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42話 一狩り行こう、それがボクのひきこもり人生の始まりである

「あ、クーラードリンク忘れちゃった」


 さっきから部室がピコピコとうるさいです。

 その騒音の理由はわかっている、先輩がジェシカ先輩と共に、某ハンティングゲームへと精を出しているからだ。


「ダメですわねぇ。仕方ないですわ、余分にありますからさしあげましてよ」


「あ、ありがとうっ!! たまにはジェシカも役に立つわね!」


「ほら、地べたに這って、喜んで受け取りなさい」


「やっぱいらない」


「わがままですわね。3死されたらワタクシも困るんですのよ!」


 非常に騒がしかった。読書へと勤しむボクは、とても迷惑を被っている。

 二人の先輩方は、テーブルの反対側で、向かい合う形で椅子に座っていた。その手には、PS○が握られ、まさに手汗をかいて狩猟をしている。


 どうして発売後、こんなに時が流れたというのに、今だプレイする人間が居るのか。

 別段、軽蔑したり不思議に思ったりはしない。ボク自身もはまっていた時期があったからだ。

 だから、楽しいのはわからなくない。それが、原因して二人を妨害する気になれないのだ。ちょっとでも気を抜けば、命を落とす場面は少なくない。寧ろ、G級などではそれの連続で構成さているようなものだ。


「あっ……何よ、あのラグ! ずるいわ! 突然背後に現れるなんて……」


 先輩の悲痛な叫びが木霊する。見ると、額を膝にあて、今にもP○Pをぶん投げようとする構えを取っていた。その気持ちもわからなくない。

 モン○ンに苦汁はたえない。ボクだって、○SPは二度ほど実際に投げた。


「ま、さっきのはしょうがないですわね。この調子だと今回はリタイアしてやり直しのがよろしいと思いますけど、咲彩、どうします?」


 割と冷静にしていたジェシカ先輩の手は、かすかに震えていた。ああ、きっとゲーム機を叩き付けたい衝動を必死に堪えているのだろう。

 突如、先輩が椅子の上へと立ち上がる。


「断じてそれはダメよ! 日本男児たるもの、敵前逃亡は許されない!!」


「あの、先輩、先輩とジェシカ先輩は一応は女の子ですよ?」


 テンションが妙に高い先輩に、ツッコミではなく、女としての自覚を持ってもらうための言葉を投げ掛けた。

 あの、椅子の上に立つ癖もどうにかしてもらたい。オーバーテクノロジーで相変わらずスカートの中は謎のままだが、非常にこちらとしてはやり辛い。


「「なっ!?」」


 ボクの言葉に、先輩だけではなくジェシカ先輩までも反応した。


「「ちょっと、それはどういう意味かしら?」」


 二人の声がハモる。まるで、バドミントンのダブルスのラリー前に行う、掛け声のようにユニゾンしていた。

 少しだけ、後ずさる。


「一応って、どう意味なのかしら?」

「一応って、一体……どういう意味でして」


 恐い。二人はP○Pをテーブルの上に放置して、ボクへと一歩歩み寄る。


「あ、あの、先輩? ジェシカ先輩?」


 困惑しつつも、生命の危機を察知したボクの体が、自然と後ろ歩きを続ける。


「後輩くん、淑女を男扱いするなんて万死に値するわよ」


「圭太さん、レディを男扱いするなんて、命以外の何ものでも償えませんでしてよ」


 一歩近付かれたら、また一歩下がる。

 それの繰り返しだったが、いよいよ後がなくなった。後ろは、壁だ。


「落ち着いてください! 今更ですが、先輩もジェシカ先輩も物凄い墓穴ですよ?」


「さぁ、なんと事かしら? ねぇジェシカ、こんな生意気な後輩くんは……」


 先輩の袖の中から、流れるようにして手の平に出現したのは、『ベレッタM1934』だった。

 イタリアで開発された、自動式拳銃だ。全長は149mmと小型で、扱いやすい銃で故障も少ない。しかし、手動セイフティは、元々レバーの位置が悪かった上、切り替えの時には大きく回転させる必要があったために操作性がよくない。


 その、黒光りする銃に、ボクは出来ない事は知っていても、後ろへと下がろうとする。空しくも、壁に体を擦るだけだ。


「そうね……。そろそろ、圭太さんの役目は終わりにしてあげますわ」


 ジェシカ先輩の手にはいつの間にかに、『コルト・パイソン』が握られていた。

 グリップの茶色以外の銃身は、ギラリと青黒い鈍光を放つ大型リボルバーだ。その色からして、それが初期生産モデルだというのを理解した。コレクターの間では、相当な額がつくだろう。

 その女性に扱う、いや、並の男でも使いこなすのが難しいその銃を、余裕の笑みを零しながらジェシカ先輩は銃口をボクの心臓へと合わせる。


 基本、ゲームにおいてヘッドショットは有効だ。もちろん、現実でも有効なのは間違いないが、狙いが外れた時の事を考えると、心臓を狙うのが一番だ。それなら、外しても他の臓器を傷つける事が可能だからだ。的は出来るだけ大きい方のがいいのだ。

 長々と語ってしまっているが、そうなのだ……ボクは、マニアだ。もちろん、実物なんて今現在も一度も見たことが無い。


 そうだ、今現在も、だ。

 単純な話である、あの銃が本物である筈がない。

 不敵な笑みを二人へと向けた。


「ボクは、死にません!」


 言ってから、どこかのドラマのセリフぽかった事に気付いたが、今はいいのだ。


「なっ!?」


 先輩がわかりやすいリアクションをしてくれた。きっと、この後はボクを脅して遊ぶ気でいたんだ。ここまで人を恐怖に貶めて遊ぶ性格、いや性癖を持つのはジェシカ先輩くらいだ。


「ふふ〜」


 ボクが睨みつけると、ジェシカ先輩が、わざと視線を逸らした。

 ジェシカ先輩も、先輩も、ボクを甘く見すぎている。そうだ、既に覚醒フラグは立っているのだ。


「先輩の御二方、今日のボクは何時もと違いますよ……」


 漫才部においてのヒエラルキーは今、ボクを頂点へと導いた。

 瞬時にそれを理解したジェシカ先輩が、バックステップで距離を開ける。ふわりと金髪が揺れた。


「……??」


 まだ危機を察しない先輩が、キョトンとして可愛らしく首を傾げている。

 ボクは容赦などしない。

 その先輩の両肩を掴んだ。


「……!?」


 先輩が驚き、ジタバタと抵抗をするが、今のボクはその程度で逃がしはしない。


「こ、後輩くん? なんだか、眼がいっちゃってるわよ……?」


「ええ、今日は思い出したくない過去が蘇って来て非常に不機嫌です」


「それって八つ当たり、」


 ガタンッ! と音を立て、先輩の手に収められていた銃が床へと落ちた。

 言葉を言い掛けたのを止めたのは、ボクの無言の恫喝だ。


「咲彩っ!!」


 ジェシカ先輩が救助へと向かってくるのを、鋭い眼光だけで静止させた。


「ジェシカ先輩は後です。大人しくしていて下さい」


「くっ!!」


 あのジェシカ先輩ですら、今のボクは止められない。

 再び先輩へと顔を向き直す。目の前には、怯えた顔が見えた。


「後輩くん、本当にどうしちゃったのよ?」


「あれだけボコボコにされていて日頃の鬱憤がたまらない筈がないです。それに…………いえ、やっぱいいです」


 すっ……と息を軽く吸い、落ち着いたところで吐き出した。

 それだけで、ボクの両目はキッと見開かれ、より鋭い眼光が先輩を襲う。


「先輩!! 何がラグですか? そんなもの、PS○の稼動音で、すべてを見極めて下さい。ムービーに入る時と、マップ移動のロード音が違うのと同じです。すべてのパターンを理解すれば、モンスターが何をするかなどすべてわかる。その程度が出来ないようでは、一人前とは言えないんですよっ!!」


「後輩くん、そんな無茶な……人間業ではないわ」


 いつも瞬間移動をする先輩らしからぬ言葉だ。


「いいえ、ボクは出来ますから」


「なっ!?!?」


「簡単です。造作もない。半年で会得しましたから」


「後輩くんって……」


 バンッと壁を叩いた。


「ひゃうっ!」


 先輩の肩が大きく揺れる。本当に怯えていた。


「先輩、わかってないですね。ゲーマーたるもの、極める時は極めるのです。100%クリア? そんなものは存在しません。ただの、自己満足です。製作者側の予想を越さない程度で満足するなど……はんっ」


「…………」


「モンハ○もそうです。ノーダメージが不可? 容易いです。改造ネコなどなくても、余裕でソロ狩りですべてノーダメージは可です。現に、成功させましたから」


「(後輩くんののめり込みぐあいって流石に病気的なような……)」


「先輩っ!! 心の声、聞こえてますから!」


「ご、ごめんなさいっ!」


「では、続きを……。そもそもですね、最近のゲーマーもメーカーも普通のゲームに飽きているんです。ハ○ヒ的に言うなら、『ただのゲームには興味ありません!』っていう感じです」


「あの、後輩くん? 物凄くキャラ崩壊、またはキャラぶれしてるけど、大丈夫?」


「もう六月です。きっとボクも五月病を脱しただけですよ。それよりもですね、モ○ハンが任○堂のあの新たに病名を作り上げたゲーム機で新作を出す理由がわかりません。先輩は理解できますか? ボクは、完全にソ○ー派なので、断じてあのW○iは好きになれません。任天○で好きになれるのは、あの名機、6○だけです。Zキーの素晴らしさは、誰にでもわかるはずです。シューティングのゲームは最高でしたよ。個人的に、グラフィックも好きでした。

 元を辿れば、最近の○天堂は余り好きではないですが、そもそもはファ○コンも好きでした。ええ、スーパーではなくて、ファミ○ンの方です。正式名は、フ○ミリーコンピュータですが、まぁそれはいいです。そういえば、ファミコ○ミニとかいうので、随分前にアド○ンスで○ァミコンのソフトが出てましたね。確かに、名作揃いでしたが、きっとほとんどの者が素晴らしさなど理解できないんです。そうです、ドット絵しょぼいとか言いやがるんです。わかていない、最近のゲームは画質とかだけはいいですからね。

 それに関して、バイオハ○ード5の『恐怖の原点は、恐怖の頂点へ』ってなんですか? 起源にして頂点みたいですよ。アカム○ルムですか? まぁそれもまたどうでもいいんですけど、ボクが言いたいのは、恐怖の原点っていうのも怪しいですけど、まぁよしとしましょう。ホラーゲームの代表作ですからね。問題は、恐怖の頂点っていう方ですよ。なんですか、頂点って? ふざけているんですか? ボクはバイオ○ザードの名を語るクソゲーとした思いませんでしたよ? 雰囲気がほとんど残っていない。まぁ4の時からずれていましたけどね。それも置いておくとして、5はクソです。アドベンチャーゲームとして見たら、中途半端。シューティングとして見ても、最低ランク。もう救いようがないです。挙句、ストーリーも詰まらない。ほんと、もう溜息しか出ませんよ。6出すなら、アウ○ブレイクの新作を下さい」


 怒涛の如く語るボクの凄まじい口撃に、先輩は既に半分放心状態だ。

 ぽいっと捨てて、床に転がす。先輩は、『ゲーム恐い』と繰り返し呟いていた。効果は抜群のようだ。

 続いて、ジェシカ先輩の方へと目を向ける。


「け、圭太さん、落ち着いてください」


 怯えが声を上擦らせていた。なんとも情けなくて滑稽に見える。


「落ち着いてますよ。ええ、波打つのを止めた海のように落ち着いてます」


「そ、それは、異常事態でしてよ!」


「大丈夫ですよ。痛くないですから」


「い、嫌ですわ! 確かに痛くはないかもしれませんけど、精神的にとても痛そうですわ!」


「大丈夫ですって……。ただ、少しだけ、ゲーム機を見るのが一時的に嫌になるだけですから」


「物凄い嫌ですわ!」


「あはは、だから、大丈夫……です、よ? ただ、幻聴が聞こえてしまう体になるぐらいですから」


「それはもう病気ですわ!」


「もう、一回だけ、一回だけでいいですから」


「そんな危ない薬を渡そうとするみたいに言わないで欲しいですわね」


「…………まぁいいです。本人に許可を取る必要はないですから」


「大有りですわよ!!」


「大丈夫です。記憶なんて飛んで、ボクにやられた、って部分は欠落しますから」


「圭太さんに得なだけですわ!!」


「わがままですね。大人しく、先輩の後を追ってくださいよ」


「い、いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 部室に悲鳴が木霊した。

 ボクは、横たわる二人の放心状態の先輩を放置し、帰路へとついた。


 廊下をあるいていると、段々と冷静さが戻り、激しい自己嫌悪へと陥った。最初からわかっていたのだ。あれは、八つ当たりだと。でも、現実逃避するには、もう暴れるしかなかった。

 ボクが、モン○ンと出会ったのは、中学三年の時である。

 最初は一日に一回クエストに行くだけだったが、あの事件が起きて……部屋にひきこもるようになってからは、一日中やっていた。


 難易度が高めで、自然と現実の事を忘れられたからだ。まさに、ゲームで現実逃避をしていたのだ。

 逃げの象徴、という訳ではないが、モ○ハンをやっている人がいると、正確には、あの音を聞くと気分が悪くなる。

 別にゲームに罪は無い。ただ、ボクがたまたまひきこもっていた時期にやっていた、というだけの事だ。


「はぁ…………ボクは最低だ」


 少しずつ重くなる体を叱咤し、ボクは永劫と歩き続けなくてはならないような長さに感じる廊下を歩いていった。

長いです。書くのに、二時間も掛かっちゃいました。

あ、昨日投稿できなかったのは別の理由ですけどね……。

さて、ストーリーが大きく動くと共に、圭太が遂にジェシカへと反抗し、勝利(?)しました!

咲彩はなんだか放置されがちですが、どんまいです。


ここ最近は、ストーりーを動かす、というより、二人の過去を少しずつ、それとなく出すのを意識して書いていました。

次回は、多分……凹んだ圭太の話かと。

しばらく凹むか、嘘をつくか、のどっちかになると思います、彼は。


圭太のキャラが初期とは変わり果てているなぁと思う今日この頃。

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