あの子の特別になりたい
私は誰かの”特別”にはなれない。
ブスでもなければ可愛くもない普通の容姿。
学力も良いか悪いかで言えば悪いし、運動神経もかなり悪い。
私が在籍しているのは女子校だ。クラスでも下のカーストに位置している。周りには地味な子だと思われているだろう。
性格も良くない。卑屈で信頼も無い。
本当に私はなんの取り柄もない。
…でもそんな私とは正反対の女の子がいる。
その子は伊月美影。私の幼馴染だ。
まるで漫画から出て来たような美少女。スタイル抜群で背も高く、どんなモデルも裸足で逃げ出す。
しかも文武両道で、先生からも期待される優等生。
そんな彼女は王子様気質で、女の子に優しくお姫様のように扱うのだ。紳士のような言葉使いで数々の女子を虜にして来た。まさにカースト制度ではトップの存在なのだ。
周りには私と美影が幼馴染だと気付かれていないだろう。もしもバレたら、美影と比較されるに違いない。嫌だ。惨めな思いはしたくない。私とアイツは真逆なのだ。なにもかも。私はアイツにエゴのようなものを抱いている。誰からも愛される完璧な女の子。なんの不自由すらない。羨ましい。
でも私はあの子の秘密を知っている。誰も知らない。私だけが知っている秘密。
ほら、またいつものように愛想良い笑みを振りまいている。周りの女子生徒もうっとりしている。誰からも愛されるあの子。そんな子が抱える秘密。私はその秘密のお陰で優越感を得ることができるのだ。
あ、こっちを見た。多分これはいつもの合図だ。
私は教室を離れて屋上へ向かった。屋上を利用する者はこの時間帯はほとんどいない。
あと少しでアイツもこちらに来るだろう。
誰かの特別になれる女の子は誰の特別にもなれない私を哀れんでいた。私はそんな彼女につけ込んだのだ。
彼女が私をどう思ってるかなんて知らない。きっと嘲笑っているのだろう。
お前のせいで私は比較されるのだ。お前のせいで私はこんな卑屈になったのだ。
だから、いっぱい、慰めてよ。
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私には幼馴染がいる。とても可愛い幼馴染。その子の名前は山田優香。普通の女の子。
多分彼女は私のことを嫌っている。顔には出さない。でもわかる。彼女は誰かの特別になりたがっていた。だけど私と比較されるから、それはいつだって叶わない。私が愛されるからだ。どんなに彼女が変わろうとしても私のせいで彼女は誰からも愛されなかった。
でもそれで良い。
彼女は私だけを思っていればいい。それがエゴでもなんでもいいのだ。私はあの子を愛している。
”あの子しか”愛せないのだ
昔からそうだった。誰からも愛される私は誰も愛することが出来なかった。
でも、そんな私にも1人だけ愛せる女の子がいた。
その子が優香だった。
彼女は私が誰も愛せないことを知っていた。
でも唯一の私が愛している子だとは知らない。言う必要も無かった。
そんな彼女は私が哀れんで慰めてくれていると思っているらしい。うん、確かに間違っていない。可哀想な優香がすごく可愛い。私しか相手にしてくれないから、嫌いな私にすがるしかないんだよね?可愛い、可愛いよ。
そうやってた私だけの”特別”でいてくれればいい。
でも優香はずっと気付かないんだろうなぁ。こんなドロドロのぐちゃぐちゃの感情を知ったらどう思うだろう。もっと私のことを嫌いになるかな?それも良いな。だってあなたには私しか愛してくれる人がいないんだから。誰にも渡してなんかやらない。
優香と私しかいない屋上に私たちの口から漏れ出す吐息と水音だけが響いていた。私がしつこく舌を絡めるものだから優香は苦しそうだ。目が虚になってきた優香を見ていったん接吻をやめた。
優香は息苦しそうにハアハアと呼吸を整えている。
私はそんな美影を抱きしめた。そして制服に手を掛けた。
「優香…愛してる」
彼女は私を疑心に満ちた瞳で見つめた。
「…私は…嫌いだよ…」
それで良い。愛してる。私の、私だけの優香。大丈夫。わたしが愛してあげるよ。可哀想な優香は私だけの特別。ああ、可愛いよ、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。