表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/24

8 奴隷ちゃんと俺

 ちょっと色々実験した。

 そしてわかってきた。


 俺は本を開いて、更に手に持っている状態の時だけ、その能力が行使できる。

 ぽい。


 本を開いて念じると、奴隷ちゃんが出てくる。

 閉じれば、煙と消える。


 出せるのは一体きり。

 他のビジュアルの奴隷ちゃんは出せない。

 この子だけだ。


 オーケー。わかってきたぞ。


 だが。

 こんなことは神くんの解説にはなかった。

 だからこれこそ『無』の効能なのだと信じたい。


 詳しいメカニズムはわからんが、手持ちの能力が「無い」扱いにされているのかそれとも本の側の回数制限を「無くして」しまっているのか、とにかくそうなっているからにはラッキーだ。

 活用させて貰う。


 一時はけっこう絶望したが、また希望が見えてきたぜ。

 ぐへへ。



 ――――



 開く前はこう思っていた。


 ……どうせ死んだ人生じゃないか。

 何が出ようと儲け物。


 開けるだけで、丸儲け。貰えるだけで、丸儲け。

 生きてるだけで、丸儲け!


 神がでようが! ゴミが出ようが! 能力なんて、使い方! 生かすも殺すも、アイデア次第! 絶対活用! してやるぜ!


 などと。


 やたらめったら意気込んでいた、ちょっと決めポーズまでとっていた、開く直前までの俺だったが。

 いざゴミが出てみると。


 ……やだよお。


 いやだああああ!


 無理いいいいい!


 死にたいいい!


 と発狂寸前まで追い込まれるほどにガッカリしたわけだが。

 思いもよらぬ効果が発現した。


 助かったかも!


 まあ、まだわからないが。

 たとえば条件や、相性など、そうした要素が絡んでくる可能性もあるだろう。まだ何も確定したわけじゃない。

 要検証だな。



 ――――



 奴隷ちゃんは小さくてかわいい。抱きしめたい。

 自分のイメージした最高の奴隷がでてきたんだから、考えてみれば最高だ。


 はっきり言って俺は、この子に仕事をさせるつもりはない。そんな事でイメージしたわけではない。もし働かせるつもりなら、屈強な男の奴隷にしただろう。これからのサバイバルを考えたら、そっちが正解だったと思う。ああ俺はバカだ。


 しかし俺は、かわいさが欲しかったんだ!

 だから後悔はしてないぞ!


「奴隷ちゃん」

「はいご主人さま」


「奴隷ちゃんはこの本について何か、知ってるかい?」


 つい先ほど、あの神少年になんやらかんやらレクチャーされた俺なのだが、ほとんど忘れてしまった。

 この本の名前すら思い出せない。何とかの書って言ってたような……。


 というわけで奴隷ちゃんに問いただす。


「しりません」

「そうなんだ」

「私の心にあるのは、ご主人さま大好きって事ですー!」


 抱きついてくる奴隷ちゃん。

 しばし二人でくるくる回る。


「ご主人さまー!」

「奴隷ちゃあーん!」


 楽しい。最高。異世界転移してよかった。もう死んでもいい。人生の目的達成。


 ちなみに、俺は前世と同じ格好をしている。

 前の世界でいつも着てた部屋着。スウェットだ。


 恐らく、自分は自室で死んだのだと思う、前の世界で。外出着じゃないから。その時の恰好のまま、この世界に飛ばされたようだ。


 ひとしきりきゃっきゃうふふした後。

 急に。


 ぐうう!

 俺の腹がなった。


「異世界に来ても、腹は減るんだな」

「ではごはんにしましょう」


 奴隷ちゃんは、うんしょとしゃがみこみ、近くにあった、大きめの石ころを掴みあげると、俺に差し出した。

 かわいいな。


「これで、私を殺して下さい」


「えっ」

「そして食べて下さい。私の肉を」


 意外な展開。


「いいの?」

「だって今ここで食えるの、私しかいないじゃないですか」


「死なないの?」

「死にますよ。でも生き返るんじゃないですか? 呼びなおせば」


 ……大胆な子だな。


「でももし生き返らなかったら、どうするの」

「……一人で頑張って下さい」

「やだよ!」

「まあまあ、試してみましょう」


 ちょっと勇気がいるぞこれは。

 でもやることにした。


 確かに食糧問題は重要だ。


 それに何度もこの子を消したり出したりは、もうした。

 だからいけそうな感じはある。


 それに。

 やってみたいとは思ってたんだ。

 殺人を。


 前世ではやる機会なかったけど。


 ……かくして石を持ち、ふりかぶる。

 しかし無理だった。

 さすがに無理。

 そんなことしたくない。


 だって奴隷ちゃんだよ!

 おれが殴ろうとすると……痛そうな顔をするんだ。

 悲しそうな辛そうな、でも我慢しますって感じなんだ。


 できない。


 泣きそうになってきた。涙目になる。


「ごめん無理。やっぱ無理。もう……餓死でいいです俺なんて。生まれてすいませんでした。生まれてすいま」

「わかりました。貸してください」


 彼女はべそをかいてる俺の手から石をとり、ガンガンガン! と自分の、逆の手を傷つけはじめた。

 苦悶の表情を浮かべながら。


「いいよもう!」

「大丈夫です。いけそうです。……いけました」


 ついに彼女は、自分の片手を切り離した。手首から先を。

 思い切りがいいよね。君。


「さあ、焼いて食べましょう」


 しかし。ポン! と消えた。切断された手首が。煙となって。


 あ。こうなるのか。


「……なるほど、じゃあきっと、私自身も、死ぬとこうなるんですね」


 奴隷ちゃんは手首を失った腕からボタボタ血を垂れ流しながら、フムフムうなずいている。

 俺はすぐに、本を閉じて開きなおした。

 消える奴隷ちゃん。そして呼びなおす。


 すると奴隷ちゃんのケガは回復していた。全快。


「良かった……! 良かったよ……」

「なるほどー! 呼びなおすと、リセットされるんですねー!」


 きゃっきゃと喜ぶ奴隷ちゃん。

 これは便利だ。


「痛くなかったの?」

「痛かったです。でもいいじゃないですか。死んでも平気ですから」


「あ、痛かったって事は、前の奴隷ちゃんの記憶、引き継いでるんだ?」

「そうみたいですね」


 なるほど。


「そうなんだ。まあ無理はしないでいいからね」

「はいですー!」


 つまり、傷つき死んでも復活できる。そして過去の奴隷ちゃんの記憶もある。彼女はそういう性能なのか。オーケー。


 では、周辺を探索するか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ