表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母のおにぎりと、私のおにぎり  作者: 長月 初花
7/8

真実のかけら

新しく登場人物の紹介


父は上島 大地

海里の夫は石野 真人

「何から話そうか…」


いつきおじさんは困ったようで、しばらく黙っていた。


「お母さんの認知症っていつからあったんですか?」

まず気になっていたことを問いかけてみた。すると、思いもよらない回答が返ってきた。

「さっき見せた海里ちゃんの七五三の写真あるだろ?あの写真を撮って、少し経ったある日、いきなり泣きながら電話してきたからどうしたのかって母さんが葉子に聞いたら、道に迷ったと。今交番にいて、この家の電話番号を忘れたから調べてもらってかけてると。」


そういえば、母はひとりにさせるとすぐ迷子になるから外出する時は父か私のどちらかがそばにいないとダメと父に言われたことがあった。

あれも七五三の後…あの時すでに病気だったのを今知った。



「昔からぼんやりしてたけど、迷子なんて初めてだったしうちの番号も分からないなんて葉子にはあり得なかった。母さんは交番に迎えに行ったんだが、場所もうちから一番近い交番でよく行くスーパーからうちへ帰る途中にあるんだ。」

つばさは相変わらず絵本を読み続けていて、ページをめくる音だけが響いた。

「母さんは嫌な予感を抱えながら迎えに行き、うちへ葉子も連れて戻った。結婚して家は違うのに、どうして近くにいたのか、何をしてたのかゆっくり聞いたんだ。そしたらね、今日の夕飯を買い物しようと外に出た。だけどいつものスーパーが思い出せなくなって、ふと思い出したからまた出発した。けれど買い物した後帰り道が思い出せず交番に駆け込んだと。」

いつきおじさんは一口お茶を飲み込み続ける。

「母さんはすぐ海里ちゃんのお父さん、大地くんに連絡してね。夕方頃迎えに来てくれたんだよ。少し話をしたみたいでね、今度母さんが病院に連れて行ってみるって話になったんだ。」

「おばあちゃん、だいじょうぶだったの?」

「その時にね、認知症って診断されたんだよ。」


しばらく、みんな沈黙が続いたがいきなり空気を裂くような悲鳴が聞こえた。


「葉子‼︎」

「おばあちゃん⁉︎」

「すまない、ふたりともちょっとここで待っててくれ。」

そう言って足早に庭に向かった。

私とつばさはいつきおじさんの言うことに従い、待ちつつも様子が気になりこっそり観察していた。


「どうしたんだ葉子?」

「海里が、いないの。大地さんもいない…ここはどこ?ねえ私の海里と大地さんは⁉︎ふたりとも私があんなことしたからいなくなったの?海里どこ?お母さん、お父さんお兄ちゃんどこにいるの…」

「葉子、ここはお前の家だ。父さん母さんは、死んだけど僕はここにいる、海里ちゃんと大地くんは一緒にいるしお前を嫌いになってないよ。」

「みんなどこ…」

ふたりの会話は終わり、母は赤ちゃんのように声を出し泣き出した。

「葉子、少し疲れただろう。みんな呼んでくるから少し寝るのはどうだい?」

「うん、ありがとう。あなたは誰?」

「私はお前のお兄ちゃんの樹だよ。お前の部屋まで一緒に行こうか。」

「うん…」


母といつきおじさんは手をつなぎ、子どもの兄妹が家に帰るように母といつきおじさんは母の部屋に戻った。


「今日は帰ろうか。」

「ママどうしたの?」

「おばあちゃん今体調良さそうじゃないし、また来ようね。」


こんなのは嘘だ。娘としても、母親の身としても、今の母の叫びや涙は重かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ