怨霊の導き
この話は、わりと残酷な表現があります。
苦手な方は飛ばしていただいて結構です。
ちなみにこの話が今のところ最高にえげつないです。
間章 vs怨霊
「ここだ」
ヘラがムジナを連れてやってきたのは、シフに行かせている学校だ。
しかし、悪魔一匹、誰もいない。
「ここは……トイレ?」
「お前……ついこの間シフを連れてきただろ……って覚えてないか」
「トイレの花子さんのところだよな」
「そう。ドアを破壊しただろ?あそこが霊界と繋がっているところだったんだ」
「なんだと?!」
「さぁ、入るぞ!」
ヘラは何か焦っているのだろうか、トイレの中に渦巻く黒い穴に飛び込んでいった。
ムジナも後を追って飛び込んだ。
「あれを見ろ」
先を進んでいたヘラが指を差す。
すると、大きな茶色の岩の隣で泣いている人がいた。
あれは人間だ。
どうしてこんなところに人間がいるのだろう。
いるとしてもシフくらいしかいないはずなのに。
「恐らく、あの怨霊が呼び寄せたんだろう。想いの力は半端ないからな」
「想いの力……」
ムジナには到底縁がないものだ。
もちろんヘラにもだ。
「でも、その怨霊の想いはちょっと違うかなぁ」
「え?」
「恨みの想いだ」
突然、女の声が聞こえた。
頭に響くような、怨念の声。
彼女は『殺してやる』と何度も叫んでいた。
「ムジナ」
「な、なに……?」
ムジナは腐っても死神なので、魂の色が見える。
あの怨霊の魂の色はどす黒いのは見るまでもなくわかるが、その代わり、霊の心の声が他の悪魔よりよく聞こえるという。
なので、その声に恨みなどが強く込められていればいるほど、ムジナたち死神の負担は大きくなっていくのだ。
「あの怨霊が訴えてること、わかるか?」
「……頑張ってみる」
ムジナが集中している間、彼を守るためにヘラは周りを警戒し始めた。
ここは霊界。ハレティのホームグラウンド。
何が起こるかわからない。
すると、怨霊は人間を宙に浮かし、移動し始めた。
「待てっ!」
ヘラが静止の声を掛けるが、まるで聞こえていないかのように飛んで行ってしまった。
怨霊が飛んで行く前、ヘラが最後に聞いた訴えは「謝れ」だった。
一体、あの人間は何を謝らなかったのか?
その時はまだ知らなかった。
「はぁ、はぁ……やっと追いついた……」
「人間が三人?」
二人は怨霊を追いかけ続け、目に映ったのはゴミ捨て場のようなところに集められた三人の人間。三人とも女だ。しかも同じような年の……。
「わかった!」
「しーっ、声が大きいぞ」
「ごめんごめん。……あの怨霊には昔、飼ってた鳥がいたようだ」
「鳥、だと?」
「でも死んで……通っていた学校で、その鳥の死をネタに笑われたようだから、その三人に復讐しようと怨霊となった。ってとこかな」
「……」
ヘラは何も言えなかった。
ヘラにも一緒にいた妖精がいたので、もし自分が同じ立場にいたなら、あの怨霊と同じようなことをするだろうと思ったからだ。
しかしムジナは「笑う必要なんかない。オレは死神。弔わなくっちゃ」と言った。
その時は正直、嬉しかったのだ。
突然、怨霊は魔法でナイフを取り出した。
そして……三人の女の内、ポニーテールの女を突き刺した。
突然の出来事だったので、止められなかった。
楽しそうに笑いながらナイフを振り下ろす怨霊。
ムジナとヘラは剣を取り出した。
ムジナは怨霊の方へ駆け出そうとした。
しかし、ヘラは動かないままだった。
「ヘラ?!」
「……俺はパス」
「どうして?!」
ムジナは剣を怨霊に向けたままヘラの顔を見た。
「俺は……あいつの気持ちがわかるからだ」
「ヘラ……」
「あの人間達が生前の怨霊を怒らせるようなことを言ったなら……俺はあの人間たちを殺しているだろう」
「……」
どんな幽霊、怨霊の力も増幅する霊界。
そこは、いつも冷静に考えるヘラの思考も変えてしまっていた。
「次はお前だ!」
怨霊は何かの瓶を持ち、ボブカットの女に近づいていった。
蓋を開け、躊躇いなくぶちまける。
すると、女の顔は醜く溶けていった。
女はキャーキャーと騒いでいた。
「あれは硫酸?!」
「容赦ねぇな」
「いや、感想はいいから!対処法わかんないし、攻撃が当たるかわからないけど……ほんとヤバイって!」
ムジナは誰が見てもわかるほど焦っていた。
死神だからということもあるが……。
しかしヘラはムジナとは正反対だった。
「……もっと」
「え?」
「もっと、制裁を……」
下を向いて呟くヘラの目は、いつもより赤黒く光っていた。
「おい!どうしたんだよ、おい!」
明らかにいつもと違う状態のヘラを見てさらに焦るムジナ。
そしてついに怨霊は最後の女に手を出した。
先程の二人の女は痛みで転げ回っている。
隣のヘラは薄ら笑いを浮かべている。
今までこれほどピンチな時はなかった。
いつもはムジナより強いヘラが幽霊などを攻撃してくれるが……今回は自分でやらないといけないと覚悟した。
「謝れ!それか、ずっと永遠に苦しめ!」
怨霊はあり得ない大きさのチェーンソーを持ち……スイッチを入れた。
どこからそんなの出してきたんだよという突っ込みは敢えてせず、オレはただ見ていることしかできなかった。
死屍累々と化したその場を怨霊はとてもスッキリしたような表情でウロウロ飛び回っている。
オレは何もできなかった。
テケテケに出逢ったときも逃げることしかせず、攻撃はライルに任せっきりだった。
結局何もしてないじゃないか。
ヘラが戦えない今、もし襲われたらどうするんだ。
勝率がどうとかじゃない。
確実に死ぬ。
ヘラは相変わらず突っ立ったままだ。
ピクリとも動きやしない。
しかも怨霊がこっちに気づいてしまう始末。
最悪だ。
「ヘラってばー!はーやーくー!」
「……」
ヘラの腕を引っ張るも、置物のように動かない。
ついには怨霊は目の前に来ていた。
「さっきから何なの?あなたたちは……」
「……おい、怨霊。お前、鳥を失い、そこに転がってる奴らに馬鹿にされ、復讐をしたんだろう?」
ヘラの言葉に怨霊は顔を真っ赤にした。
「……あなたに何がわかる!」
「……俺も妖精を失った。お前と同じだ」
「!」
「だから……もう終わりにしよう。さっさと成仏して、新しい人生を歩もう」
ヘラは怨霊に手を差し出す。
彼は今まで見たことがないほど優しい表情をしていた。
「……どうして」
「?」
「どうして優しくしてくれるの?」
突然怨霊の姿が15歳ほどの少女の姿に変わった。
……透けているが。
その姿はとても弱々しく見えた。
これがその鳥を亡くした当時の姿だろう。
「……ペットはいいよな。心の隙間を埋めてくれる尊い存在だから」
「……何が言いたいの?」
「いや、これはただの俺の考えだ。ペット好きには悪い奴はいないって信じてるからな」
ムジナは「ルージはペットじゃないよ」と心の中で指摘するが、ヘラに見つからないようにしているルージを見ると、とても嬉しそうにその話を聞いている。
まぁ、これはこれでいいかなと思った。
「じゃあ……あいつらを殺したこと、怒らない?」
「……怒らないよ」
「……ありがとう」
いや、怒れよ。
何のためにハレティを止めに行くんだ……。
と、ムジナは再び心のなかで突っ込んだ。
って、ハレティを止めに?……忘れていた。完全に忘れていた。
無力感とヘラの爆弾発言に気をとられて完全に忘れていた。
今ごろ「遅いなー」とか思ってるんじゃ……。
「噂は聞いてる。ハレティ様はこっちにいるよ。ついてきて」
なんということだ。
敵が大将の居場所を教えてくれるなんて。
取り敢えず結果オーライだ。
なのでそのまま怨霊についていくことにした……。
どうも、グラニュー糖*です!
突然ですが、あなたは動物が好きですか?
私は大好きです。てか飼ってます。
……今回はこれくらいにしておきましょう。
では、また!