48.無条件で金が貰える仕組み
目をぱちくりとさせている私はどんな反応をこれから起こせばいいのかわからず、固まっていた。
「あ……、どうやら驚かせてしまったようですね。申し訳ありません……。あれなのですよ、我々魔族って人間が使えない能力を使ったりできるじゃないですか……。中には歳をそんなに早くとらない体質とかもある。それって人間とは全然違うことで、ほとんどの場合は知られてしまったら利用されるか、……迫害され、殺されるかなんです。だから自分達の暮らしを豊かにするために、自分たちの命を守るために、私たちがここに合わせるのではなく、この世界を私たちに合わせてしまおうとしたらなんか……皆様大成功してしまいまして。いつの間にか大富豪を呼ばれる類いの方ばかりに魔族はなってしまったと言うわけです」
私の行動が歪だったのだろう。夢さんが自分の言った言葉を分かりやすくするために捕捉を弱々しい口調で、でもとても安心するような声色でしてくれた。こういうことをしてくれる優しい人だ。すごく嬉しいけどなんでだろう。罪悪感がすごい。
こうまでしてくれると何か相打ちを打たなければいけないという使命感に駆られてしまう。私は脳内から今どんなことを聞きたいかを引っ張り出し、それを言葉に出した。
「……そうなんですか。えっと、じゃあ皆さまはそれなりに繁盛しているって事ですかね?」
この質問には真っ先にキリトが答えてくれた。寧ろこの質問を待っていた! というような口調だった。私は夢さんに話を振ったはずなのだが。
「このカフェはそうでもない、けど夢のほうは別だな。結構金持ち相手に仕事することが多いから結構持っている。そしてだな、凛和ちゃん」
「なに?」
キリトはどこかいつもの調子だが、不安定な感情というか、真面目な眼差しというか、どこかちぐはぐな思いが垣間見えてくる。
何なのだろうか。というか、とんでもなく真面目なことを言われそうということだけは何となくわかった。
「魔族ってさ、基本人間からは疎まれて、蔑まれて、除外されているんだよ。だから、助け合う為にある程度の仕組みがあるんだ。今日ここに来たのはそれを説明する為」
そういって、彼はみんなが私の視界に入るような場所に靴音を鳴らしながら移動する。ここにいる人たちがいないと話せないようなことを私に話してくれようとしているのだろうか。
「そうなんだ。てっきり味方である魔族を紹介するためだけにここに連れてこられたのかと思った」
まだ彼の真意をつかみきれない私は少し茶化しながら返事を返す。
「それもあるが、本題はこっちだ。魔族はただ普通に観光目的や住処を移すためだけにわざわざここに来た新参者のようなやつらと、もともとここに先祖代々から住み、結構生活が豊かな熟練者というようなやつらがいる。俺とキイは前者、夢は後者な」
「椿さんは?」
「椿さんは一代目で、疲れ切った魔族を癒す場所を提供するのが仕事。新参者ではないけど当てはまる場所としたら前者。それで、前者は後者に無条件で金をもらえる」
「!?」
無条件で……金が手に入るだと!? え、真面目に? それは何ともうらやましい。というか借りれると言っていない当たりを見るに本当に貰えるんだな。そして返さなくていいと。え、うらやましい。
「いやまあ、さっき夢が言っていた通り大富豪すぎるから。別にいくらやったっていいよーっていうやつ多いし。それで、後者のやつらはわかると思うけど金を俺らに無条件で渡すのが仕事。キイもその後者からもらった金で高校いっているし。でもこれじゃあ結構な不平等なんだよ。だから俺ら、つまり観光目的の魔族は金をもらった恩があるわけじゃん。だからね――その後者の魔族を守らなくちゃいけないんだよ」
魔族を守る。その言葉に私は言葉を詰まらせた。
どれくらいの労働なのだろうか。それは。お兄ちゃんでさえ、結構強いらしいし、というかなんか能力を持っているらしいし、それを察するに結構なことなのではないだろうか。
「絶対にあの自称ヒーロー達から守らなくてはいけない。だから圧倒的に俺ら魔族はここにきて死ぬやつらは大抵平和に暮らしたい、ただ純粋にここを楽しみたいやつらなんだよ」
ただ純粋に。この言葉は信じていいのだろうか。
分からない。
私はキリトの話に言葉をはさむ。
「ねえ、あのさ、不謹慎だけど聞いていい?」
「いいよ」
「どれくらい、死んでるの」
「月に二十五~三十人くらい」
「それって一日にほぼ一人のペース……」
それが理不尽に殺されていく数だとしたら、彼らは本当にヒーローなのだろうか。
いや、私はもともとあの人たちに期待などしていなかったけれど、でも、この話が本当だとしたら、結構な話だ。私はこの場にいる人たちの顔を見る。全員、とても複雑な感情を抱いていた。
「だからね、凛和ちゃん。本当に異界者殺しをやるのなら、そんなになめたことは思わないほうがいいよ。それに魔族は血気盛んな奴らもいる。俺らが住んでいる魔界には魔王と呼べる奴がいるが、そいつは結構いいやつだ。というか本当にいいやつ。この前あめちゃん貰った」
「え、めっちゃいい人」
話の流れ的にてっきり魔王という人物は悪の象徴のような存在で出てくるのかと思ったら、まさかのいい人として登場した。え、魔王いい人って。え、ギャップすごい。
「キリト坊よく来たねえ。あ、これこの前すっごいおいしい飴を見つけたんだ。あげるねーって言ってくれてもらった」
どう考えても優しい人の口調で、絶対にこれはその人のことをまねていると分かるような感じで彼はそういってきた。
私の思っていた魔王と違う! なにこれ、え、どうしよう。なんて表現していいのかわからない。けれど言いたいことが一つだけあった。
「近所のおばちゃん!?」
「うん、そんな感じのテンションだよあの人。すごい魔王いいやつ。でもさ、そんないいやつでも反魔王組織とかあるわけよ。そいつらが結構血気盛んでさ、で人間の肉とか血とか大好きなわけよ」
「…………」
「でさ、その中にはわざわざ人間界まで来てわざわざ人間を襲う馬鹿どももいるんだよ。例えばちょっとした裏路地で人間を襲ったりする奴だとか、夜にちょっと田舎の家に突撃訪問してほぼ肉の塊になるまで大分解する奴とか。そういうやつらは大抵ヒーローに見つかってくれているんだけど、そいつらって意外と強くてね。結構逃げられているんだって。だから捕食を邪魔されたからって結構奴らに恨みを持っているやつらが多い」
私が初めてキリトとあったのもなんだか彼の言った例の中に入っていた気がするが、私は無視をして話を進めることにした。もう早く言ってはいけないと思うが、憂鬱すぎる説明の連続から逃れたかったのだ。
「だから?」
「一人残らず殺してよね」
その一言だけで、何故だか私の背中から冷汗が吹き出した。腕も鳥肌がたち、変に喉が渇き、私はつばを飲み込む。
「俺らの生活の為にも、ただ普通に暮らしたい人間の為にも。その力は君だけのものじゃ、もうないんだから」
そして、彼は私の目の前に来て、私の手を掴んだ。
「もう、この手を汚さないことはあり得ないんだよ。凛和ちゃん」
「……キリト」
「何」
私の手を持った吸血鬼が私の顔を覗いてくる。
私はその行為に不快感しか感じない。だからその手を振り払い、私は微笑んだ。
「やっぱり何でもない」




