54.図書館にて
そして放課後。
普通に平和に授業が終わり、軽く立華さんと北海さんが睨んできた気がするが無視をしてなにやら紀異さんは用事があるようだったので、一人で図書館に向かうことにした。
図書室。
中学生の頃は毎日のように通っていたのだが、高校生になるとなんだか理由をつけて行かなくなってしまっていた。まあ、最近の出来事も結構いろいろあったし色々あったし、いろいろ遭ったし……うん。しょうがないとしよう。
この高校の図書室はわざわざ別館に作られており、結構大きい。本好きにはたまらないような場所だ。外観は洋館のような見栄えで、内観はアンティーク調に固まっている。
入学して初めて図書館に来た時に少し疑問に思ったので司書さんに聞いてみたところ、前代司書だった方の個人的趣味と好みで利用者も少なかったところから勝手に内観を改革してしまって元に戻すにしてもめんどくさいということでこいう形になっていると言われた。
まあ、私はこいう雰囲気はどちらかというと好きなのでいいのだが。
図書室の少し重くて黒くところどころ彫刻が施されたドアを開くと、カウンターと本棚が見えた。それと共に読書目的というか、ほぼ学習目的に設置されたように思える長机が現れる。
そこに一人だけぽつんと座って学習に励んでいる眼鏡をかけた男子生徒が見えた。熱心だなと思いつつ、私はとりあえずカウンターで借りていた本を返すことにした。
その後は適当に気になる本があれば読んでみたいので、本を物色することに決めた。
やはりこの図書館は大きいだけでなくトンネルを彷彿ほどの高さの本棚がすらりと並んでいて、見たことのない物語が溢れかえっている。
中学の頃に暇つぶしとはいえ図書館に入り浸っていたからだろうか。本の背表紙を見ただけでどこか胸が躍っているような感覚を覚える。
そしてそうしている間に気になる題名が書いている本を見つけた。が、先ほど言ったようにここの図書館の本棚は高い。なので私の手が届くところに私が気になる題名の本が置いてあるとは限らないのだった。
私は全力で背伸びをしながら、全力で腕を伸ばす。が、あと少しというところでその望みの本に届かない。そうして粘ること数分、やっとのことでその本に手が触れた瞬間に勝手に本が動いた。
「あ…………」
というのはただのたとえで、誰かが、望んでもない誰かが優しそうな顔を無理にして私にその望みの本を手渡してくれた。
「これ、取りたかったんでしょ」
「…………」
私は無言でそれを受け取った。視線が私の手の中に集中する。
確かに私が取りたかった本だ。
「ありがとう」
そうぼそっと取ってくれた人に聞こえるか聞こえないかぐらいの声でお礼を一応言った、瞬間だった。
「なんかこれをすると初めて会った時のこと思い出さない?」
「思い出したくない」
本を親切に取ってくれた人、それはそれは大きい巨人、身長190センチの竹下優人クンはいつもの調子で目つきの悪い顔を綻ばせてきた。ここだけ言うと何ともラブコメ臭がすごいのだが、そんな展開は今度一切ともないはずなので期待しないでほしい。
私はため息を吐きながら彼を見る。首が結構な感じで曲がる。
「なんだよチビ。いいじゃねぇかよ思い出すぐらい。それとも体に比例して心の大きさもちっせえのかよ。あ、それは禁句だったわ。ごめん」
「あ゛あ゛? お前言っていいことと言って悪いことの区別があるでしょう? というか朝はそんな文句ひとつも……紀異さんがいたからか」
私はめんどくさいと溜息を吐きながら彼を見ることを中断してまた本の物色を開始した。
「それにしても放課後まで図書室でお勉強だなんてお利口だね。どうしたの」
「んー、中学の頃の習慣だったし、抜けなくてさ」
「部活は」
「帰宅部」
「あ、私と一緒じゃん」
「まじか、お前と一緒か。やった」
「喜ぶのかよ」
そんなことを駄弁りながら、なんだかんだ最終的に先ほど彼がいた長机に向き合って座っていた。あれ、なぜだ。これはおかしい。
「で、ここ分からないから教えてほしいのだが」
「そのクマがいっぱい生えていそうな目で私を見ないで。なんか呪われそう」
当たり前のようにノートを見せてそう言ってきた長身に、私は眉間にしわを寄せながら、そういうと長身は心底わざとらしく、傷ついたふりをしてきた。
「うわ、こいつ人の気にしている部分をいとも簡単に言ってきやがった」
台詞を言ってから胸に手を当てて、演技っぽく机に突っ伏す。何がしたいんだよ。
「それはお前もだろうが」
「だってお前そうでもしないとドライな反応ばかりでつまらないんだよ」
「それが私だし」
「あー。開き直りやがった」
「それで? ここ?」
私は何となくこのままでは話が先に進まないし、帰れないと思ったので、彼のノートを自分のほうに少しだけ引っ張り、彼が言っていた問題に指をさした。
「そう。ここ」
すると、彼は首を縦に振って、ずうずうしく自分のペンケースやノートを出すようにジェスチャーで伝えてきた。私は何も思わず、慣れた手つきでそれを行った。
そうして、私は数カ月ぶりに図書館で彼に勉強を教える羽目になったのだった。




