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39話 Aくん、きみは今、どこで何をしていますか

「空が、青いわね」


「そうですね」


「ああ、もう田植えの季節ね」


「そうですね」


 本へと意識を注がせるボクに、先輩がどうでもよさ気な感じに声を掛けてくるので、それ相応の答え方をする。


「植えてあるところ、植えてないところ、ってまだその家ごとなのね」


「そうですね」


「植えてある、植えてある、植えてない、植えてない、植えてない、植えてある、植えてない、植えてある、植えてある、植えてある、埋めてある、植えてない、植えてない、植えてある」


 …………あれ?


「って先輩!? 埋めてあるってなんですか!? 物凄く恐いですよ!!」


 思わず椅子から立ち上がってツッコミを入れてしまった。ダメだ、なんだか先輩色に染められてきている気がする。

 窓から外を眺めていた先輩が、特に表情を変えずに振り返った。


「大丈夫よ、ただ田んぼに犬神家的に人が刺さっているだけだから」


「それって物凄くダメじゃないですか!!」


「そう?」


「なんでそんな涼しげに答えるんですかっ!!」


「夏だからね! ただでさえ暑いのに、それを更に暑くする理由があって?」


「……ない、です(先輩がまともっぽい事を言った!?)」


「って、どこかの偉い人が言っていた気がするわ」


「そ、そうですか(よかった……何時もの先輩だ)」


 そこで会話が途切れたので、一度座り直して息をついた。

 やっぱり、先輩の相手は疲れる気がする。いや、絶対に疲れる。


「ねぇ後輩くん、人って大切なものをどうして簡単にも忘れられるのかしら?」


「……え?」


 先輩の声は、どこか真剣みを帯びていた。窓の外を眺める後姿に哀愁を感じる。


「Aくんは、今、どこで何をしてるのかしらね」


「A……くん?」


 どこかで聞いた名前……というか名称。そ、そうだ! あの、先輩の思い話(16話)で登場する家に泊めてくれたAくんだ!


「あの後、どうなったんですか?」


 その話をした時、先輩は途中で話を終わらせ、最後まで語ることはなかった。正直、どうなったのかは物凄く気になる。


「…………」


 無言。それは、NOという回答なのだろうか?

 ボクからも何も言わずに、数十秒のねっとりとした妙に長く感じられる時間が流れ、やっと先輩は口を開いた。


「Aくんは……きっと、向こうで幸せに笑っていると思うの」


「向こう……?」


 あの喋り方、まさか……Aくんは、もう…………。


「そう考えるのは、罪なのかな? 多大な迷惑を掛けたけど……幸せを願うぐらいはいいよね? それとも、後輩くんは……そういうのウザイと思う?」


「ボクは……」


 中学の時、二人の幸せを願ったから……あの結末になった。かといって、幸せを願う事が罪である筈が無い。いや、あってはならないんだ。


「ボクは、良いことだと思います。きっと、Aくんもそう思ってます」


 振り返る先輩、その目は少し赤かった。


「ねぇ後輩くん、あの後ね、Aくんがすぐ帰ってきて、家族会議になったの」


 あの日の少女の物語が、再び紡がれる。

 先輩は微笑んでいたけど、それが逆に痛々しいと感じてしまう。


「わたしの不用意な発言で、Aくんは両親にとっても怒られてたわ。口を挟もうと思ったのだけれど、ご両親の剣幕が恐ろしくて、萎縮してしまって何も言えなかった。やっとのことで出たセリフが、『Aくんは悪くないんです! わたしが無理矢理に(家に泊めてもらうよう)……頼んだから……』というものだったわ」


 それは、また……誤解が…………。


「そう言うと、Aくんの父親は、『A!! 女の子に庇ってもらうほどダメ人間になったか!!』と叫んだわ。物凄い迫力で、わたし、小さい体を更に小さくさせて、俯く事しか出来なかった……」


 あぁぁ……Aくんが不憫だ。でも、先輩も不憫だ。


「それでも、精一杯に声を張り上げて、わたし……言ったわ。

『Aくんは、とっても優しかったです。ちゃんと、準備もして、何も間違いが起こらないようにした上で、わたしを泊めてくれました』」


 もうダメだ。このままでは、勘違いが解かれる事は不可能な気が……。


「でも……何故か、ご両親は怒ったわ。とても怒ったの。

『最初からそのつもりで家に何日も泊めたのかっ!!』ってね」


 そうなりますね。ええ、多分……ボクもそう思います。


「それで、どうなったんですか?」


「その後は、わたしの両親を呼ぶことになって…………うん、終わり」


「終わり!? また重要なところで!?」


「もちろん! 次回に引っ張るわ! いえ、また、三十話後ぐらいに話すわ!!」


 最後は元気に締め括った先輩だが、やはり……どこか、空元気に思えてならない。いや、実際にそうなのだろう。

 ボクは茶化さずに、ただただ、人畜無害な微笑みを浮かべ、先輩への慰めの言葉を考えた。

物語は遂にクライマックス!

っていうのは、咲彩の話です。ええ、読者の皆さんは、まさかAくんが再登場するとは思わなかったでしょうね。


いよいよ、圭太の過去、咲彩の過去に触れてみたり、触れてみなかったりです。

二人とも、まぁ何かあるんだと思います。


今回の話ってコメディかな? な今日この頃。

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