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なんの変哲もないただの告白の一幕

作者: 阿部清之

気が向いたので書いてみました。

とても短いです。

 静かに赤く染まっていく教室。窓をのぞけば、生徒がひたすらに部活をしている姿がみえる。暑さに汗をたれ流している人を見ると、こっちにも熱気が伝わってくる。

 普段ならこの時間、誰もいないはずの教室だが、僕はここである人を待っている。


「む、すまない。待たせてしまったようだ」

「いえ、大丈夫です会長。でもどうしたんですか、急な呼び出しって…生徒会で話し忘れたことでもあるんですか。たまっていた仕事は終わらせましたが」


 そう。普段の生徒会の活動時間にやることは済ませているので、会長に呼ばれるようなことに心当たりがない。


「いや、別に生徒会の用事というわけでもないのだがな、急に呼び出して申し訳ない。話したいことがあってだな…そうだな、君は彼女はいるのかい?」

「いえ、いませんけど、なんなんです藪から棒に」

「そ、そうか、いないのか」


 一拍の沈黙。セミの鳴き声と、野球部のカキーンとボールを打ついい音が教室に響く。


「こ、これを受け取ってくれないか」

「あ、はい」


 そういって手渡してきたのはなにも飾りのない便箋。受けとると会長は後ろを向いてそわそわしている。便箋を裏返すとハートのシールがはってある。シールをはがし中を出してみると、かわいいメモ用紙があり、文字が書いてある。『好きです』と。え?

 しばらくかたまっていたようで会長がこっち向こうとしているのに気がつかなかった。


「家に帰ってから開けてほしいのだが、ああいや決して怪しいものが入っているわけで…は…」


 会長は最後までしゃべりきらずに目を見開いて固まってしまった。


「…みたのか?」

「えっと…はい。うれしいです」

「……ああ君の返事は聞きたいが無理に今答えを出す必要はないしじっくり考えてくれて構わないしいらないというならばそのまま返してくれていいしそうだなどっちにしても君に読まれてしまったのだしこの手紙は返してもらったほうがいいなうんそうだそうしようというわけでこの手紙はかえしてもらうぞ返事はいつでもいいが私は急用を思い出してしまってなこれで失礼させてもらうよ」


 と色々とまくしたてて自己完結して帰っていきそうになったので、慌てて引き留める。とっさのことで後ろから抱きついたため、意図せずにあすなろ抱きになった。いい香りがした。会長のシャンプーの香りだろう。

 恥ずかしさと緊張とがいりまじって喉がかわいてきた。それに心臓の鼓動がはやくなっているのがわかる。


「駄目ですよ会長。そうやって自分で勝手に考えて行動するから回りのフォローが大変なんですよ」

「…すまない」

「ほらその硬い言い回し。無理してそんな言い方しなくてもいいんですよ。前は普通に話していたでしょう」

「むう、それは君が会長ならこっちの方がいいというから」


 ああもう話が進まない。仕方ないので会長の唇を人さし指で押さえる。

 定期的に響いていた音はいま全く聞こえない。二人の体温と心臓の鼓動だけがこの空間を支配していた。


「…手紙の返事、してもいいですか」

「…うん」

「僕も、好きです。付き合ってくれませんか」

「…はい、よろしくお願いします」


 そういうと頬にキスをしてくれた。嬉しかったのでしばらくこのままでいさせてもらった。ふたりして顔が赤かったが、暑いとは思わなかった。お互いのぬくもりを感じて幸せだった。


「実は僕も会長に告白しなければならないことがあります」

「ん、なに?」

「たまっていた仕事は終わっていたのですが、先生から休日明けに出さなきゃいけない資料の作成依頼が生徒会にまわってきてしまって」

「え、それは大変だ。急いでつくらないとな。今日は下校時刻まで居残ったほうがいいな」

「そうですね。二人っきりですが、頑張りましょう」

「…あぅ。さ、先に鍵を取りに行ってくるからな」


 そういって頬を朱に染めながらすたすたと歩いてしまった。でもそのとき見た横顔がとても可愛くて、僕はその顔を一生忘れないだろうと思った。


 これが、僕と会長のなんの変哲もないただの告白の一幕






閲覧ありがとうございました。

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