精神異常攻撃持ちの恐怖
第五話 vsくねくね
ここは魔王城城門。
そこで三人の悪魔が話していた。
一人はムジナ。もう二人は鎧を着た門番だ。
「魔王ライルに会って話をしたい。通してくれないか?」
「「お前は誰だ?」」
「オレはムジナだ。知らないか?」
「まさか……?!」
「知ってるのか?」
門番の一人が驚き、もう一人は理解できないとばかりに話す。
「昔、資料館で読んだことがある……まさか、参謀のムジナさんですか?!」
「大当たり〜♪よく覚えてたね」
「参謀?でも、今はいなくなったって……もしかして、戻ってこられるのですか?」
二人がムジナに期待の眼差しを向ける。だが、ムジナの表情は暗かった。
「オレの尻拭いに来た……」
「「は?」」
魔王城の謁見の間。
そこには魔王であるライルが座っている。
一言で「魔王」と言ってもそう悪くない魔王もいる。
なぜなら彼女は政治を中心にしているからだ。
彼女は髪をポニーテールにし、黄色いリボンで結んでいる。そのリボンと同じ色のマフラーを身に付け、オレンジ色のワンピースを着ている。
ライルは座ったまま、口を開いた。
「ムジナ、戻ってきたのね」
「いや、オレの居場所はもうここじゃない。それより、頼み事があるんだが……」
「何?」
「妖怪とか幽霊の討伐を手伝ってほしい」
「……は?」
「だーかーらー!妖怪とか幽霊の討伐をだな……」
「それはわかってる。なんでそんなの出てるわけなの?」
「いやぁ……オレ、封印解いちゃったんだよ……結界的なやつ」
ムジナは「てへへ」とばかりに頭を掻いた。
「バカじゃないの?!」
“バカ”……この言葉を、この数日間で何度聞いたことか。
一発殴ってやろうかと思ったが、魔王に力負けすることは目に見えている。
仕方なく固めた拳の力を抜いた。
とにかく、強力である魔王に力を借りる。
その事しか考えてはいけないような気がした。
「まぁ、ムジナの願いなら聞いてあげてもいいけど……」
なんてご都合主義の世界なのだろう。
あっさりOKしてもらった。
「他の人だったら、灰燼に帰そうかと思ったわ」
ヘラに行かせなくてよかった。
心底そう思った。
参謀だったムジナは、意外とライルと仲が良い方であり、よく遊んだのだ。
もっとも、その参謀が考えた内容はほぼ悪だくみだったが。
「でも、今の参謀も悪くないけどさぁ……」
視界の隅に見えるのは今の参謀の『スグリ』という女の人だ。
「ライル様、この後は会議です」
「まだムジナとしゃべる!」
……どちらかというと執事のような感じだ。
「でも、会議とか大切だろ?行ってこいよ。待ってるから」
「せっかくまた会えたのに……」
「オレが行ったんだよ」
ムジナの突っ込みが飛んでくる。
「そうだけど……」
「もう時間です」
「……絶対待っててよね!」
「ちなみに何分くらいだ?」
「だいたい三十時間……」
「嫌だよ!!」
ムジナの渾身の叫びが謁見の間に響いた……。
そして三十時間経過した。
寝たり、遊んだり、寝たり……何とかして時間を潰していた。
「ちゃんと待ってたぜ」
「ムジナ!」
ムジナの言葉にライルは嬉しそうに反応する。
そしてムジナの隣に見えるのはシフだ。
彼はシフの頭を撫でた。
「シフも連れてきたけどいいだろ?」
「お得意の召喚術で?」
「もちろん」
「スグリ、シフくんを部屋に連れてってあげなさい」
ライルは近くに控えていたスグリに声をかけた。
スグリは右目を黒髪で隠し、真っ赤なスカーフを首に付け、赤と白のワンピースを着ている。さらにブーツも真っ赤だ。
「子供部屋でよろしいですか?」
「学生なんだけど……」
背が高いスグリは前屈みでシフに聞いたが、彼は不満そうだった。
それを見たムジナはシフに耳打ちした。
「逆らったらオレでもガクブルだぜ……口出しするなよ」
「ここそんなに怖いの?!」
「魔王のところだからな」
「おとなしく子供部屋に行ってきまーす」
「「「よろしい」」」
「三人で言わないでよー!」
シフが子供部屋に向かって数時間が経った。
シフは窓の外を見ながらため息をついていた。
「ヘラさん、大丈夫かなー?……なんだろ、あの黒いの……」
窓から見えるのは、黒くてウネウネしたものだった。
陽炎に見えなくもないが、どうやら違うようだ。
「なんだろ……頭が痛くなってきた……ムジナのところに行こう……」
シフはドアを開け、ムジナがいる謁見の間に向かった。
ムジナは謁見の間の前の廊下でのんびりしていた。
「ん、シフ、どうしたんだ?」
「なんか変なのが外にいたから怖くなってここに来た」
「は?変なの?」
「黒くてウネウネしてて……思い出すだけで……!」
シフは頭を抱えた。それほど怖かったのだろう。
ムジナは謁見の間にシフを連れ込み、ライルの前に座らせた。
「ライル、わかるか?」
「さぁ?」
「だよな……あーもう、こんな時にヘラがいてくれたら!」
ムジナはシフと同じように頭を抱えた。
ライルは不思議そうにしている。
「ヘラって誰?」
「オレの友人だ。いっつも本読んでる。でも、それで培われた知識が役に立ってるんだけどな」
「ガリ勉の人なの?」
「どちらかというと獰猛」
「近づかないようにするわ」
ライルは苦笑いした。
「そうか。さ、そんな奴もういないだろうし、戻りなよ」
「えー……」
ムジナに促されたシフは、とてもとても嫌そうな顔をした。
そして謁見の間を後にした……。
「やっぱり見間違いなのかな……」
ムジナに追いやられたシフは、また子供部屋に戻る。
ドアを開けて……窓を……。
「え!?うわぁあああああっ?!」
悲鳴をあげて倒れてしまった。
黒くてウネウネしたヤツは、あの時は外にいたのに、窓に張り付いていた。
「どうした、シフ!」
ムジナはドタバタとやってきた。
ライルも一緒だ。
あまりにも大きな城なので声は聞こえなかったが、たまたま廊下にいた使い魔が気付き、ライルに知らせたという。
「気絶してるわ……スグリ、看護室に連れて行きなさい。今すぐ!」
「わかりました」
スグリはお世辞にも救助とは言えない持ち方でシフを連れていった。
「シフ……それに、なんだ?あいつは」
「あれはくねくねよ。最近城下町に現れるらしいけど……」
「くねくね?あの黒いのが?」
「そうよ。あいつに精神をやられたようね」
「今回は精神攻撃か?これはまいったな」
窓を見ると、まだウネウネしている。
そいつを視界に入れると、頭痛がしてきそうだ。
というか、実際頭痛がしている。
「シフのかたきで倒してやるから待ってろよ」
「ダメよ。あいつには物理攻撃は効かないわ」
「はぁ?!じゃあどうしろと!」
「魔法しかないわ」
「召喚しかできないぜ」
ムジナは腕を組んで、なぜか胸を張った。
「……全部やれってわけね」
「よろしくー」
「雷獣とか呼び出せないわけ?」
「頼んだ方が早い」
「ひどいわ」
窓を開けると、すぐにくねくねが入ってきた。
くねくねがいる方向に本を向け、魔法の詠唱をし、電撃を放つ。
くねくねは声を上げずに消え失せた。
そこに残ったのは電撃で焦げたカーペットだけだった。
「やっぱり魔王は強いな」
ムジナは嬉しそうに手を叩く。
「こんな魔王と仲良いって誇りに思ってるの?」
「友達気分でいた」
「………」
「はい、思ってますよー」
「……ま、いっか」
「いいのか?!」
くねくねを倒し、そろそろ家に帰ろうと考えるムジナ。
しかし、まだシフは眠ったままだ。
帰るのはもうしばらくしてからになった……。
どうも、グラニュー糖*です!
題名が思い浮かばず、ゲーム用語みたいなのになりました。まぁリメイクですから!(理由になってない)
くねくねってヤバイらしいですよね。
ライルの絵を描くとき、いつもデザインを忘れてしまいます。悲しきかな。