10話 縦読みは日本の文化だ!
「そういう事よ……」
「何がですか!?」
「バッキャッろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ぐおっ!!」
向い側で何やら体をウネウネと捻らせる先輩が、唐突に呟いたので、これはツッコミを入れるタイミングっ!! と思ったのだが、即行で殴られた。幸先が悪い始まり方だ。
もう定番になった瞬間移動は気にならないので、とりあえず殴られた理由を聞いてみることに。
「先輩……ちゃんとツッコミを入れたのに……どうして」
目尻を鋭く細める先輩。どうやら機嫌が悪いようだ。
「人の話を聞かない子は嫌いよ、後輩くん。わたしは彼氏にするなら聞き上手な人がいいわ」
……一語一句聞き逃していなかったと思うのだが、もしかして読書の方に集中して聞き取れなかっただろうか? だが、先輩の彼氏になるのは遠慮しておきたいので、
「じゃあこのままでいいです……」
ッッ!! また殴られた。流石にデリカシーの無い発言かもしれないけど、事実なんだから仕方が無い。っとそろそろ分別を付けないとな。
「もうっ! サブタイトルから物語は回り出しているのよっ!!」
初耳だ。そうだったのか。いや、物語の中の人間が、サブタイトルを見れるというのはどうなのだろう……あ、でも、前にサブタイトルへはツッコミを入れた記憶が……。
「す、すみません……忘れていました」
口にする言葉を訂正。
でも、先輩はまだプリプリと怒っていらっしゃる。
「もうっ! 後輩くん、サブタイトルは重要なのよ! この作品の1話からのサブタイトルをじっくり御覧なさい」
言われてすぐに確認するが、ふざけたサブタイトルだな、と思う以外に感想が浮かばない。
「やっぱり後輩くんはまだまだ若いわね……。そんなんじゃ、歴戦の勇者たちに顔向けできないわよ……」
「歴戦の勇者たちって誰ですか?」
「我が校に伝わる、ある意味素晴らしい英雄たちの事よ」
ある意味? 物凄く不安な気持ちが沸々と……。
「その人たちって一体何をやらかしたんですか?」
そう尋ねると、先輩はよくぞ聞いてくれました! と不適な笑みで口元を歪めた。
「一人目の英雄がやった事は特に珍しい事ではないわ」
「な、なんですか……?」
ゴクリ……と、喉が緊張の音を奏でる。
「彼は、十年前の生徒会長で、わたしの歳の離れた兄なの。そして、この学校の女子生徒の体操着をブルマへと変えたのよ!!」
「そ、そういえばこの学校の体操着、すごい趣味の世界でしたね……しかも、女子だけ。ってそれより、先輩のお兄さんがやったんですかっ!?」
「そうよっ!! あの時の兄は満天の星空より輝いていたわぁ……」
なんでそこでウットリするんだ……? 先輩はどこか可笑しい……ってそんな事分かっていた事じゃないか。いや、そもそもどうして十年前に高校に居たんですか!?
そんな事を聞けば殺られる。そう、本能が理解していた。
「そうですか……それで、他の英雄の方は?」
英雄たちって言ったぐらいだ。他にも居る筈だ。
「じゃあ次は、伝説の体育教師よ。彼は、女子のスク水をとても際疾いものへと変更し、自分の職を失うという形になったけど……立派だったわ……和兄さん」
「えーとそういえば、確かに同年代の女性の水着を見るのはただでさえ気が引けるのに、この学校の女子の水着ってかなり……その、危ないですよね。
ってまた先輩のお兄さんですかっ!? しかも職を失ったって……そんな事のために」
「何を言ってるのっ! 英雄なんてすぐに認められるものじゃないわ。後になって皆に認められるの。後輩くんも、女子のブルマやスク水って嬉しいでしょ?」
「い、いえ……ボクはそんなにマニアックじゃないです」
「なっ……まさか、この世界に高校生になってもその二つの魅力に気付けない人が居るなんて……信じられない」
本気で動揺している。先輩の世界認識は少なくともボクとは異なるものらしい。
「いや、ボクの方のが一般的な、」
「後輩くんのバカァっ!!」
「ぐぼっ!!」
神速の豪腕により殴り飛ばされ、ボクは床に転げた。
「もうだから、あのサブタイトルの謎に気付けないのよっ!!」
「だから先輩、その謎ってなんですか?」
「よく見てみなさい……。一番目の文字をっ!!」
「…………まさかっ!?」
「そうよ、後輩くん! 縦読みよ、1話から最初の文字だけを縦読みしていくと、かの名探偵の名言になるの……」
「サブタイトルって凄いですね」
ボクは今日、三度殴られた痛みより、その感動のが大きかった。
もう気付いていた人はいるんでしょうか?
……いえ、どっちでもいいんですけどね。
では、また。
(あ、私はスク水好きです。更衣室で着替え中の友だちをわざと邪魔をして、その着替え中、というシチュを長く堪能します。変態って言わないで……。
私の中学……体操着ブルマにならないかな〜。あ……でもなったら私も着なくちゃならないから……微妙。男子めぇ……)