3 チートを貰って異世界に
俺は即答できなかった。
――いったい何を言っているんだ。
「ちょっ、ちょっと待ってください。もっと色んな説明を求めたいのですが」
「あなたは死にました」
「なるほど。
でもあの、もっと前の説明をしていただいていいですか。
貴方は何者ですか。ここは何なんですか。
てゆーか自分はなぜこんな……、
えっ死んだの！」
初耳なんだけど！
「ご愁傷さまです」
「ありがとうございます。……いやいやいや」
「覚えてないんですか」
「それが全く。死因はなんですか」
「あとで自分で思い出してください」
「……そうですか。死にたくなかったなあ……。でも死んじゃったもんはしょうがないか」
「納得が早いですね」
「いやあ、よく考えたらこの状況、そうでも思わなければ説明つきませんしね。自分は死んだ、で、異世界いくか決めろと」
「はい」
「それで、貴方さまはもしや、神様で……ございますか」
神かもしれないと思った途端、急にちょっと、いずまいをただし、背筋をピンとしちゃったりして。なんかこう……失礼のないように。
「違います。ぼくはただの生命体。せいぜい、貴方を復活させる程度の事しか、できない者です」
「そうですか」
神ではなかったようだ。
しかし、それでも凄いと思うけど。
彼は話をつづけた。
「こんな事をするにはまあ、もちろん理由があるんですけど、それは今は言えません。何とでも考えておいてください」
「はあ」
「とにかく、貴方には選択肢があります。チートの本を貰って、異世界にとぶか。あるいは、このまま死ぬか。さあどっ」
「とびます」
「早いですね。決断」
そらそうでしょ。
――俺は子供の頃、いじめられていた。
そしてひきこもり。
そして中年に。
そして死んだらしい。
……ああ！
なんと不幸な俺！ 俺かわいそう。
でもいい事あったんじゃないか？ 今にしてやっと。
死んでからいいことあっても、遅くない？ いや遅くない！ ないよりいい！ これから頑張るぞ！
「おけーい！ ほんじゃ、がんばってねー！」
神のような少年は、どこから取り出したのかマウスのようなものを手に持ち、それをスッスッと動かした。
すると大きなカーソルが空間を滑りながらやってきた。
そして刺さる。
俺に。
巨大カーソルに刺突された。
ドブシュ！
血をしぶいて倒れる俺。
「たった一度の人生ですよ！ 悔いのないように生きてね！」
おいこれ大丈夫なのか。
死にそうなんだが。
まっ、なるようになるだろう。
とにかく、この子は俺にチャンスをくれた人だ。
切れ切れの意識の中「ありがとう」と返したが、声が届いたかどうかは定かではない。
――――
……ぼんやりしている。
ここは校舎。
校舎のようだ。
俺の前には、よく見知ってる奴らがいる。
おれをいじめていたやつらだ。
……これは。
まるで「あの頃」の再現のようだ。
来る日も来る日も、いじめられて。
ひきこもるきっかけとなった。
あの頃。
自分は見下されていた。
だから。
人間扱いなどはされない。そして暴力の的にされる。
それが当然のごとく。
いじめは、いじめられる奴が悪いよな。
そんな理屈を連中は口々にいいながら、俺を殴り、蹴る。
俺は……許しを請うのだ。
理不尽な論理を受け入れて。
許される為には、何かをしないといけない。
それは金だったり、命令に服従する事だったり。
虫を食わされたり、万引きを強要されたり。
ひたすら言いなりになる。終わりは無い。
……絶望。
生きてて、何も楽しくない。
俺は何故か、本を手にしていた。だから開いた。当然のように。
すると『雷』の文字がでてきた。
これで自分は、雷の能力者となったのだ。瞬時にそれを理解する。
奴らの一人を指さした。
死ね。
途端に雷撃がほとばしる！
ビカッ！
ソイツは一瞬で炎上した。そしてすぐに黒焦げになる。
周囲の奴らはたじろいだ。顔面から笑みが消える。
だが奴らは驚きながらも、一斉に襲いかかってきた。
俺は冷静に、連中を一人ずつ、焼き尽くしていった。
――――
気づくと俺は、どことも知れない森の中に倒れていた。
チートをくれるという例の本も、すぐ近くに落ちている。
待て！ なんだ今のは！
夢か？ なんて夢だ！
俺の前世のいじめられた記憶と、死んだ直後の特殊能力の説明とが、こんぜんないまぜ、まぜまぜになって……はやばやと、こんな夢をみちゃったのか？
なんなの俺！
気持ちよかった！ 気分よかったよ！
でも……情けないよ！ 俺をいじめていた奴らは、まだ生きてるだろう。前の世界で。そして俺が一足先に、あの世に行った事を、いずれ知るだろう。ひきこもったまま死んでいった。俺の生涯を。
せせら笑うだろうな。
ああ悔しい！
でもしょうがねえさ！
前向きに行こう。後悔を今後に役立てよう。
二度とみじめな思いをしないように、頑張るぜ！
それに案外悪い夢じゃなかったよ。これで心機一転、異世界、いや……。
新世界スタートだ！
手にした本に目線を落とす。
まずはこいつを開くことからだ。
それで特殊な能力を。
異世界。チート。そして自由……。
何が出ようとも。
ぜったい有効活用してみせる！
やってやるぞ！
だけど……。
ちょっと離れた地面に、もう一冊、似たような書物が落ちていた。
これはいったい、どういうことか。
いきなり、本を二冊、手に入れてしまった。
儲かった？
それとも……。
さっそく選択肢？
