決意の日 6
「さっきはキツく言ってしまってごめんね。」
「いえ、私もつい…」
「ねえママ、これ子どものときのママ?」
居間に入っていたつばさが見つけたのは七五三で着物を着た私とお父さん、お母さんの写真だった。
「そうよ、私。懐かしい〜」
ずっと昔の写真なのに綺麗に保存されていたおかげか、古さを感じなかった。
「その写真、離婚してこっちに帰ってくる時に「海里とお父さんとみんな幸せそうに映ってるから飾りたい」って言って、それからは父さん母さん私も葉子と毎日その写真に向かって挨拶するのが今も日課になったんだよ。」
離婚し母が家を出たのはこの写真を撮ってからもう少し後ではあったけれど、家族で毎週どこか出かけていたのはこの頃が多く、少しずつ外出が減り子どもながら寂しかったのを覚えてる。
居間は畳が敷いてあり、遊びにいくたびいつも嗅いでいた畳の匂いもかすかなカステラの匂いも全てあの頃のままでタイムスリップした気分だった。
「つばさちゃんだったね、こんにちは。」
「いつきおじいちゃんこんにちは!」
「お母さんに似て美人さんだね、でも鼻はちょっと違うけどお父さんかな?」
「うん、わたしのパパね鼻が大きいの。まほう使いみたいに。」
「つばさちゃんはいくつだい?」
「4才です、いつも元気なのはいいんですけど最近いたずらが多くて。」
「だってママの反応好きだもん!」
「…はあ〜」
「ハハハ、いいじゃないか元気なのは。海里ちゃんも比較的大人しい子だったけど、よく壁にお絵描きしてたじゃないか。」
「そうなの?ママお絵描き好きなの?」
つばさは私が絵を描くところを見たことがないため、不思議そうな顔をしていた。
「うん、昔はよく描いてたんだよ。」
「見たい‼︎」
「いいよ、確かここに…」
居間の棚から出てきたのは、クレヨンや色鉛筆で庭の花や出かけた先で見つけたとんぼなどとにかく目につき気になったものを描きまくった自由帳だった。
それも1冊ではなく、5冊とこの家で描いていた自由帳全てだった。
人生で初めての「マイブーム」だったお絵描きは下手ではあったけど当時携帯で写真を撮ることもできず目の前のキラキラした瞬間を形に残すには私にはお絵描きが一番楽しかった。
「うちの家族はみんな海里ちゃんの絵が大好きでね、七五三の写真もだけどときどきみんなで眺めていたんだよ。」
そう優しい笑顔のいつきおじさんを見て、涙がふと流れた。
母と離れた空白の時間も私のことを思い出し、家族として寄り添ってくれていた。
会うことも連絡をとることさえ許されず、もしかしたらもう会えない運命だったかもしれないのに。
「ママ?」
「ん?ごめんね、いきなり泣いて…びっくりしたよね。」
「つばさちゃん、いまからいつきおじいちゃんお母さんとお話するから良かったら絵本でも読むかい?」
「うん、よむ…ママここにいてもいい?」
つばさは真っ直ぐに私を見て、心配そうな顔をしていた。
「つばさの知らない言葉いっぱい出てくるかもしれないけど大丈夫?」
「うん、いいよ!」
そう言い、カステラとジュースを頬張り、絵本を静かに読み始めた。
第1章、「決意の日」完結です。
スローな更新ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。