12話 今なら飛べる気がする!
「このおおぞらにつばさをひろげ〜♪」
「いきなりどうしたんですか?」
さっきまで大人しくしていた筈の先輩が、部室内を有名な歌を口ずさみながら、縦横無尽に飛んでいるような気分を味わっている。まぁ、小さい子がやる、両手を広げて、ブーンみたいな感じだ。
その先輩が翼(両腕)をはためかせながら、ボクに視線を送る。
「なんだか、空を飛びたくなったの〜」
どうしたんだろう……。漫才部の存亡が危うくなり、現実逃避に陥ったのだろうか。いや、そもそも存在していないのだけどね、この部活。この部屋も本来は文芸部のものだし。
「相変わらず脈絡もあったもんじゃないですね……」
もう先輩の唐突な言葉に慣れたような気がする。人間の順応性に万歳だ。
「酷いわ後輩くん、ちゃんと切っ掛けがあったのよ? 空を飛○三つの方法、というゲームをやって、」
「先輩!!」
「な、なによ、ビックリするじゃない。突然、どうしたの?」
心地よさそうに空を羽ばたいていた(振りをする)先輩が、ビクッと肩を跳ねらせ、地上へと下り立つ。
「それってエロゲーじゃないですか!! なんで先輩、そんなもんやってるんですか!?」
「えっ……家に置いてあったから。多分、和兄のだと思う」
和兄さんもうダメですね。女子のスクール水着を変更させて職を失ったり、妹の見える位置にエロゲーを放置したり……いや、そもそもエロゲーに手を出す時点で終わっているんだ。
「わかりました、とりあえず先輩の所有物ではないんですね。それを聞いて、少し安心しました。でも、先輩はプレイしちゃダメですよ」
「なんでよ!? 女の子だって、女の人とイチャイチャする男の、」
「いえ、性別の問題じゃないです。年齢の問題です」
「なら大丈夫よ、わたしは後輩くんより一つ上なんだからっ!」
「……ボクといくら離れているかは関係ないです。十八歳に達しているかが関係するんですよ」
「そ、それは不味いわね……。そんなゲームのタイトルを知っている後輩くんが……」
鋭い。今日の先輩は化け物か!?
ってボクが何故知っているのか、それは本当に偶然なのだ。そう偶然なんだ。不可抗力なんんだ。ボクは悪くないんだ。そうだよ、ボクには罪なんかないんだ。なんにも咎められる筈がないんだ。ボクは何も知らないんだ。
「後輩くん? 大丈夫? 今にも暗黒面へと走りそうな怖い顔をしているけど」
「ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない、ボクは悪くない」
「…………後輩くん?」
ボクは部室の片隅で、ぶつぶつと呪いのように繰り返し、なんとか精神を保とうと努力した。
心配そうに覗き込んでくる先輩になんだか罪悪感が湧いてくる。
ああ、逃げたい。
そうだよ……逃げよう!!
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ひゃっ!!」
先輩を跳ね除け、ボクはどこまでも走って行った。そう、どこまでも……。
後輩くんはどこまでも走っていきました。
私は……えっと、エロゲは…………深く追求しないで下さい。まだ未成年なんで……。
空を飛○三つの方法は面白かったです。(え!?)
ああ、今なら私も空が飛べる気がする。PCの前にある窓から……あの空へ……いえ、死にたくないので止めておきます。