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怪奇討伐部  作者: グラニュー糖*
4/10

赤の悪魔と古き妖怪

この話には血の表現があります。



第四話 vs手長足長さま



「なんだって?!」


ここは学校のような施設の一角にある図書館である。

急に大きな声を出したので、周りから冷たい目で見られている男の人の名は、ヘラ・フルールだ。


「うるさいよ、ヘラ」


ちょうどこの日はムジナも付き添っていた。

なんでも、一人じゃ調べきれないから手伝え、とのこと。


「一旦出るぞ」

「え、ちょっと!調べ物は?!」

「そんな余裕ない!」

「……ったく、もう……」


ヘラの後を追って施設を出ると、目の前に浮遊する光が幾つか見えた。

しかし、どれも小さい。


「詳しく聞かせてもらおうか」

《はい、ヘラさん……》


その光から姿を現したのは、小さな羽を持ったエルフ耳の少女……いわゆる、妖精である。


《いつものように森の泉で遊んでたのです。しかし、突然現れた怪物に襲われ、みんな怯えて逃げました。

しかし、追いかけてくるので、私たちのリーダーであるルージが時間を稼ぐと言って立ち向かいました。そして、しばらく経ってから戻ったのです。そしたら……》


そしたら、羽をもがれたルージが血を流して倒れていたそうだ。

なんて酷い話なのだろう。


しかも、それがルージなのか確認できたのは残った羽の柄を見た後だった。

そう、体のほとんどを食べられていたのだ。

羽は美味しくなかったのだろう。

血もたくさん出ているところを考えると、“羽だけ残して、他のところは全て平らげてしまった”ということになる。

変わり果てたリーダーの姿を見た仲間たちは、パニックに陥ってしまった。

今この場所に来ている中で、こうやって伝えることができている妖精だけ落ち着きがあるようだ。

周りの妖精はまだパニックになっている。

なので、妖精を使役するヘラに助けを求めるために真っ先に伝えに来たというわけだ。


「それは災難だったね……」

《あの、あなたは?》

「オレはムジナ。ヘラの親友だ」

「こいつは悪い奴じゃないから安心しな」


ヘラは妖精に微笑んだ。

妖精は納得したのか、手を胸の前でポン、と叩いた。


《そうなのですか!》

「で、その怪物の特徴は?」

《異常な長さの腕と足でした》

「よく捕まえられなかったな……」

《意外に妖精は素早いですからね》

「ま、どうせルージが無茶な遊びでも持ちかけてきてたのだろう?超スピードなかけっことか」

《はい。それで鍛えられました。……逃げられたのは……全部ルージのおかげなんです……!》


その妖精は泣き出した。

しかし、体の大きさと比例して涙も小さいため、地面に落ちる前に光となって消えてしまう。

それを見かねたヘラは妖精の頭を親指で撫でた。


「大丈夫。絶対にその怪物とやらを倒してやるからな!」

《本当ですか?》

「あぁ、本当だ」

「オレも手伝うぞ!」


ムジナも張り切っている。


《ありがとうございます!》

「いつも魔法の手伝いをしてもらってるし……困った時はお互い様だよ」


妖精と共に森へ行く決意をした二人。

二人は歩きながらヘラの本を読んでいた。


「そいつは多分『手長足長』という妖怪だな」

「今回は妖怪なんだね」

「花子さんは『都市伝説、妖怪、幽霊の時代』って言ってたからな。ありえないものだったら何でもありなんだろう」

「それに、封印を解いた力となると……」


ムジナの声を掻き消すように、鳥が羽ばたく音が聞こえる。

しかも一斉に。

その後、とても大きい影が三人?の上空で薙ぎ払われた。


「お、おい……まさか……」

「そのまさかだろう。逃げるぞ!」

《あぁっ!前を見てください!》


妖精が叫ぶが、二人はありえない光景を目の当たりにし、足が麻痺したように動けなくなっていた。


「それ……武器じゃねぇだろ……」


なんと、手長の方は長い手をヌンチャクのように手当たり次第振り回し、木に当たって落ちてきた獲物に一撃をかまし、それを食べていたのだ。

まさに常識外れである。

一方、足長の方は獲物が逃げる場所に先回りし、その長い足で影を作ったり、地面を踏んで地震のようなものを起こして元の木に戻し、あとは手長に任せるという。


こんな奴らにどうやって勝つのか?

まず戦えるのか?

こんなに勝つビジョンが見えにくい敵なんて初めてだ。


「降参してもさ、最終的には食われるんじゃねぇか?」

「いや、やってみよう!怪奇討伐部の名にかけて!」

「何それ……」


ヘラがそのダサい名前に反応する。


「さっき考えたんだ」

《まさか、さっき固まってたのって……》

「え?グループ名を考えてたんだぜ?」

「あっそ。お前、とことんバカだな」

「はぁ?何で?!かっこいいだろ、この名前!」


呆れ返るヘラにムジナは頬を膨らませながら対抗した。


《で、でも、おかげで緊張がほぐれました!》

「そうか!よっしゃ、あいつらを倒しに行こうぜ!」

「《おー!》」



「まず、作戦はこうだ。

正面から剣を持って立ち向かっても、ルージのように返り討ちにあうだろう。

そうなれば手遅れだ。

そうならないように横に大きく移動し、どんどん木を使って上へ上がるんだ。

そのあと、地上にいる妖精の合図で一緒にお互いのターゲットにダメージを与えよう。

あいつらはああ見えて夫婦らしい。

どちらかが欠けると激怒して暴れだすかもしれないからな」



「……って言われたけどなぁ……デカすぎだろ!」


その姿はまるで怪獣。

魔界の木は、絶えず高さを変えているが、どんなに高くしたってあの妖怪には勝てないだろう。


「……まだなのか?」


作戦を考えた本人であるヘラは苛立ちを見せながら問うた。


《あっちを向いたら……あ、今です!強烈な攻撃を叩き込んでください!》

「いくぞ、ヘラ!」

「おう!」

「「はぁああああっ!!」」


手長足長には共通する弱点がある。

それは、体本体だ。

長いのは手と足だけなので、どちらも体を守るのは難しい。

長い手や足を斬り落とそうとしても、その標的による攻撃によって倒されるだろう。


そこなら攻撃は届かないと思ったのだ。


「うぁああああっ!!」

「ちょっと、ヘラ!やりすぎじゃないか?」


とっくに戦闘不能と思われるのに、まだ攻撃を続けるヘラをさすがに変に思ったムジナ。妖精も不安になってきていた。

ヘラが担当するのは手長だが、もうグロッキー状態だ。

返り血を相当浴びており、赤い服は余計赤みを帯びている。


「いや、イメージカラーは赤だけど……そんなに赤になりたいの?!」

《なんか違うと思いますけど……》

「おーい、ヘラ!そいつはもう死んでるって!戻ってこい!」


呆れる妖精の隣で叫ぶムジナ。だがヘラは止まることを知らない。


「うあああああっ!」

《聞こえてませんね……》

「もうやだぁー」

《諦めるの早すぎですよ!?》

「戻ってこーい……痛っ?!」


再び声を出したムジナに飛んできたのは骨だった。

コーン!という音が響く。見事に顔にクリーンヒットしたのだ。


「骨まで斬ってやがる、あいつ……」


当たった骨を左手で持ち、呟いた。

その目はさっきまでのようにふざけた表情ではなかった。


《骨って……おかしいと思いませんか?!》

「思わん!いつもモンスター狩ってるからな」


ムジナは毎日のようにやっていることを頭に思い浮かべながら胸を張った。


《断言しちゃってますね》


妖精が完全に呆れたその時だった。


《《もうやめて、ヘラ!》》


まるで鈴のような声が辺りに響いた。

ムジナと妖精は訳がわからないという風に顔を見合わせる。


「……あれ、お前叫んだか?」

《いいえ》

《《ルージだよ!》》

「ルージ……?でもお前、死んだはずじゃ……」


ヘラは驚きのあまり、剣を落としてしまった。

剣は手長の足元に突き刺さっていた。

そのまま手長から飛び降りる。


《《そう、私は手長足長に食べられたわ。でも、魂は残るものなのよ。でね、ヘラに最後のお別れを言いにきたんだけど……まさかこんなことになっていたとは……》》


ルージは反省しているかのように呟いた。

ヘラはこみ上げる感情を抑えながら声の方にゆっくりと近づいた。


「悪いのはお前じゃないよ」

《《ありがとう。落ち着いた?ヘラ》》

「おかげでね」


ムジナと妖精は話している二人の方へ歩き出した。

そしてムジナはヘラの肩を叩く。


「どうしてあんなに暴れてたんだよ?」

「俺にもわからない。でも、ルージの仇を討たないと気が済まなかったんだ」

《《ムジナさん》》

「え?」

《《これからも、ヘラと一緒にいてあげてください。

あと、ヘラの魔法補助の妖精を、そこの妖精に任せるよ》》

《私でいいんですか?》

《《リーダーの私が言うんだから、間違いはないわ》》

《頑張らせていただきます!》


妖精はルージがいるであろう方向に頭を下げた。


「ルージ……」

《《ん?》》

「ありがとう」

《《……うん。じゃあね、みんな。……お元気で!》》

「待て、ルージ!お前にはまだ何もしてあげられなかった!なのにもう逝ってしまうのか?!そんなの俺は認めん!戻ってこいよ!!」


ヘラが止めようとするも、その叫びは手長足長の屍が残る森に虚しく響き渡った……。


__________


後日談



「あれ、今日のごはんはモンスターじゃないんだね」

「あぁ。たまにはいいだろ?」

「これが毎日続けば文句無しなんだけどなぁ……」

「そのつもりだ」

「え?」

「なんでもない」


手長足長との戦いの後、ヘラと会っていない。

図書館にいるかと思ったが、そこにもいないようだ。

多分家にこもってるのだろう。

友達だと言い張っても、端から端なのであまり行かない。

教室に例えると、左前端と右後ろ端のようなものだ。


「あ、そうだ!

最近、妖精さんがここに遊びに来るんだよ」


シフは茶碗を置いて話した。

それを不思議そうに見るムジナ。


「妖精?」

「そう!えーと、名前はなんて言ったっけなぁ……確か、ルージって名前だったっけ」

《《正解!覚えてもらって嬉しいなぁ》》


シフが話した瞬間、鈴……ではなくハンドベルくらいの声が響いた。今度は声だけでなく姿ありだ。

茶髪ポニーテールに、葉っぱに紐を通した服。そして綺麗な羽。これこそ妖精だ。


「あ、おはよう!」

「ど、どうしてお前がここに?!」

《《んー……大妖精様に復活させてもらったんだ》》


宙で嬉しそうに話すルージ。

シフはずっと知っていたかのような口ぶりだ。


「そんなに軽くていいのかよ……ヘラ、すっごく落ち込んでるぞ。

あいつ、メンタル弱いから」

《《そこまで?!確かに魔法一個失敗しただけでずっと涙目だったし……》》

「そんなに弱かったんだ?!」


普段とのギャップに驚くムジナ。

それを見たシフは頬杖をして言った。


「ムジナは魔法使いなんだし、教えればいいじゃん」

「そんなに楽に覚えられるものじゃないんだぜ」

「そうなんだ……」

「というか、復活したって言いに行ったほうがいいんじゃないか?心配してるぜ、あいつ」


ムジナは転送用の本を取ろうと席を立とうとした。

それをルージは止める。


《《ううん。彼の選択の時だと思うんだ》》

「選択?」

《《その選択を乗り越えれば、彼のメンタルは少しだけ強くなると思うよ》》


ルージの言葉にムジナは座り直した。

そしてフォークでソーセージを刺す。

それをルージに向け、渡した。


「……よくわからんが、ルージの事は秘密にしておいたほうがいいよな」

《《ま、そゆこと》》


二人が話していると、シフが席を立った。


「じゃ、学校行ってくるね!」

「もうそんな時間か。気をつけてな」

「ムジナはどこか行かないの?」

「あとで街に行こうかと思ってさ」

「魔界に街なんかあるの?」

「魔王城の城下町といった方がいいか」

「そんなのあるんだ……」

「いつか一緒に行こうな」

「うん!じゃ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


バタン、と扉が閉まる。

部屋に残された二人はいつもの二人とは思えないほど、真剣な表情をしていた。


《《本当は討伐する為じゃないの?》》

「そうだな」

《《今回は一人で行くの?》》

「ヘラは今そっとしておいた方がいいだろ」

《《会ってないのにどうしてわかるの?》》

「そりゃもう勘だろ」

《《聞いた私がバカでした》》

「どういうことなんだよ……。そろそろ俺も出ようかな。留守番頼める?」

《《私は番犬じゃないわ》》

「番妖精でもないよな」

《《そんな言葉初めて聞いたわ》》

「俺も初めて言った」


今、この魔界は『ライル・メラク』と呼ばれる魔王によって治められている。

そんなライルは、実は女である。

その魔王城で何が起こるのか?


物語は、第五話へ続く……。

どうも、グラニュー糖*です!

今回はなかなか重い話でしたね。

そして新たな仲間、ルージが加わりました。

ファンタジーといえば妖精ですよね!

実は初期設定では、ヘラとルージは仲が悪かったのです。

ヘラが妖精嫌いという設定がありました。


では、また!

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