決意の日 5
つばさに背中を押された私はいつきおじさんへの電話を済ませ、アニメにいまだ夢中になっているつばさに声をかけた後、支度を始める前にタンスから一着のワンピースを出した。
「大きくなった海里に似合うよ。」と昔、母がくれたワンピース。母似の私は父にも驚かれたけど、身長や後ろ姿など、とにかく母と似ていてワンピースもピッタリだった。
アニメが終わり、準備が終わったつばさを見ているとまた少し身長が大きくなったような気がした。
子どもの成長は早いって言うけどお母さんもこんな風に思ってたのかな。
時刻は13時。
雲ひとつもない天気のなか、つばさと手を繋いでさっき流れていたアニメの歌を一緒に歌いながら歩いた。
普段歩く道なのに、今日は道も景色もキラキラしているような気がした。
電車に乗り、約15年ぶりの母の実家に着いた。
「ママ、わたしがいるからだいじょうぶだよ!」
「…うん、ありがとう。」
緊張からか、つばさの手を強く握りしめていた。
ピンポーン
懐かしい音だ、よくこの家に来ていた頃はまだインターホンに届かなかったんだっけ。
「はーい」
ガラガラッ
引き戸のドアを開けたのは、
「やあ、ふたりともおかえりなさい。」
相変わらず黒縁メガネで優しい笑顔だけど、シワや白髪が増えたいつきおじさんだった。
「いつきおじいちゃん、わたしはじめましてだよ?」
「君がつばさちゃんだね、海里ちゃんの子どもならもう私にとっても大事な家族なんだよ。お菓子とかジュースもあるし、玄関で立ち話もなんだから上がりなさい。」
いつきおじさんはつばさの身長に合わせかがみ、優しく頭を撫でた。
つばさは一瞬緊張していたものの、すぐ「うん!」といつきおじさんに懐いた。
「海里ちゃんも、どうぞ。」
「はい、お邪魔します。」
電話と違い、目の前のいつきおじさんは15年の歳月で年はとってしまったけどあの頃と変わらない優しさに安堵した。
居間に向かう廊下をいつきおじさんとつばさの後ろを歩くと、中庭が見えた。
今は亡くなったおばあちゃんが花が好きで、中庭に行ってはよく花の話をしてくれていた。
そんなおばあちゃんと後ろ姿がよく似ていて、小さく鼻歌を歌う姿があった。
その歌には聞き覚えがあった。私が小さい頃大好きだった子ども番組で流れていたオープニングで、毎日母と歌っていた。
「お母さん…!」小さく呟いた私は中庭に出て母に声をかけようとするも、
「海里ちゃん、今はまだダメなんだ。葉子は花を見ているときは母さんとお喋りする時間なんだ。今邪魔したら機嫌を悪くしてしまうから、花を見終わってからにしてほしい。ごめんね。」
私を中庭に出させないよう手を引いたおじさんは優しくも、苦しそうに話した。
「ごめんなさい…」
「いいんだ、とりあえず居間でゆっくり話すよ。海里ちゃんの好きなカステラもあるし、おいで。」
子どもの頃ずっと大好きだったカステラを、いつきおじさんは用意してはおかあさんに「また海里に甘い〜」って怒られてた。
「ありがとう、いつきおじさん…」
楽しそうに花を見続ける母を置き、居間に入った。