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25話 笑えない時こそ、笑うんだ。いや、無理!

「先輩、昨日のジェシカ先輩は何をしに来たんですかね?」


「知らないわよ、あんな奴の事なんて……」


 先輩とボクは何時も通りに所定の位置となった椅子へと座り、昨日のことについて話し合っていた。

 どうやら先輩は、ジェシカ先輩の事が、嫌い……というよりは、苦手なようだ。


「あの、先輩とジェシカ先輩って友達のように見えましたけど、違うんですか?」


「断じて有り得ませんわね」


「へっ?」


 この声、この喋り方、ジェシカ先輩!?

 ドアの方を見ると、壁にクールな面持ちでもたれ掛かるブロンドヘアーの美女が居た。


「ジェシカ! ま、また、なんで来たのよ!?」


 先輩もその存在に気付いて、憎々しい視線と共に、刺々しい言葉を放つ。


「ふふ〜ん、どうしてか、それはね、昨日……用件を言うのを忘れていたからでしてよ!」


 それって……。案外、ジェシカ先輩もダメな人かもしれない。


「用件なんてどうでもいいわよ! さっさとお家に帰って、DVDボックスの一気見でもやってなさいよっ!」


「特に見たいものが無いのよ。それに、時代はブルーレイよ、咲彩」


「なっ!? なによ、その人をオールドタイプのように見る目は!」


「事実は変えられませんわ……ご愁傷様」


「一々うるさいわね、もう鬱陶しいから帰りなさいよ!」


「きゃ〜恐い。そんな乱暴な言葉遣いをしていると、圭太さんに嫌われましてよ」


「だ、大丈夫だもん! 後輩くんはわたしにベタ惚れなんだから!」


 二人は向かい合ってボクを完全無視の方向で言い合っている。やっぱり、一方的な感じもするけど、仲が良いんだなと思った。

 気になる点と言えば、ボクが先輩にベタ惚れっていう設定になっているところだろう。

 その後も、二人は騒がしくキャンキャン吠え合っていた。


 十分ぐらい経ってからだろうか、やっと落ち着いた二人の先輩は、パイプ椅子へと腰掛け、真面目モードへと入った。


「あの、それで、ジェシカ先輩……用件というのはなんでしょうか」


 まださっきの言い合いで気が立っている先輩に代わってボクは、テーブルの左側の椅子へと座るジェシカ先輩に尋ねた。

 すると、優雅なモーションで金に輝く自分の髪を掻き撫でる。そうしてから、ゆっくりと口を開いた。


「ネタを下さい」


「はい……?」


「ですから、小説のネタを下さい」


 血迷ったのかどうかはわからないが、どうやらジェシカ先輩はちゃんと文芸部っぽい事をやっていて、作品を書く上でのネタが無い、という事らしい。それを漫才部に求めるのはどうかと思う。ネタ違いだ。

 寂しそうに、申し訳無さそうに俯き、僅かながらにも青の瞳は潤んでいた。


「あの、部室の事とかではなくて、ですか?」


「部室なんていうものは、金の力があればどうにでもできますわ。ですけど、ネタというのは想像、そう感性はお金で買えませんの……」


 この言葉から想像するに、相当なお金持ちなのだろう、と窺える。


「ジェシカ、だったらそうやって最初から下手に出てればいいのよ! 後輩くん、そんな傲慢な、」


「部室」


「うぐっ……」


 立ち上がり何かを言おうとした先輩を、ジェシカ先輩は一言で蹴散らした。そこから、この文芸部部室をジェシカ先輩のご好意で借りているのがよくわかった。

 しょぼしょぼと項垂れる先輩はとりあえずは、放っておく事にする。


「あの、ジェシカ先輩、どうして漫才部に小説のネタを求めるんですか?」


「芸人の人は発想が豊かだから素晴らしいネタを持っていると思ったからですわ」


「そうですか……」


 確かにそうかもしれないが、ちょっと違うようにも思える。

 しかし、協力しなくては恐らくは今日中に漫才部は居場所を失う事となるだろう。ボクは駄々を捏ねる先輩を必死で説得し、ネタを共に考える事にした。



 変な方向に話は白熱していっていた。


「だ・か・ら! ジェシカはわかってないわ、そこで主人公が覚醒するからいいんじゃない!」


 先輩がパイプ椅子の上へと立ち、吠える。


「そんな有りがちな展開では、読者も呆れてしまいますわ。咲彩の考え方は古くて参考になりませんわね!」


 それに答えるようにして、パイプ椅子から立ち上がり、床へと立つジェシカ先輩。


「あの、そこは流石に定番の覚醒ではなくて、暴走という展開はどうでしょうか」


 ボクは座ったまま控えめに意見する。


「あら、やっぱり圭太さんのが発想が豊かですわ。咲彩、貴女は芸人失格ですわね」


「やめてぇ! わたしの芸人失格=人間失格じゃない!」


「太宰治が可哀想ですよ、先輩」


「酷いわ後輩くん! わたしの芸を否定したのよジェシカは!」


「いいじゃないですか。もう潮時ですよ」


 ボクは黄昏れるようにして窓の外の夕日を遠く見た。


「ぎゃぁぁ! 後輩くん、そんな自殺願望ありありで更にはわたしを全否定しないでぇ!」


「あらあら、圭太さんもこんなじゃじゃ馬の相手を毎日のようにして、大変ですわね」


 いつの間にかにジェシカ先輩は横に来て、共に遠い眼差しで夕日を仰いでいた。


「ええ、もう毎日が大変ですよ」


「でしたら、文芸部に来ませんか? あんな騒がしいお馬鹿さんの居ない静かで良い部活でしてよ」


 先輩にばれないように目配せをしてくる。それは、先輩をからかうため、と眼が言っていた。


「良いかもしれませんね」


 それに乗り、答えた。


「え? ええっ!? ちょっと、後輩くん!? 漫才部はどうするのよ?」


「…………」


「なんでそこで黙るの? ねぇ、後輩くん?」


「…………フッ」


「あ、あああああ、後輩くんが黒い、真っ黒だわ……。ジェシカ! わたしの後輩くんを染め上げないでよ!」


 子どものようにギャーギャー騒ぐ先輩をスルーし続けていると、もう泣き出しそうになっていた。やっぱり外見も中身を完全にお子ちゃまなようである。

 その様子を見かねたジェシカ先輩が、淡く微笑み小さくなっていく先輩を抱き締めた。


「咲彩、ごめんね。圭太さんが日頃の鬱憤を晴らしたいから協力しろ! て恐い顔をして言うから……その、逆らえなくてワタクシ…………仕方なく」


 そして優しい言葉を……あれ? あれれ? その発言だと、ボクが完全加害者に……。


「そ、そうだったのね。大丈夫、ジェシカは何も悪くないわ。悪いのは全部、捻くれた後輩くんよ」


 抱き締められていた先輩が、今度はおいおいと泣き出したジェシカ先輩を優しく包む。


「う、うぅぅ……ありがとう、ありがとう咲彩……」


 なに、このボクを敵にすることによって生まれたハッピーエンド的な空気。

 先輩から死角となる向きで、ジェシカ先輩はボクを振り向き、含みのある笑みを浮かべた。

 あ……この人、そういう人なんだと納得。そう、ジェシカ先輩は、根っからのサディストなんだ。まんまと弄ばれている訳だ、ボクと先輩は。


 先輩、完全に騙されちゃってるよ、というかこの後ってもちろんボクをボコボコにっていう展開だよね?

 ………………ああ。


 まだ偽感動シーンへと興じる二人をボンヤリと見詰め、僕は逃げる算段を必死に考える。

 それにしても先輩がジェシカ先輩を苦手な理由がわかった気がする。でも、簡単に騙されてるのが、なんとも悲しい話だ。

 文芸部部長、児玉ジェシカ、侮れない存在というのを今日、深く理解した……。

どうやらジェシカは後輩くんの敵なようです。

あ、しょっちゅう出す気はありませんよ。ただ、物語の幅を広げたり、展開のパターンを増やすためにたまに出すだけだと思います。


考えてみれば、この話って部室と、その前の廊下しか舞台となっていないんですよね。

どうなんでしょう……学校を動き回った方が良いのか、それともこの閉鎖空間でやり取りを続けるのか。

ん〜迷いどころですぅ……。


髪が長くなって鬱陶しくなってきた今日この頃。

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