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27.小さくガッツポーズ

 私が居間に戻るとお兄ちゃん達は今日の夕飯の準備をしていた。そんな三人の表情はまさしく十人十色といった感じで、なんか変な雰囲気を醸し出している。

 しかし私はその原因を問いただしたりはしなかった。だって面倒だし、予想つくし。さっきの武藏さんの断末魔を聞いていれば……ね、うん、武藏さん見た目はとてもおかしいぐらい綺麗に無傷になっているけれど、絶対さっき解体かなんかされてたよね、絶対されていたよね。それで死ぬ間際になって煉璃さんは証拠隠滅ということで傷とか治したんだよね絶対。じゃなかったら顔が死んでないもん。武藏さん生きてるけど生きてないよ、大丈夫なの? 寝かせた方がよくない? 私が油断して襲われたところを助けてくれたんだし、何かしてあげたいんだけど……。


 というか、治癒能力持っているってうらやましいな……、私も持っていたら毎日こんな包帯巻き巻き生活なんてしなくて済むのに。早く治ってはくれませんか私の傷よ。


 そう思いながら私は夕飯の準備を手伝っている武藏さんのほうに行き、声を掛ける。

「えっと、武藏……さん? 大丈夫ですか? あの、代わりますから武藏さんはソファーで休んでいてください」

 その言葉に武藏さんはピクリと身体を反応させ、目を潤ませてきた。

「そ、そうさせてもらいたいけど……その……いいや」

 あ、これ結構やばい。

「いやいやいや、顔死んでますよ! めっちゃ危ない顔してますよ!? 休んでください、私代わりますから」

「いやいやいや、もっと殺される、もっと殺されるから! 僕が死んじゃうから! 終わっちゃうから! 見て、煉璃さんのあの表情、嫉妬で歪んでいる表情だよ! いま凛和ちゃんに関わっちゃうと俺の精神的な命が危うい!」

 そう悲しく熱弁しながら彼は体をがたがたと震わせる。煉璃さんは嫉妬で歯ぎしりをしていた。なんだこの光景。

 それと、お兄ちゃんは軽く俺は部外者、関係ないと自分に言い聞かせながら夕飯の準備を続けていた。たぶんこれが今の最善策だな、絶対足を突っ込んだり逃げたりしないほうがいい。目の前のことを遂行しているのが一番安全だと思われる。


 そして私は一言だけ武藏さんに辛い現実を突きつけた。

「……というか、もう私と喋っている時点で危ういのではないでしょうか?」

「……っ」

 彼は顔をさらに青ざめる。とあるアニメショップのレジ袋並みの青さだ。やばい、これ武藏さん倒れそう、終わりそう。

 煉璃さんがいるコンロがある方向を恐る恐る私と武藏さんは顔を向けてみる。そこにはさっきよりも嫉妬で顔が歪んだ女の人が立っていた。あ、これ死んじゃう、武藏さん死んじゃう。というかこの人の私に向ける愛情ってこんなんなの? 凄く歪んでませんか?

 私は慌てて煉璃さんを宥める。

「ああああああ、煉璃さん! 煉璃さん! 落ち着いてください! ほら、あの、そう! この前言っていたゴスロリ着てツインテールのウィッグつけるっていうのをやりますから、ご飯食べた後にやってあげますから! だから落ち着いて、落ち着いてください!」

 とんでもないことを口走ってしまった気がするが、この場を静めるためにはしょうがないことだ。そう、人ひとり死ぬぐらいなら私が犠牲になった方が何万倍もまし。

 ほら、ね? と私は煉璃さんを見つめる。すると煉璃さんはとてもきも……いい顔で頷いてくれた。顔がほてっている、ハアハア言っている。いったい何を想像しているのだ。私は後で何をやらされるのだろうか……怖い。あ、お兄ちゃんもなんだかんだ軽くガッツポーズしている。え、マジで、嫌だ。

 なんかすごいものをこれから失う気がする。…………どうしよう、一時のテンションで言ってしまったことを今すぐ前言撤回したい、泣きたい。無理だけれど。


 まあ、そうして私の犠牲で事態は収まったのだった。


 夕飯を食べた後、そわそわしている煉璃さん、何かどさくさに紛れてワクワクしているお兄ちゃんを後目に使った食器を洗い、拭き、片付けた。

 それが終わったのを煉璃さんは確認するとスマホ片手にウハウハと凛和ちゃん、凛和ちゃん、ハアハアハアハアと言ってくる。……散歩の時間を前にしたどこかの犬だろうか? 隣にいるお兄ちゃんを見ると最近はあまり見なかったお兄ちゃんの所持品の黒のデジタルカメラを持っていた。あれ、このカメラってコンパクトながら長時間録画もできる優れものではなかったか……?

「…………」

 私は心の中で溜息を吐く。ああ、これは本当にやってしまった。因みに武藏さんは先程ものすごい勢いで謝ってきてくれた。さっきよりも顔色こそよかったが、どちらにしても死にそうな顔をしていた。あんな顔されたら私のほうも罪悪感が凄いのだが。まあ、しょうがない。

 私は煉璃さん達のほうに向き直り、言った。

「今日だけですからね、十分待っていてください」

「「イエッサー!」」

 二人の返事は聞いたこともない、いい返事だった。

凛和ちゃんのゴスロリ……! ハアハアハアハア…………。

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