魔王少女と上半身の女
第六話 vsテケテケ
「……とゆーことで!世話になるぜ」
ムジナはニコニコと笑いながら手を振っている。
「ウェルカムウェルカム」
「ライル様……もう少し魔王の威厳というものを……」
「知り合いなんだからいいでしょ」
ライルはスグリに不満そうに話す。
「……と言ってもシフが目覚めるまでだし、長くはないけどな」
「ずっといればいいのに……」
ライルがつい願望を口に出した。
スグリが咳払いする。
ムジナはどうしたらいいのかわからないので、口をパクパクしている。
さすがの『魔王』も口出しできないほど、スグリは恐ろしいオーラを出しているようだった。
「じゃ、オレ、シフの様子見に行ってくるから」
「うん」
ムジナは謁見の間を後にした。
どこまでも続く長い廊下を進み続けると、シフが眠っている部屋にたどり着いた。
「ここだな」
ドアノブを回し、部屋に入る。
すると、気持ち良さそうに眠っているシフがいた。
「……ゆっくり眠るがいい」
ムジナはシフの頭を一撫ですると、その部屋から立ち去った。
「……どうしようかな」
来た道を歩いていると……。
ぴちゃっ……と音がした。
それに、誰かが歩いてくる音がする。
「誰だ?」
振り向くと、そこには下半身が無い女性が手を足の代わりにしてこっちに向かってきているところだった。
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ?!」
ムジナは叫びながら謁見の間に戻った。
その女性は、少し進んでからある部屋に入っていった……。
「え?また妖怪が?」
「そうなんだよ!上半身しかなくて、そこから血がどばぁって出てて、手を足の代わりにしてるんだ!」
ムジナは相当焦っているのか、早口で捲し立てた。
「いや、わけわかんないんですけど」
「それはテケテケですね」
ライルの隣にいるスグリが口を開いた。
「テケテケ?」
「はい。歩くとき、テケテケという音が聞こえるらしいのでそんな名前になったようです」
「でも、どうしてそんなのがここにいるわけ?この前のくねくねといい、異常すぎるわ」
「だから、それの尻ぬ……調査してるんだ」
「尻拭いね」
「尻拭いですか」
「ち、ちがーう!」
三人が漫才のようなことをしていると、何かがぶつかる音がした。
ムジナが確認しに行くと言い、謁見の間を後にした。
そして、すぐに悲鳴が聞こえた。
「あーあ、なんてヘボい悪魔なのかしら」
「助けに行きましょう」
「そうね」
テケテケが向かった部屋は、子供部屋だった。
つまりシフが眠っている部屋だ。
「お、お前、さっきの!シフから離れろ!」
シフが眠っているベッドの横にいたのは、さっきいた女の姿のテケテケだった。
「……嫌。これは霊王さまの命令……ムジナという悪魔と共にいる人間を連れてこいって……」
長い髪の間から、殺気を含めた鋭い目付きでムジナを睨む。
だが、ムジナは鼻で笑った。
「ふん……お前、バカか?」
「?」
「手が足なら……シフを連れていけないじゃねーか」
「……霊王さまが連れてこいって言ったの」
テケテケは、無表情のまま続けた。
「言い訳の仕方、ヘッタクソだな?!」
「……あなたは私の邪魔をするのね?」
「そりゃそうだ!霊王とかいう奴をぶっ倒し、シフを人間界に戻すのがオレの役目だからな!」
「……なら、死になさい!死んで、霊王さまの部下となれ!」
突如、テケテケに異変が起こった。
胸のポケットから青く光る珠が出てきたと思えば、すぐに割れた。
その破片はテケテケに降り注ぎ、消えた。
他に変わったことと言えば……
「なんだよ、この力……」
「これが霊王さまの力!さぁ、覚悟なさい!」
テケテケが腕を振るうと、床に大きな穴が開いた。
「うわ?!急に凶暴になりやがった!」
「ほらほら!どうしたの?」
どんどん穴だらけになっていく床。
すると、部屋のドアが開かれた。
「ライル!」
「全く!世話をかけさせないで!」
「気を付けてください。力が暴走しています」
ライルの後ろにはスグリもついていた。
「シフくんに攻撃が当たらないように、ここから遠ざけるわよ」
「おう!」
ムジナはシフを抱き上げ、駆け出した。
テケテケが追ってこないであろう、遠い遠い所へ……。
「こんなに派手に破壊してくれちゃって……ムジナと改築した魔王城の恨みは相当なものよ。覚悟なさい!」
____またあの人の話……。
スグリはライルを見て思った。
「あなたたちに興味はないわ。さぁ、鬼ごっこの始まりよ♪」
「お前が鬼なら、炒った豆が必要ね」
「私に炒り豆は効かないわ」
「そ。なら、塩かしら」
「あの……」
ライルとテケテケが下らない話をしていたその時、スグリが声をかけた。
「そうだったわね」
ライルはくねくねを倒したときと同じ魔導書を取り出した。
電撃で倒すつもりだろうか。
「ふーん、あんなくねくね野郎と一緒にしてほしくないわ」
「口が悪いわ」
「私が動きを止めます。ですので、攻撃してください!」
「わかったわ」
テケテケは足が無いというのに、とても素早い動きをし、スグリから逃れた。
スグリは物理派だ。
魔法は一切使えないというのに、一撃一撃がとても重い。
それを知ってのことか、テケテケは避け続けることしかできなかった。
そうなると、動きを止めるどころではない。
「私が物理種ということ、よくわかりましたね」
「その服装ならすぐにわかることよ」
スグリの服装……というのは、体にピッタリフィットした赤い服だ。
ライダーが着そうな服である。
下半身は無理矢理つけた感があるスカートだ。
「でも、私を捕まえられないわ」
「それはどうかな?」
ライルが持っている魔導書が光る。
テケテケは嫌な予感がしてならなかった。
「それ、まさか……」
「死に穢れし彼の者を捕らえよ!」
「結界魔法~?!」
ライルが魔法の詠唱をすると、魔導書の表紙が変わった。
先程の表紙は『電撃魔法』を中心としたものだった。
しかし、この青い表紙は『結界魔法』を中心としたものだ。
結界の魔導書から放たれた青い光がテケテケを包む。
すぐに結界が完成し、テケテケの動きが止まった。
「彼の者に纏われし異形の力……解き放て!」
「やめろーー!霊王様ー!」
「……呼んだ?」
「「え?」」
ライルの結界の外に白い服の幽霊が現れた。
包帯男の騒ぎの時に現れた幽霊だ。
しかし、ライルとスグリにとっては『はじめまして』の存在だ。
「はじめまして、魔王様」
「……あなたが霊王?」
「えぇ、その通りです。あと、もうひとつ言っておきます。ムジナはシフくんを護れません」
「……なんですって?」
霊王の言葉にライルは目を細めた。
「シフくんは霊界へ連れていかせました。ムジナを操って……ね」
「それじゃあ、ムジナは……?!」
「そろそろ帰ってくるんじゃないかな?」
その時、部屋の扉が開かれた。
目が虚ろなムジナが倒れ込む。
霊王は、まだ意識があるムジナに近づき、頭を撫でながら笑った。
「お疲れさま、ムジナ」
「へへ……」
ムジナも霊王に笑いかけ、そのまま意識が切れた。
「霊王!これ以上ムジナに何かしたら許さないわよ」
「いいえ、これ以上はしません。でも、ムジナにはシフくんを助けるため、霊界へ来てもらう」
「ふざけないでちょうだい。そんな危険なところへ行かせるわけにはいかないわ」
「でも、ムジナは霊界に行く。そう信じてますよ。ムジナには操られているときの記憶は無い。シフくんが霊界にいること、忘れずに伝えてください。では、また」
霊王は一方的に話すだけ話すと、消えてしまった。
完全に蚊帳の外に追いやられていたテケテケとスグリは霊王について話していた。
「あれがあなたの主ですか」
「えぇ。幽霊なら誰もが羨むお方よ」
「下の方だけ綺麗なウェーブなのね」
「天パなのかわからないけどね」
「あんたらの会話、よくわかんないわ……」
倒れたムジナは目を覚まさない。
そして、シフは霊界へ連れていかれてしまった。
ライルは混乱していた。
今、勇者とかが来たらどうしよう。
きっと、悩み事が多すぎて勝負にならないだろう。
すると、城門の方が騒がしいことに気がついた。
門番が赤毛の男と話している。
勇者なのか?
それならば最悪のパターンだ。
それに、他にも悩み事があるのだ。
この魔界に関する、とっても重大な問題が……
「ライル様。大丈夫ですか?」
異変に気がついたスグリが話しかけてくる。
悩んでいただけと伝えると、安心していた。
とりあえず城門に向かうことにした。
何やらもめているようだ。
ライルは飛行しながら話しかけた。
「あなた、目的は?」
「「魔王様!」」
「いや……ムジナがここにいるって聞いたんで……」
彼は赤いコートのポケットに手を突っ込んでいた。
この特徴……どこかで……。
「まさかあなたがヘラなの?」
「え?なんで知って……」
「ムジナがあなたのこと、自慢気に話してたから……さぁ、入って」
トントン拍子に進められる会話。
門番は理解できずにいたが、魔王が入れと言うなら仕方がない、と、城門を開けた。
しかし魔王城の周りに纏う闇はもうすぐそこまで来ていた……。
どうも、グラニュー糖*です!
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安直すぎる。
いやぁ、三年経った今、やっとpixivに間違えてこの話の前半を二つ出してしまっていたことに気づきました。消してきました。
半年もあいてたからね。長いね。