて、見事に根こそぎ消え去った。


「うん、放置プレイで♪」


 明るくそう言い、僕はすぐさま部室を後にするのだった。

またもや……すみませんっ……。

ちょーっと風邪をひいてしまったり、試験が始まってしまったり、と書く暇がありませんでしたぁ。


寝不足&風邪の症状のダブルパンチ! に負けそうになる今日この頃。

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