2 さあ、お選びなさい!
少年は俺によって話のコシを折られた事も気にせず、質問を許可してくれた。
「どうぞ」
「すいません、再確認させて下さい。今の話を」
話が一回では、頭に入ってこないんです。おっさんなもので。
「はい」
「要するに、その何とかいう本を開くと、中には漢字が一つきり入っていて、その意味に関係するような能力が、使えるようになる、というのですか?」
「そうです」
「そんな本があるというのですか?」
「そうです」
「そんな世界が、あるというのですか?」
少年はニコッと笑った。
すでに顔は元の彼に戻っている。
「その通りです」
「信じます!」
「更に。貴方にはこの本までさしあげてしまうのです」
少年はまた手に、一冊の本を持っていた。
そして、それを少しだけ、俺に差し出すようにする。
「その不思議なものを、自分がいただけるのですか?」
「……はい」
俺は彼が持つ本を見つめたまま、問いかけた。
「それを開けば……、私にも特殊な能力が?」
「勿論」
「それは素晴らしい」
「でしょう」
本を開く。
それだけで。
特殊なチカラが身につくなんて。
悪くない話だと思う。
いや……凄いじゃないか……!
何であれ、きっと役に立つだろう。
開きたい。
俺の本心はこうだ。
信じがたい話だ。
これはウソだ。
さっきのデモンストレーションは手品。
絶対に詐欺。
信じない。
だけど信じたい!
だから信じる!
「で……、その本には何の字が入っている」
「わかりません」
――彼は俺の質問を切るように言い放った。
更にこう続ける。
「『神字ノ書』は数多くありますが、何の字が収められているのやら、中を見ずに確かめる事はできないのです。
されど開かれた書は、使用者に能力を付与してその後すぐ、力を失ってしまいます。
――つまり。
どんな能力が得られるのかは、封を解くまでわからない、そして開いたらもう取り返しもつかない、キャンセルもきかない、すなわち初回一発勝負!
結果は神のみぞ知る!
何がでるのか、開いてみてのお楽しみ!
とまあ……そんなところです」
「一回きりの『ガチャ』みたいな?」
「そうそう」
そして彼は、深く息をした後、大きく手を広げて俺に語った。
「手にしたチカラが、神能力となるもゴミ能力となるも、全ては使い方次第!
様々な能力に満ちた、そんな異世界があるのです!
そこでは、何をなそうと貴方の思いのまま!
素晴らしい結果になるのか、それとも最悪の事態になるのか、ああ!」
恍惚とした表情で、少年は両手をあげてくるくると回った。
楽しそうだ。
そして俺をぴしりと指差す。
まわりすぎたのか、ちょっとぐらぐらしてる。
「さあ、転移しますか? それともこのまま死にますか?
お選びなさい!」
「え……?」
何その二択……。