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22.抹茶は嫌いです。

 そのあと、私は素早く家に帰った。キイには本当は能力のことを黙っておきたかったが、喋ってしまった。それにもう過ぎたことを後悔してもしょうがないし、考えたって何も生まれやしない。キイは私を中心街まで送るとすぐにどこかに行ってしまった。


 私は奇跡的にさっき自分が倒れていた場所の近くに転がっていた通学用カバンの中から、携帯を取り出し起動させる。ディスプレイには今現在の時刻が映し出された。今の時刻は午後八時。思っていたよりも時間はそんなに経っていなかったようだ。

 倒れていた時間はそれほどでもかなったんだな、あの長話込みでこの時間だし。だとすると……。

「痛ったあ」

 すると突然頭痛が襲ってきた。なにこれ。まるで記憶が封印されているみたいな、どんな痛みか言葉で表すのならば、頭をハンマーで殴られているような痛みが私の脳を蝕んでいる。どっかのファンタジーかよ。めんどくさい。


 まあ、誰がやったのかは目星がついているけれど。それより、そんなことを考えている暇なんて、今はない。

「早く帰らないとお兄ちゃんが心配する、面倒くさいことが起こる」

 私は可能な限り足の歩幅を大きく取りながら、地面を強く蹴った。



 家に帰ると、いつもの三人がいつもの如く、テレビの前で謎解き合戦をしていた。もう私にヒーローのことを隠す理由もなくなったので、敵の情報が書かれているあのノートも無造作に机の上に置いてある。いや、これはおかしい。もう少し厳重に扱え。いくら素性が知られたとはいえ、知られてはいけないことぐらいあるだろう。

 これは、信用されているということなのだろうか? 私が絶対見ないだとかそんな甘っちょろい事を考えているのだろうか。だとしたら嬉しいことだとは思うけれど……。


「ただいま、ごめん、急用ができちゃって少し帰るのが遅くなった」

 本当はそんなことない。でも、なぜか“嘘をついた”という罪悪感は私を支配しなかった。まるで、本当のことを言った、と私の中に誰かがいて、その人が胸を張って主張しているようだ。


 なぜなのだろうか? これは嘘なのに。

 ズキン、とまた頭が痛くなる。さっきよりも少し強い痛みだ。しかし、無駄な心配をかけたくない。私はその痛みを無視した。

 兄とは違い、私は演技がうまいほうなのだ。このぐらいならば、感情も表に出さないことは造作でもないこと。


「お、我が妹おか……どうしたその首!!」

「うわっつ、包帯巻いてる! しかし、これはこれでいいわね」

「煉璃さん、そういうことじゃないでしょう。凛和ちゃん、大丈夫?」

 私が帰って来たのを目で確認するや否や、三人はそういっぺんに言ってきた。

 あ、やっぱり気になるのか。まあ、しょうがないことだとは思うけれど。

「ちょっと転んで凄い打ちどころが悪くて痛めてしまいました。あ、でもそんな大事には至らなくて、ギプスもやらなくていいそうです。それに、三、四週間ぐらいで完治するって救急医さんには言われましたよ」

「そう、良かった。でも、それから悪化する危険があるから十分注意するようにね」

 救急医という単語がよかったのだろうか、煉璃さんは深追いしないでそう言ってきてくれた。武藏さんもうんうんと頷いている。ということは、煉璃さんと同意見なのだろう。でもそれだけで安堵するとかどうかとは思うが、少し胸をなでおろしてしまう私がいた。あまりこれには触れてほしくないというのが本音だったからだ。


 しかし、やはり家族なのだろう。兄は少し違った。

「なにか、隠している匂いがするぞ」

「へ」

「おまえ、何か隠してはいないか? それも何かとっても大事なことを、隠してる匂いがする」

「隠してないよ。大丈夫、あそういえば昨日スコーン作って冷蔵庫にぶっこんどい――」

「なぜそれを言わない! やはりいい匂いがすると思っていたのだ! 我が妹、作ったのならばなぜ言わない! それもスコーンだと!? とってもおいしいものではないか!」

 お兄ちゃんは私の言葉を遮ってそう言ってきた。あ、もうダメだこの人。でも、私にしては都合がいいことなのでこのまま話に乗っかろうか。


 そうして私はそ知らぬ顔で言葉を返す。

「でも、抹茶パウダー入れたよ?」

「うぐっ、なん……だと……!? 俺めちゃくちゃ抹茶が嫌いなのだが!!」

 お兄ちゃんは抹茶が吐くほど嫌いだ。なのでその事を知っている人は兄にとられたくないお菓子は、抹茶味のなにかと一緒にしまっていることが多々ある。私もその方法よく多用しているし。そうすると兄は拒絶顔でそのとられたくないものが入っている箱を閉めてくれる。とても使える手だった。

「嫌がらせー。あと勝手に食べられないための最善策だったので」

「くっ、流石我が妹、俺の弱点を突いてくるとはなかなかやるな。だがしかーし! その抹茶味の他になにか作ったのを俺は知っている! 確かに、台所にある凛和の料理グッツから抹茶パウダー、チョコチップ、小麦粉、ベーキングパウダーが減っていることは今日凛和が学校に出掛けて行った後、アニメ見て、ロ……とある雑誌を見た後に確認済みだ!!」

 マジかよ。知っているのかよ。というか、踊るように話してくるの癖なのかなんだかわからないけれどやめてくれないかな。見ててうざい。

 それと今、ロリが主軸の雑誌って絶対言いそうになってたな。でも煉璃さんがいることを思い出したからとっさにい方変えたな、うん。


 それにしても、兄はとても楽しそうに言葉を続けてくる。内容はある意味私にとって怖いものなのだが、若干今引いている最中なのだが。

「けれど、ならばココアパウダーはどう説明を付けるのだ、凛和!」

「……どうしよう、お兄ちゃんが怖い。あなたは私のなんなのですか」

「兄だ!」

 兄は胸を張ってそう答えてくれた。いや、そういうことじゃない。


「いや、うん、そうなんだけれど、そこから何か狂気性が垣間見えるというか、なんというか。ごめん、普通に引いた」

「お褒めにあずかりどうも」

「いや、ほめてない! ほめてないよ!?」

「ふっ、俺がそんな言葉で屈するとでも! ならばそれは邪論だ! 俺はだなこう見えて精神が図太い!」

 自分で言いやがったよ。

「そう、それは地面に張り付いたガムよりも!! いうならばだな、そう! 瞬間接着剤を地面に塗ってから地面に張り付けたガムみたいに図太い!!」

「汚い」

「お褒めにあずかりどうも!」

「だから褒めてない!」

 このお兄さんは話してて疲れる。今すぐ寝たい。


「まあとりあえず、そのココアパウダーはどこに消えて行ったのかな!?」

 兄はとても嬉しそうに暑苦しいのはそのままで、私にそう問いかけてくる。これ以上話したくない私はぶっきらぼうに、ふてくされながら冷蔵庫の方を指差す。

「……お兄ちゃん用にココアパウダーを入れたスコーン作った」

「ありがとうございます!!」

 そのままお兄ちゃんは冷蔵庫の方にかけていった。ちなみに私たちの話を楽しそうに傍観していた煉璃さんたちも一緒にかけていった。

 くそ、負けた。なんか悔しい。


 私もなんか他の人が楽しそうにしているのがしゃくだったので、そのなかに入った。それが私たちの夜ご飯となった。


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