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4.嫌な予感

 ――いつも見慣れた家の居間、けれど今は違う、壁が半壊し、窓ガラスが割れている。現在の時刻は午後八時。湿気った生ぬるいすきま風が私の肌を撫でている。気持ち悪い。


 家具はほぼすべてのものが倒れて、壊れている。倒れていないのは、壊れていないのは、居間の隅っこにあるクローゼットだけ。それのみ。

 それに加え──赤く染まる床、机、椅子、壁、見馴れているものが赤黒い液体で一色に染まっている。どこもかしこも赤黒い。


 いつも見慣れている人──親が、いつも優しく話し掛けてくれた声で叫んでいる。悲痛な声をあげている。

 体は真っ赤だ。赤黒い液体で。どうやら赤黒い液体は両親の体から出てきているらしい。


 両親の体は見れるものではなかった。

 母親は右手首と左膝から下がなく、父親は左肘と左太ももから下がなくなっていた。それに加えてなん十ヶ所も刺され、斬られた跡がある。もう服なんて元の色が判らない。全部真っ赤だ。


 そんな私は、部屋の隅にあるクローゼットの中に隠れて、親が無惨にもぐちゃぐちゃに殺されている様子を見ている。

 いつ見つかるか解らないけれど、もしかしたら見つからないでやり過ごせるかもしれないと両親が隠した。たとえ、その確率が一パーセントにも満たなくとも、少しでも生き延びる可能性があるのならと、私をクローゼットの中に隠したのだった。


 そんな隠された私は涙を流し、今にも叫びそうな口を真一文字に硬く結び、足で今にも気が遠くなり倒れてしまいそうな体を支え、カタカタと震える体を両手で押さえている。否、押さえようとしている。こんな状態だ。


 そして私は堪えろ、堪えろ、と私に命じている。

 私が行ってもなんにも役に立たない、というか、一秒で片付けられるだろう。

 だから堪えろ、倒れるな、叫ぶな、暴れるな、自我を保て、――辛い。逃げたい。もういっそのこと死んだほうがマシ。


 ──そんな考えていたのは、当時五歳の私だ。これは五歳の頃、私が体験したもの。そして、これは私が一番見たくない悪夢でもある。そう、夢。とてもとても気持ち悪い夢。昔の記憶から成る、現実から成る、悪夢なのだ。



 私は眠りから目を覚ます。とても胸糞悪い目覚めだ。寝なきゃよかった。

「嫌な夢見た。嫌な予感するな、なんかこれから起こるのかな。よくこの夢見たあと変なことや嫌なこと起こるからな」

 自分を安定させるために声を出してジョークを言う。全く笑えないが。逆に心をえぐっていくが。

 というか、これはジョークなんて呼べないだろう。ただの独り言だ。

 因みにこの夢を見たあと起こった変なことは、嫌なこととは、お兄ちゃんがヒーローやっていることをたまたま知って、そのついでにお兄ちゃんの性癖も知った。その時に少しお兄ちゃんに対してみる目が変わった。

 今は慣れてしまったが、知って間もない頃はお兄ちゃんをゴミを見る目で見ていた。



 さっきの夢はまだ続く。

 最終的なことをいうとそのあと私は見つかった。そして斬られた。

私を、両親を斬った人は女の人だった。女の人は見とれてしまうぐらい綺麗で、なぜかピンク色の腰まである長い髪をしていた。しかし、その髪はとても似合っていた。顔ははっきり覚えている。

 憎悪がするくらいに、なぜ自分はこんなに覚えているんだろうと自分自身に問うぐらいに。まあ、あんな無惨なことをされて覚えていなかったら、それはそれで問題なんだが。


 まあ、そんなことがあったのだ。

 そんなことに私は、私の家族は遭ってしまったのだ。そしてその家族の中で運よく生き残ってしまったのが私だ。私だけが不運にも生き残ってしまった。

 そのあと私はお兄ちゃんの、弥生 閏の家に引き取られる。その時の話はまた後日にするとしよう。

 一言だけ言っておくと、私は初めてこの家族を、弥生家を見たとき、ドン引きした。



 私はベットから降り、鏡の前に立ち、身なりを整える。

「……顔が青白い、水飲むか」

 そんなことを呟きながら私は居間につながる扉に足を向ける。居間に繋がる扉を開くと新たな来客が来ていた。


「あ! おはよう! 凛和ちゃん! お邪魔してるよ。あ、少し顔が青白いよ、大丈夫?」

「おはようです。いらっしゃいです。武藏むさしさん」

 武藏さんとは、武藏 都己とおの、名前がややこしい人で、やはりお兄ちゃんのヒーロー仲間だ。

 外見はチャラい。金髪で襟足まで延びている。しかしそれが似合っていて、右側に黒色のピン止めでバツ印を作って止めているところを見るとなぜだかかわいく思えてしまう。

 というか、武藏さんはかわいい、顔立ちはどちらかというと鼻筋も通っていて、目もキリッとしているイケメンさんなのだが、明るいムードメーカーな性格もあってか、そう思えてしまうのだった。


「あと、たぶん水分不足だと思うので大丈夫ですよ。水を飲めば治ると思うので」

「そっか、あ、あとチーズケーキ美味しかったよ! ごちそーさま!」

 彼は幸せそうに笑った。こういうのを見ると、お菓子を作ってよかったなと思えて嬉しくなる。

「うん、ご馳走さまでした。美味しかったよ。でもあれ、本当に美味しかったから全部食べちゃったけど、大丈夫?」

 煉璃さんが申し訳なさそうに心配をしてくる。

 煉璃さんたちが座っているソファーの近くに置いてあるガラステーブルを見ると私が作ったチーズケーキを置いといたトレイがきれいに上になにものってない状態でそこにあった。

 そのとなりに、『我らヒーローの作戦ノート』と書いてあるノートが置いてあった。いや、もうちょっと捻くれよ。というか、形に残すなそういうの。


「…………」

 私がことのショックに少し言葉に詰まると、お兄ちゃんが、あ、と言ってそのノートを引っ込めた。

「…………なんでもないぞ。何もなかったぞ」

 澄ました顔を兄は私に向けてくる。

 しかし、目で忘れろと訴えかけてきている。眼力半端ない。私はこれは下手にお兄ちゃんの逆鱗に触れたら大変なことになりそうな予感がしたので、

「…………。う、うん。あ、チーズケーキは全部食べてよかったので大丈夫ですよ。水、飲んできます」

 と煉璃さんにそう告げて台所にそそくさと逃げた。

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