33話 それが真実かどうかは定かではない
「知ってた、後輩くん! この作品ってプロット無しで、下書き無しのぶっつけ本番なのよ! もちろん、このわたしのセリフも即興!!」
「せ、先輩っ……それは、シーです」
先輩が触れてはいけない暗部へと手を伸ばすのを必死で止める。
「な、なんでよ、後輩くん! 評価が上がるかもよ?」
「上がりません! まぁネタが自然と流れ出てくるのは評価されるかもしれませんが、適当過ぎると、嫌われます!」
「えぇぇ……だって、」
「駄々を捏ねないで下さい。大人しく、普通の話をしましょう」
最後に、「ぶぅ」と言葉を漏らし、先輩はパイプ椅子へと腰掛けた。ボクはそれを確認し、同じくパイプ椅子へと座る。
先輩の漆黒の瞳が寂しげに潤む。
そんなに言いたかったのだろうか?
「あの、先輩? 大丈夫ですか?」
「ダメ……」
「あっ、大丈夫ですか」
「ってえぇ!? どうしてよ後輩くん! ダメって言ってるのよ!?」
「だからですよ」
「えぇ!? 意味が分からないわ後輩くん! というかどうしてわたしがツッコミになってるの!?」
「知りません」
「うぅぅ、酷い、鬼畜よ後輩くん……」
また先輩が凹んで、床を睨みつけながら、ぶつぶつと言い続けている。どこか病んだ人間に見えて恐い。
しかし、心を鬼にして、フォローは入れないことにした。
ボクはバックから、読み掛けの本を取り出し、読み始まる。
数分ぐらいは、落ち着いて読み進める事が出来た。だが、先輩のボソボソと言う声が次第に大きくなっていき、集中力が低下させられる。
「そうやって……後輩くんは…………なんだから」
ページを捲る。
「頭の中ではどこかの生徒副会長みたくハーレムを作ろうとしてるんだわ」
ゆっくりとページを捲る。
「フンッ……後輩くんなんて、ある日突然、異世界に飛ばされちゃいいのよ」
また、ページ……捲る。
「そうよっ! 後輩くんなんかは所詮、この世界ではただのAくんなんだから……」
理性を強く持て! ボクはページを捲った。
「あ、そういえば、Aく○の戦争の漫画版の新刊出たかしら……。ん〜まだ先かな」
…………ページを捲った。
「そういえば、先週のジャ○プ読んでないわ……。帰りに立ち読みしようかな」
………………。
「って先輩! ボクの存在を忘れないで下さいよっ!!」
ボクはねちっこく攻撃してきた割には、漫画の新刊が出てきたかどうかで忘れ去られた事に憤慨した。
すると、先輩は優しげな顔をして、囁いた。
「もう、寂しがりやさんなんだから〜」
甘い声。猫撫で声のように、優しく媚びるような、そんな声。
ボクは決意した。
今日は先輩を全力で無視しよう、と……。
それから十分後、予想通り、先輩が泣きついて来た。もちろん、無視。心を鬼にせずとも実行可能。
一時間もすると、先輩は何も言わず、窓から外を眺め、黄昏れていた。
その姿が余りにも惨めで、可哀想だったが、ボクは無視をするのだった……。
サブタイトルの通り、真実は定かではないのです。
まぁ正直に言いますと、考えている時と、考えていない時があります。
今回の話は、考えてませんでした。(え?)
というのも、定かではないのです。
ふふん、私は一筋縄ではいきませんでしてよ、な今日この頃。