番外編3 陳腐なイメージの塊なんだけどやっぱり現実もこうなのかな
「ん、んん…………」
ボクは、やけに重い瞼を押し上げて、世界を視認する。
「えっ……ここは」
確か、ボクは先輩の渾身の一撃を受けて、意識が薄れて……それで、気絶したはず。だから、部室で転がっていないとダメなはずなんだ! なのに、なのに……ここは、
「どこなんだぁぁぁっ!!」
仰向けになって見回した世界は、少なくとも部室――屋内ではないことがすぐにわかった。
空がある。
深淵。黒洞々《こくとうとう》たる闇が無限の空に張り付いていた。ここまで暗いというのに、星一つないことが、この恐怖の空間を作り上げているに違いない。
それから目がいったのは、地上だ。地上は、あんなに空が暗いのに、ハッキリと遠くまで見渡せる。
さっきから耳に聞こえてきていた瀬音の正体が目に入った。すぐ近くを、どこまでも透き通った透明の水が、静かな音を立て流れていた。その川は、ボクが見渡せる範囲では、終わりが見えなかった。周りには山一つ無く、平坦な土地が続いている。ということは、相当な長さを持つ川に違いない。
川を見ていると、先輩に殴られたことにより失っていた体の感覚が戻り始めた。
ごつごつと背中が押される感覚がした。その正体、というより原因、それはすぐにわかった。さっき川を見たときにわかったことだが、ボクはどうやら石の上で寝転んでいるらしい。
のそのそと立ち上がる。先輩から殴られた箇所は、痛みではなく熱を感じる。もう少し時間がたつと、この熱さは激痛へと変化するのだ。
それを想像すると、生殺しにされているような気分になって、さっさと痛みへとなってしまえ! と逆に願ってしまう。
立ち上がったことにより、僅かながらに世界が広まった。
といっても、周りの景色はどこまでも同じようで、視界に映る世界に変化は無い。
「……ボクが倒れている間に、一体……何があったのだろう?」
気絶している間に、どこかに運ばれた? まさか、それこそ非現実だ。先輩がそこまで手の込んだ、というより面倒な悪戯をするはずが無いと思うし、やはり、夢なのか?
リアルな感触がそれを嘘だと言う。
見紛う事のないこの現実空間が、これは本当だと言ってくる。
「と、なると……意味がわからなくなる」
ここが現実なら、ボクは、何故ここにいる? 誰が運んだんだ?
ぐるぐる思考が堂々巡りをし、ボクは考えることを止めた。
「とりあえず、歩いてみよう」
そう決めて、どこまでも続く川に沿って歩いていった。
が、すぐに足は止まる。
「なんだろう……あれ」
ボクの前方、そこにたくさんの白装束が居た。なんだろう、どこかで見た事があるような格好だ。
そうそう、死後の世界で……ってええ!?
もしかして……もしかして、ボク死んじゃった!? 先輩に殴られて死んじゃったの!?
もうパニックだ。ホラー映画で錯乱している人以上にパニックだ。ゾンビなんかより、ある意味恐い。だって、死人が歩く世界って……死後の世界じゃないか! ゾンビっぽくないから、やっぱり本当なのか?
やっぱりボク……死んだのか? あんな情けない死因が報道されるのか!?
『今日未明、○○県の××高校にて、宿直の教師が見回りをしている時に、男子生徒の死体が発見されました。その男子生徒は、鈍器のようなもので殴られ、脳震盪を起こし倒れたようです。床に倒れたところで、頭部を強く打ち、脳出血を起こしたようで、それが直接な死因だと見られています』
最初はきっとこう報道されて、次はきっと……女子生徒に殴られて、ってなって、全国の視聴者がボクを情けない男子だと鼻で笑うんだぁ……。うわぁぁぁぁ……。
絶望○生のように、絶望したっ!! と叫びつつ、ボクはorzな体勢になった。
「おめぇさん、死人だろう? ちゃーんとならばねぇと、だーめだぞぉ」
訛り声が、投げ掛けられた。
ボクが顔を上げると、白装束を纏った老人が立っていた。頭には、よく幽霊がつけているような三角形の白い帯が巻かれている。実に貧困なイメージの死人さん代表的な姿だ。
「やっぱり、ボク、死んだんですか?」
「んなこと、オラはしらねぇだぁ。死んでねぇなら、なんでぇ、こんところにおるん?」
「さ、さぁ……ボクが聞きたいです」
「すんぐに人に頼る子は、ダメだぁ」
「すみません」
五分ほどのシンキングタイム。
「やっぱり、わからないです」
「んだば、死神様に聞くしかねぇだな」
し、死神!? やっぱり、鎌持ってる髑髏頭の黒装束? それとも、リ○ーク的なやつ?
ボクはその老人に連れられて、その死神様が居るらしい宮殿に連れて行かれた。歩いて五分で着いたが、見渡した範囲では、こんな豪勢な建物は無かったような気がするが……。流石は死後の世界、常識なんて通用しないな。
「ほんらぁ、ここに、死神様がおるだぁ」
「ありがとうございました」
ボクは老人に丁寧に頭を下げて、宮殿に入っていった。豪華な割には、一人も守衛が居ないのは不思議に思えたが、まぁいいだろう。
「よくいらっしゃいました」
宮殿に一歩踏み入っただけなのに、ボクは既に玉座の前で立っていた。またも、常識という壁を容易く打ち破った。
声の主は、玉座に居る。
淡い白い髪。透き通る雪白の肌。白いワンピース。その、白尽くしの少女の黒の瞳と、赤い唇は妙に目立つ。
少女は呆然とするボクにまた口を開いた。
「死神「A」の1○01○0号」
ボクは横にいる黒猫を見た。羽がある。ってまて、待つんだ。
「面倒だから、モ、」
「それはらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」
ボクのツッコミで世界が揺れた。
そして、強い光に包まれて、世界は消滅して行く。
そうさ、あれ、まんまパクリじゃない。伏字が伏字になっていないし……。
ボクはツッコミをするために生まれ、こうやって死んだ後もツッコミを入れて…………。
これが、ボクの運命…………いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
プツンと意識が途絶えた。
後はただ、黒くどこまでも真っ暗な、世界が出現し、そこにボクは浮いていた。
海面で揺れるくらげのように、ボクはその闇をゆりかごに揺れた。
次第にその揺れは大きくなり、やがて、一筋の光がボクを射す。
光が弾けた。
「……ッッ!!」
余りに強い光に瞼が開けない。
「……くんっ!」
声が聞こえる。
「…………輩くん!!」
あ、この声は……。
「後輩くんっ!!」
「先輩……」
ボクが目を開くと、すぐ目の前に心配そうに瞳を潤ませる先輩の姿が見えた。
部室だ。ボクはちゃんと部室に居た。
先輩がボクを膝枕し、介抱していてくれたのか?
「後輩くんっ! よかったわ、心配したのよ!」
「先輩……先輩ぃ…………」
視界が滲む。ただただ涙が溢れた。
そう、ボクはボクは……ボクはぁ…………。
「先輩、ボク死にたくないですっ! あんなツッコミどころ満載の死後の世界なんて嫌です! もう、し○がみのバ○ットな臨死体験はイヤですっ!!」
情けないほどに泣いた。
先輩はボクの言動が意味不明なのか困惑し、ただ優しくボクの頭を撫でた。
「だ、大丈夫よ後輩くん。あなたは、こうやって生還したわ! まだやるべきことがあるのよっ!」
考えてみれば、向こうに側に行く原因は先輩だ。それを思い出すのは、家に帰ってからだったので、ボクはなんとなく先輩の言葉に感動などしてしまった。
それが、ボクの臨死体験だった。
臨死体験。恐いですね。気絶して、今だ戻らない記憶ならありますけど、死後の世界を見てきたことはないですね。
いや、それにしても……今回の話、余り面白くないですね。ちょっと、圭太をいじめてみたかったので。
後半が、なんだか文章量が減っていったのは、仕様です。なんとなく、しに○みのバラ○トをイメージして書いてみたりみなかったり。
クラーク博士かっこいいですな〜な今日この頃。