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母のおにぎりと、私のおにぎり  作者: 長月 初花
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決意の日 2

2ヶ月ほど前、娘のつばさは誕生日を迎えた。

夫と一緒にケーキや可愛い洋服、前から欲しがっていた靴など我ながら多いなと思うプレゼントを買い、義理の両親や私の父も参加しお祝いした。

つばさは喜んでくれて、私も愛しい娘の成長が嬉しかった。


けれど、こんな特別な日にはいつも同じことを考えてしまう。

もし、お母さんがここにいたらどんなふうにお祝いしていただろうと。

母はイベントや記念日を大切にしている人で、特に私の誕生日はいつもこだわりの料理とプレゼント、ある年にはドッキリのようなものもあった。


母親となり新しい家族とも、お父さんとも仲良く幸せな日々を過ごしていても、ふとした時頭の中にはお母さんを思い出し、「会いたい」と願ってしまう。


「ママ?」

「ん?」

「ママももうすぐ誕生日だけど、欲しいものある。パパとおじいちゃんおばあちゃんには内緒にしてあげるね。」

耳元でコソコソと話す姿は、いたずらするときのようにニヤニヤしていて可愛い小悪魔のようだった。

「ん〜ママはね…」


いつもはこんなこと人には言わないのに。思っていても隠すのに。


「お母さんに会いたいかな。」

「お母さんって、ママのママ?」

「そう、つばさがまだ会ったことのないおばあちゃんだよ。」

「わたしも会いたい!」


「ん?どうしたんだふたりでコソコソと。」

「ないしょ〜!」

「俺だけ除け者なんてずるいぞー」

なぜすぐ話さなかったのか分からなかったが、あまり大きな声では言えない内容だったので無意識のうちにホッと胸を撫で下ろした。


それから、私はかつてよく遊びに行っていた母方の実家に電話をした。

離婚してからは父から実家への連絡も禁止されていたので、15年ぶりになる。

電話には聞き覚えのある、母の兄であるいつきおじさんが出た。

「もしもし?」

「もしもし、森下さんのお宅でよろしかったですか?」

「はい、そうですが。」

「わたくし、石野 海里と申します。旧姓は」

と旧姓を名乗る前にいつきおじさんは

「海里ちゃんかい?」

「…はい。」

「久しぶりだね、随分声が大人になって…15年ぶりだもんね。」

電話越しでも、いつきおじさんの顔が想像できた。

いつも遊びに行くと笑顔で迎えてくれて、母の兄らしくサプライズが好きでマジックでお菓子をくれるお茶目ないつきおじさんが大好きだった。

きっと今も、そんな優しい笑顔な、そんな気がした。


「いつきおじさんはお元気でしたか?」

しかし緊張して、つい敬語になってしまう。

「元気にしているよ、父と母は亡くなってしまったけどね。」

「はい、父から聞いています。」

「そうか、お父さんに伝えておいてよかったよ。」



数年前、まだ独身で会社勤めをしながら一人暮らしをしていたとき。

昼休憩で同僚の子とランチをしているとメールがきた。


久しぶり、元気にしてるか?

突然で申し訳無いが、お母さんのお父さんとお母さんが亡くなったんだ。

ふたりで旅行に行ってたんだが、地震に巻き込まれてね。

いつきおじさんから連絡がきた。

葬式には行かせてあげられないけど、お前の分の香典も出しておくよ。

たまには、返事を返しなさい。



あまりに突然な話で携帯をじっと見ていた私に、「大丈夫?」「何かあった?」と声をかけてくれたが、

「なんでもないよ、大丈夫。」とだけ伝え、その日定時で帰った私は香典をすぐ用意し、実家の父に香典を渡しすぐ帰った。

当時全国ニュースにもなった海外の地震で、毎日報道されていたのを覚えている。





「あの時は香典ありがとう。」

そして、おそらく葬式に出られなかったのは私が母に会うのを防ぐためなのかと、父に再び怒りがこみあげたのも覚えている。


「いえ、おじいちゃんもおばあちゃんも大好きでしたから…」

「あの、いつきおじさんに聞きたいことがあって。」

「何だい?」


電話越しであっても、母のことを聞くのは勇気が必要だった。

今まで何度も父に聞いても、会いたいと言っても聞いてくれず何度も喧嘩した。

こんな風に母の実家に行くことも禁止されいつしか諦めようとていた。

しかし、諦めきれなかった。理由も言わず、「バイバイ」と告げ消えていった母のあの言葉の意味も。

涙を流しながら、笑っていた理由も。


「お母さんは、元気にしてますか?」



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