31.なんとも理不尽
「じゃあ、続けよっか」
私は彼女らをどう見ていいんかわからない。だから私は今どういう顔をしているのかわからない。どうでもいいけれど、どうでもよくはないけれど、もうこの状況に呆れ果ててしまっていた。
まあ、いじめってこういうことなんだろうな。
「続けるって、何を?」
彼女たちはまじまじと私を見てくる。どうやら今の事でもっと怖じ気づいてくれたらしい。嬉しいというか、なんというか、わからない。
「何をって、うーん、反撃? それとも、友達は金で買えるものじゃない。金を使った時点でただの契約者だとか臭いこといってほしい?」
「は?」
彼女たちのかおが青ざめていく。私が思ったよりもドスの利いた声で話してしまったものだから、それに反応してのことだと思う。
この人たちはなんか素直でいいな。というか、弱味を見せすぎな気がする。
すると、この状況を見て、隣に座っていた紀異さんが動いた。
そして、自分のカバンからあるものを取り出し、言ったのだ。
「私が貴方たちから貰ったお金ここにあるよ。全部使わないでおいた。だいったい、信頼や仲間を金で買おうとするだなんてばからしい、アホらしい、サイッテー。ほんとうに」
そして彼女は一回言葉を止める。そして、呆れているような、笑っているような、微笑んでいるような、ゴミを見ているような目を作る。
「嫌な人」
彼女が取り出したのは茶色の封筒。しかもかなりの厚さだった。いったいこれはいくら入っているのだろうか。考えたくもないな。
そして紀異さんは誉めてもらいたそうに偉い? 偉い? と私に聞いてきたので、
「うざい」
私は真顔でそう答えた。
その言葉を聞いて紀異さんはうっと演技っぽく言った後、心臓あたりを押さえてへなへなと崩れ落ちる。むかつくけれど、いちいち行動が可愛いな、なんか和む。和んじゃいけないと思うけれど。
「うぐっ、凛和ちゃん酷い……。まあ、これ返すよ。私、こういうのいらないから」
「とか言いながら、とても、物欲しそうな顔してますが。お家がボロいから?」
「それとは関係ないよ。誰だってお金は欲しいです!」
「あ、はい……」
ガッツポーズで答えてきた彼女を見て、私はなんだか悲しくなる。ああ、これが人間の愚かさってやつなのか。
「とにかく、これ、返す。全額入ってるから」
「もしかして、紀異ちゃんが絶対現金でって言ったのって……ていうか家がボロい? 紀異ちゃんって金持ちじゃないの?」
前に出された封筒に立華さんは目を白黒させる。隣にいる北海さんは腑に落ちないとばかりに私を見ていた。いや、なんで私?
「えー? むしろビンボーだよ! 親は過保護だけど、そんなに収入よくないし、というかないし、ギリギリで生計を立ててるぐらいだしね。それに私は現金で友達に名ろうだなんて言ってくる奴なんていらない。私は、あなた達なんかじゃなくて、凛和ちゃんがいい。かわいいし、頼りになる」
あれ、問題発言受け取った。ガッツポーズでいいこといってますって顔してるけれど、なんか引っ掛かる言葉があったな。
私、今からこいつを殴ってもいいかな? なんか実用性で選ばれている気しかしない、腑に落ちない。
「それに、一緒にいてずっと楽しいから。自分の行動にいちいち気にしないでいいから。彼女の前ならなんだって出来そうなんだ」
その言葉に廊下から歓声が上がった。まて、なぜ歓声が上がる。
「だから、私はあなたたちじゃなくて、この子と一緒にいたいの。だから、嫌がらせとかするの止めて? もし、まだするのならば、私はあなたたちの両親の会社を倒産させるからよろしく」
おお、これは大きく出たな。というか、どうやって倒産……。あ、なんか想像できた。これは恐ろしい。物理的倒産だ。建物崩落させる気だ。怖いよこの子。
そして彼女は私の腕をぎゅっと掴んで私に体を近づけてくる。そして、彼女のふくよかな胸が当たってきた。あれ? なんだか殺意が沸いたぞ。なぜだろうか。
紀異さんに、宣戦布告ともとれる言葉を受けた少女たちは、口をパクパクさせる。けれど、なにか言わねばならないと思ったのか、さっきまで傍観者みたいな立ち位置にいた髪が短い北海さんが声を荒げてきた。
「なんで……どうして彼女なの。私たちは!? なんで!? なんでだめだの!?」
「いや、買収しようとしたからだろうに」
野次馬の中からそんなことがぼそりと出された。すると彼女の顔がカッと赤くなる。
「この世はお金がすべてでしょう!? 金を出されたら、言うこと聞きなさいよ!」
ああ、吹っ切れやがった。私は一言『バカ』と言おうとした。が、惜しくもその言葉は阻まれることになってしまった。
それはなぜか、彼女が私の腕をつかんできたからだ。私の腕はあることのせいで、今は精密機器並みの危うさなのだ。ちょっとの力で壁に当たってしまったらすぐに故障する、出血する。そんな腕なのだ。もちろん足もだけど。というか、からだ全身なんだけどな!
「うっ、痛っ」
無意識にそんな声が体から漏れてしまう。まあ、それも仕方がないだろう、彼女は怒りの全部を私の腕をつかんだ手に込めていたらしいから、込めて込めて、全力の握りをしていたらしいから、彼女が掴んできたところから赤い血が漏れ出してきた。赤い液体が彼女の腕を伝って滴り落ちる。
とても、笑えない光景だ。
けれど、私は笑ってしまった。
そして、ある二文字を呆然としている彼女たちに向かって放った。
「ばーか」
私はその二文字を言いまくった。二人は私よりも悔しいことに身長が上だから見下ろすということができないけれど、言いまくった。どうせなら見下ろしたい。
「なっ!?」
一瞬ひるんだすきを見て、私は北海さんから腕を取り上げる。制服の上からはわからないけれど、血も滴っでいることだし、腕の傷はすごいことになっていそうだ。すごく痛いし。
けれど私はそれを表に出さないように、不気味な笑みを浮かべる。これはただの不慮の事故だと思うから、彼女たちには関係のないことだ。
「もうその金返されちゃったし、多分もう誰もあなたたちと一緒にいたいと思う人いなくなってしまったのではないでしょうか?」
「…………ねえ、あなたのその腕どうしたの」
まあ、気になるよな。
私はため息交じりに答える。
「別に、ちょっとお茶目が過ぎてしまっただけです。この間ケガしたばかりだから、ちょっとのことでこのように出血多量になってしまいますが、それほどの大事でもないので大丈夫ですよ」
彼女たちはなんか申し訳なさそうな顔で見てくる。
ああ、この体のこともいじめみたいなことの原因となっていたのか、ただみんなの気を引きたくて体に包帯を巻きだしたと。多分体育の前に着替えるとき、私の腕や体に巻き付いている包帯に気が付き、気に食わなかったと。おお、ずいぶんと理不尽。
というか、彼女たち私の存在自体を疎んでるっぽいな。うわーひどい。
そして彼女たちは綿たちに背を向け、ひそひそ話を始めた。
「あの、その、やっぱりやめない? この子いじめるの、なんか私たちの不利になることしか予感ならないんだけれど」
「あ、かおちゃんもそう思った? やめる? どうする? というか、紀異ちゃんより凜和ちゃんを仲間内にしたほうがよくない? そっちのほうが私たちに有利なことたくさんありそう」
「あ、そうだよね、私も思ってたよ。どうする? そうする?」
丸聞こえです。私はため息交じりにきっぱりと言った。
「私はあなたたちと友達になるつもりなんて一ミリもないからね」
その後、二人は顔を見合わせ、そして顔を引きつらせながらで私にこう言ってきた。
「私たちは強いぞ」と。
だから私もこう言った。
「あなたたちの親の会社の親会社の重鎮、私のお義父さんですよ」と。
彼女たちに次の言葉はなかった。
そうして、私はこの何とも言えない嫌がらせを終わらせた。なんか、なんともいえない、うん。
でもまあ今日ほど毎日帰ってこない義理の親に、感謝した日はなかったと思う。まあ、それを出さなくても彼女たちの会社の重鎮さん、私の知り合いだからなんとでもなるんだがな。
すべてが終わった後、彼女は私の腕を治療しようとしてくれた。が、私がそれを拒んだ。この傷を他人に見せたくない。けれども彼女は引き下がらなかったので、とりあえず雑巾などで赤い塊をかたずけるのを手伝ってもらった。
ちなみに北海さんはすべてが終わった後に素早く流し台に行った。まあ、賢明な判断だと思われる。
そして、片付けが終わった後、彼女は廊下に誰もいなくなったことを確認してから意を決したように、張り詰めた声で言ってきた。
「今日、凛和ちゃんちに行ってもいい?」
突然の提案に私は驚く。まあ、彼女の家にお邪魔させてもらったこともあるし、断る理由なんてないからいいんだけれど。
「いいけど、なんで?」
「凛和ちゃんのお部屋が見たいです」
「変態?」
「違うもん! あ、ほかにもあるよ! 腕の治療をさせてください!」
「ゆるがないな。まあ、もうたぶん引き下がらないと思うからいいよ。待ってて、ちょっとジャージに着替えてくる」
すると彼女はぱあっと顔を明るくしてきた。
「うん! ありがとう! でも私以外にこの付近に人いないからここで着替えていいよ!」
そうして、彼女は私の家のありかを確実にゲットできるすべを得たのだった。
これにて暗雲篇を終わります。
次の篇は説明が多くなってしまうことが予想されます。
けれども次はグロメインじゃないので、会話劇メインなので、楽しくしようと思います!(?)




