7 隠された力を発見したかも
そして俺は血の気がひいた。
はたと気づいたのだ。
――異世界。
つまり。
これからここでもう、生きてかないといけないんだ……!
自力で。
自分だけで。
どうやって?
無理!
異世界で! 一人暮らしとか! 絶対無理!
ひきこもりの生活力(の無さ)なめんなよ!
誰かに養って貰わないと無理!
誰かっていっても、美少女以外は無理!
助けて下さい! 助けて下さい!
ごはん下さい! 女の子下さい! 幸せを下さい!
うわあああああん!
……俺って、なんてクズなんだろう。
だからこそやり直したい。
しかしこの能力は酷いな……。
『無』
自分の体から力が無くなるという効果。
そんなのアリか。
どうすりゃいいんだ。
途方にくれ、うなだれる俺。
その地に落とした目線の先に……何かをみつけた。
それは本だった。
立ち尽くす自分から、数歩と離れていない距離だ。
あれ、また本か?
よく落ちてるもんだな。
――いや違う。
さっきの奴だ。これ。
二度目に開いた奴。
神に貰った方。
たしか、中身は『隷』だった、はずだ。
手に取って開く。
案の定、出てきたのは『隷』の一字。
やはりさっきの本だ。
でもおかしくないか。
確か神モドキ少年の説明では、この何とかの書は、開くと効力を失うとか言っていたような。
だけどこいつ、まだ力があるみたいだぞ。
それに『無』の本は消えてなくなったのに……、この本はこうして、なくならずに残っている。
――どういうわけだろう。
本を閉じて開きなおしてみる。
また『隷』が現れた。
なんどやっても出てくる。なんどやっても。
なんでだ。生きてるぞ。
変なの。
少年がやってみせたデモンストレーションとも、俺が最初に開いた本とも、違う展開になってるようだが。
これはあれか。もしや。
俺が能力をすでに一つ、身につけているからか?
それとも……。
『無』の能力は「無いも同然」みたいな処理になっているというのか?
だから何度も開けてしまう、とか?
つまりこれは、誰でも二冊目ならこうなるという、よくある事なのか、はたまた、俺の能力が引き起こした……特殊な状況なのか。
よくわからない。だが、何であれ試してみよう。
この、一度ならず幾度となく、本を開いたり閉じたりできるという状態を、利用できないものか。
たとえば、この『隷』の本を開くことで、その能力、本が持つチカラを、発動、行使、執行、借用、つまり……、つまり……、つまり。
使っちまえないものか。
もし使えたら便利だと思う。
というわけで考えた。
隷から連想するものといえば……それはもう「奴隷」だろう!
俺はイメージした。俺に従う者。奴隷の姿を。
さあ!
本よ! 俺に力を貸してくれ!
能力の発動、こい!
と強く念じる。
すると……。
ボンッ!
……出たよ。
一体だけだけど。奴隷が。
その姿は、女の子だった。少女より幼女に近いくらいの小ささだ。
だけどおっぱいは割とある。もちろん顔はかわいい。
黒髪でポニーテール、肌はほんの少し浅黒い。
俺の好みだ。
きた!
「ども。奴隷ちゃんです」
「どっどうも、ご主人様です」
互いに自己紹介。
やった!
ガッツポーズで喜ぶ俺。
できちゃった!
しかしすぐ消えた。本を閉じてしまったからだ。
煙のようにかききえた。
あわあわ。
あわてて再度開いて念じなおす。焦りながら。願うように。奴隷ちゃん!
とまた出てきてくれた奴隷ちゃん。
よかった。
奴隷ちゃんは、半裸の衣装を身に着けて、あと首輪をしている。
俺がそうイメージしたから。
いいと思います。
彼女は、つぶらな瞳で俺をみた。
「ご主人様って、ロリコンなんですか?」
「ちっちがいます」
「変態」
「……ぐへへ」
なんだろう。
罵られても、悪い気がしない。
Mなのかな俺。
「ところでご主人様。ご主人様は、無の能力者ですよね」
「そうみたいね」
「だけど今、『隷の書』を開いて、私のマスターになってますよ」
「不思議だね」
「これはきっとあれですね。ご主人様は、本を開いてる間だけ、その本の能力が使えちゃうという、そういう能力を授かったんですね!」
「……そうなのかな」
そう。この状況。
思い返せば、あの神少年の説明と、全然話が違うよ!
なんだこれは。
自分が最初に獲得した、無の能力、その効果効能が……これなのか?
他の本、そのチカラが、拝借できるのか?
本を開くとその間だけ、中の特殊能力が使えてしまう。
それが。
他人にはない、俺だけのオリジナル、特別なスキル、だとしたら……?
もしそうなら、割といいかも。
ぐへへ。
「もしかすると、とても運がよかったのかもしれませんよ。もし逆の順番で本を開いてたら、先に隷を手に入れて、無は失ってたかもしれません。でも無を最初に手に入れたおかげで、本来なら開くと消えてしまう書物が、何度も使えるようになっちゃったのかも、しれませんよお!」
「なるほど! なるほどなるほど!」
なんかすごく都合のいい理屈だ。
でも採用。それ信じよっと。
面倒だから。