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32.ボッチじゃない

 今は学校帰り。

 夕日すらなくなりそうな時間なのに、これから私は初めて知り合いというものを家に招こうとしている。これは私としてもなんとも言えない状況だ。

 もともと私は友達作りというものがうまくなく、それになんか変にすごい運動能力や知能なども合わさってクラスから浮いていた。それに加えて、私にからもうとしてくるものは有名になりたいとか、人気者になりたいとか、そういう下心がある人たちだった。だから、私はそれらを軽くからかって最終的にはその人たちからの軽蔑の対象にさせた。


 要するに、自分から進んでボッチという存在になっていた。


 ということで私は昔から嫌われ役や一人になるのは慣れている。別に全人類から嫌われてもいい、そんな感じだ。

 そんな私が好かれて、しかも家に来るとなるとこれは驚くしか他ならないことだった。もう驚きだ。それしか感情が出てこない。内心ハラハラしてる。まあ、それがあの紀異さんでも。だ。


「ねえ、本当に来るの?」

 私は結局彼女の目の前で着替えることになり、いやいやながらに着替えて、紺と白がベースのファスナータイプの長袖と半ズボンの体育着に身なりを変えていた。

 ちなみに制服はさっきいろいろ中に入っていたリュックサックの中に入れた。中にいろいろ入っていたものは、塵に返したのでもう安全、あとは家に帰って明日のカバンをどうするか悩むだけで……って、明日休みだったか。土曜日。自由な時間がたくさんある日だ。明日は久しぶりにお菓子でも作ろうかな。


 私の質問に彼女は笑いながら答えてきた。

「行くよ。いやーでも楽しみだなー。凛和ちゃんの家ってどんな感じなのかな? でもさっき大きな会社の重鎮さんをお義父さんがやってるっていっていたから、結構な豪邸な気がする。そう?」

 質問を答えて質問を投げつけてきやがった。にしても楽しみそうでなによりだ。

 彼女は赤と紺色が混ざったような色をしているスクールバックという結構いろいろ入る鞄を肩にかけている。まあ、それが絵になっていてなんかうらやましい。私もそんなのに合う人になりたかった。

「そうでもないよ。ただのマンション暮らしだよ。まあ、ちょっとかわっていてメゾットタイプっていう一階と二階が存在するものだけれど。多分あなたが想像しているようなお家ではないと思われる」

「そうなの? メゾットなんちゃらはわからないけれど、それって結構なお家じゃ……。というかさ、この通っている道、私、とっても知っているんだけれど。なに、凛和ちゃん私の家の近く?」

「そうだよ」


 彼女と私の家はけっこう近い。これは今まで私しか知らなかったことだ。別に言ってもよかったけれど、めんどくさいことを起こしたくなかったので、言わなかった。彼女と私の関係はそう多くなくていいと思っていたし、大きくしてはだめだと思っていたから。


 まあ、そんなことはもう、どうでもよくなってしまったのだけれど。


 私たちが今通っている道は私が約一週間死にまくった通りだ。目をつぶらなくてもその時の惨状が鮮明に映し出される。ブロック塀で囲まれている人通りの少ない通り。……怖かった。

 だから、今も怖い。

 まあ、そんなこと何をされたって口には出さないが。

 むしろ今は笑っている。なぜかというと、これからどうなるのかが分からなくてワクワクしているからだ。分からないから楽しみ。


 私は言葉を続ける。

「ほら、あそこだよね、紀異さんの家。ここから私の家も見えるんだよ。ほら、あそこ。あの白色のマンション。あれ」

「……あれ十分大きいですが! 周りの建物に比べて飛びぬけて大きいですが! ものすごい目立っている建物ですが! ……ちなみに何階にあなた様のお家はあるのですか」

「十階だよ」

「ということは、普通の家だと二十階に値する部分ということか」

「そうなる」

「……この金持ちめ」


 そう言って彼女は舌打ちをした。おお、やるか。

「べつに、引き取られた場所がそこだっただけだよ。私はもともと周りが山しかない田舎暮らしだったし」

 ぶっきらぼうにそう私が言うと、彼女が首を曲げてくる。なんのこと? と言っている感じだ。

「凜和ちゃんって孤児だったの?」

「……そうだよ。まあ、どうでもいいんだけれどねー。というかさ、紀異さんご飯どうする?」


 携帯を開くとディスプレイは六時過ぎを知らせていた。そろそろお腹が空くような時間だろう。

 よかったらと思ったが、彼女は首を横に振ってきた。

「遠慮しておくよ。いきなり来て初めましてなのに、急にご飯を頂いてもよろしいでしょうかとか言われても困るだろうし」

 まあ、考えてみたらそうかもしれない。一般の人なら。

「私の家族、基本客人ウェルカムだから大丈夫だと思うんだけれど……」


 昔、私の家にお義母さんの同僚という人がいきなり家に上がり込んできたことがある。私がまだ中学にも行っていない頃だった。が、そんなのお構いなしに日が変わるまでどんちゃん騒ぎしやがった。確かその時お兄ちゃんも高校生ぐらいだったな。普通に上機嫌だった。意気投合していた、発泡酒を片手に……。あれは気のせいだろう。まあ、そんな家庭なのだ。

 だから、そんな気にしないでもいいと思うんだけどな。


「いいよ、お気になさらず。それに今日はちょっとお邪魔するぐらいでいいから。凜和ちゃんの傷の怪我だけ治療できたら私は帰るよ」

「うーん? それだと私がなんか申し訳ない気持ちに……」

「それでいいの」

「いいの?」

「うん」

 そうなぜか胸を張っていってくる彼女の笑みは、周りに光が見えるくらいきれいだった。



 家につき、あの妙に思いドアを開けるといつも通り兄が来た。

「お帰り! 我が妹凜和! 今日はなんか遅かったな! って、お? 客人か……? 客人? !? お、おい、武藏! り、凛和が友達連れてきた! は、初めてだぞ! ど、どどど、どうしたらいい!? とりあえず祝うか!?」

「祝んでいい」

 なにこの反応。ちょっとむかつく。いつものハイテンションがなんかどっかに逸れている。というか、武藏さんいるのか。大丈夫かな。


 隣にいる紀異さんを見るとなんかドン引きしていた。その中に笑いをこらえているという何とも言えない表情をしている。あれ、これ大丈夫か。

「あ、あの、大丈夫?」

「ふえ!? あ、ああ、うん。大丈夫。なんか賑やかなお兄さんだね……」

 ああ、目を逸らしてる。これはやばい。


 私は玄関に入り、彼女を入れ、ドアを閉めて、居間に入った。そして、動揺して武藏さんとあわあわしているお兄ちゃんを捕まえる。

「今日はご飯食べいかないで帰るって。だから祝ったりしないでいいです。というか、こういうことで祝ったりしないで」

「え、だっていつもどんなに仲いい子ができても家に連れてこなかった凜和が、家に客人を連れていたのだぞ!? これは、事件だ! ってなるぞ!?」

 この人は私を何だと思っているのだろうか。

「ならないよ。武藏さんも」

 そして、冷蔵庫をあさっていた武藏さんを私は睨む。

「なにも、しないで大丈夫ですから」

 彼は素直に頷いてくれた。


 そして、その後彼女を引き連れ、なんとか自分の部屋に彼女を招き入れることができた。ちなみに私の部屋には内側から鍵ができるようになっている。もともとは来客用の部屋だったからとのことらしい。嬉しいことだ。ということで、私は最近これをよく活用している。

 そして、彼女に向き合う。ちょっと考えが漏れてしまったのだろうか、彼女が身を拒める。

 まあ、どうでもいいのだけれど。

「あの、凜和ちゃん? なんで鍵を閉めたのかな? というか消毒液とかは?」

「そこのクローゼットの中にあるボックスに入ってるよ。…………でも、その前に、聞いておきたいことがあるんだけどいい?」

「ん? なに? いいよ」

 彼女は体を斜めにし、綺麗な体のラインを私に見せてくる。見れても何も嬉しくないが。

 私は何でもないように、ただ息をするように、最近ずっと彼女に確認したことを言った。

「紀異さんってさ、キイって名前のあの、キリトって名前の吸血鬼の従者だよね」

因縁篇です。こんな名前の章ですが、基本わちゃわちゃ会話劇です。

グロいことには比較的なりません。……たぶん。

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