11話 触れてはいけない過去と著作権がある
「後輩くん、本を書いて漫才部を宣伝しましょうっ!!」
「……ここがいくら文芸部の部室でもそれは色々と無茶がありま……ぐはっ!」
愛の鉄拳を受けた。いや、愛なんて無い。物凄く理不尽だ。
先輩は苦しむボクを軽くスルーし、自分のバックをがさごそと漁っている。
「あの、先輩? 何をしてるんですか?」
「ふふふ〜、既に本を何冊か書いて来てあるのよ〜」
なんだか嫌な予感が……。
先輩は大量の本――ノートを取り出し、テーブルへと並べていく。
「結構ありますね……」
まだまだ出しているので、とりあえずは並べられた一つを手にとって見てみる。
タイトルが表紙部分に書いてあった。
「『後輩くんとわたしの10の約束』ってなんですか? すごいパクッっている臭いがするんですけど……」
「それは駄作だわ……。約束が本当は100あるんだもの」
「何をそんなにボクとやくそくするんですか!?」
「えーと、」
「いえ、説明しないで下さい。多分ボク、登校拒否になる自信があります」
「ぶぅ〜ぶぅ〜酷いんだぁ! 後輩くん冷たいんだ〜」
可愛らしく唇を尖らしている。本当に勿体無い容姿だ。口を開かなければ先輩は本当は可愛いのだが……まぁボクが好きになるかはまるで別問題であるが。
「まぁいいです。えっと、他には何が……ん?
『漫才タワー後輩くんとわたしと、時々、魔王』ってなんですか? 微妙に東京タワーっぽいですけど」
「あーそれも駄作。魔王がフリーダム過ぎたの」
「ちょっと、魔王って誰ですか? この部活に居ました?」
ボクと先輩以外に部員が居たのか? いや、有り得ない。そんな事断じて有り得て成らない。というか、その入部した人の心が不憫だ。強制的に入らされた場合の不憫さのがましのような気がする。
「ええ、説明してあげ」
「いえ、遠慮します」
そう会話を終了させ、次の本を取る。
「『笑空』……もの凄くシンプルですね。なんだか納得が行きませんが……」
あのケータイ小説ファンの人に殴られる気が……いや、全くの別物だ。気にしたら負けだ。って気になる。物凄く内容が気になる。
「流石は後輩くんね、その『笑空』は中々よ。主人公はなんともないただの女子高生で、それで、友人が二人居て、好きな人ができて、レイプされて、友達に裏切られて、」
「ああ、もういいです。まんまですね……」
「何が?」
「いえ、いいんです。ボクもあれを全部読んだ訳ではないので……」
「??」
先輩がキョトンとしている。本当に知らないのかもしれない。まぁスルーの方向でいいか。
ボクはまた次の本を手に取ってタイトルを確認した。
「『容疑者Xの漫才』……」
「それは、ちょっと失敗したわ」
「一体容疑者に何をやらせているんですか!?」
「彼は、漫才をやらなくては生きていけない体で……。でも実は、人を笑わせないと死んでしまう奇病にかかっていたの」
「ゾナ○病じゃないですかっ!!」
「まぁ、からくりサ○カス的にはそうね……」
「ってこの容疑者ってやつもう一冊ありますよ!?
なんですか、『容疑者Xの剣術』って!? もしかして犯行に使用したんですか!?」
「そう、Xは剣の達人で」
「いえ、内容の説明いらないですって!」
「ぶぅ〜」
「あれ? まだ有りますよ容疑者シリーズ。『容疑者Xは変人』。
先輩〜〜!! いくらなんでもぼろくそにし過ぎですって!!」
「それが最終巻よ!」
「い、いえ、どこら辺に胸を張って誇れる要素があるんですか!!」
「わぁおっ! なんだか今日の後輩くんは随分とツッコミが冴えているわ!!」
「なんか……不本意ですね……」
息が上がってきたので、ボクは一度パイプ椅子へと腰掛けた。
「まぁ後輩くん、そんな貴方にこの本を読ませてあげる」
笑顔の先輩がボクに一冊のノート(本)を差し出してきた。それを微妙に躊躇いながらも受け取る。
そして、タイトルを見た。
「『笑空 〜容疑者Xと魔王と、時々、後輩くん〜』……。
やだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! こんなメンバーに入りたくないです! 時々でも遠慮しまくりたいです!!」
ボクの絶望が木霊する。
って今日は本当に何をしたかったんだっけ…………。
なんだか、ですね。
やっと後輩くんがツッコミに目覚め始めました。
それでは、また……。