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21.淡々と進めますよ

 気が付いたら私は人が来ることが少ない道端に倒れていた。どうやら寝ていたか何かしていたらしい。辺りはとても暗い。時刻は、何時だろうか。二十時ぐらい? それとも真夜中の零時とか? 私は体を起き上がらせてから、なぜかざわつく胸を落ち着かせようと、深呼吸と伸びをした。

 にしてもなんで私はここに寝ていたのだろう? 日向ぼっこ? こんな裏路地で? いやいや、私こんな路地裏で寝るようなバカじゃないし。


 私が寝ていたのは、私の住んでいる街で一番栄えている中心街に繋がる裏路地だった。この路地は知名度が低く、人はなかなか通らない。通るのならば、近くにある山に住んでいる動物ぐらいだ! と思うほど人は通らない。心の中でこの道のことを私は獣道と呼んでいた。


 そんなことを思っていると、私はある違和感を抱いた。

「あれ、なんでこんなに外が涼しく感じるの? って……うわあああ……」

 私はその違和感の元凶に気づいたとたん、とても苦いものを食べたような顔になった。

「服が、大変なことに……」

 そう、今の私の恰好は人に見せられるものではなかった。服のあちらこちらが、まるで意図的に切り刻まれたかのように破けていたのだ。まあ、当り前だが下着とか丸見えです。というか、下着の一部は完全に切れていた。もう下着の役割もしていない。これは恥ずかしいにもほどがあるよ。


 これは、やばい。人さまに見られるような恰好じゃない。というか、今周りに人いないよね!? いないよね!? 大丈夫だよね。

 私は周りを見渡す。

「大丈夫だよ。誰もいない、誰もいない」

「ふう、そうだよね、誰もいな……」


 少し無音の時間がはいる。私はゆっくりと声がした方向をぎこちなく向く。

「おー。すっごい大胆な格好してるね。凛和ちゃん」

 その声の主は薄いピンクと黒のレースが印象的なワンピースと、少し青色が混じった黒髪をかわいく揺らしながら、楽しそうに私を見ていた。余興を楽しんでいるようにも見えた。

「わあああああああああああああああああああああああああ!!」

 私は驚きのあまり惨めにも叫び声をあげ、身体を仰け反りながら後ろに数歩下がった。この子は本当に嫌だ。トラウマ。あの無表情の鉄パイプ攻撃は本当に怖かった。


「な、なななな、なな、なんであなたがここに……!? というか、私の思っていること勝手に覗かれた!? って、痛っ!」

 その時、私の体に激痛が襲ってきた。私は一番痛みを感じた背中を触ってみる。手に何やら生暖かい嫌な感覚を覚える。

「ナニコレ。ぬとぉってする。気持ち悪い。見たくない」

 私が顔を顰めると、少女は楽しそうに私に向かって指をさしてきた。

「ほら! そこ現実逃避しない! その鉄臭い液が付いた右手を自分の眼下に運ぶんだ! さあ、レッツゴー。あ、自己紹介忘れていました。私はこの前貴女さんを襲ったキリトって名前の吸血鬼の従者で、部下のキイって言います。これからよろしくねー」


「いや、マイペースだなおい。これからよろしくお願いしたくないです。というか、これまだ同情とかのほうがよかったよ」

 いきなり自己紹介始まったって私にはどうすることもできないのだが。両手を前に振られたって私の手には……。私は意を決して自分の手を眼前に持っていく。すると真っ赤な液で染まった自分の手が見えた。

 私は言葉を棒にする。

「うわー。血だー。すごいやー。真っ赤っかだー」


 そのあとに、私はほんのちょっとだけ溜息をついてから、少女……キイを舐めるように見る。

「な、なに」

 その異常さに気が付いたのか、キイは納得がいかないとでも言いたげに顔を少し歪めてきた。

「いや、あなたがやったのではないかと思いまして。まあ、違うようだけれど。記憶がなとはめんどくさい事ですねー」


「え、凛和ちゃん貴方、記憶がないの? 記憶喪失? あと、私は助けた側だから、そして人にあなたが見つからないよう、見張ってた側だから! ハーリー!?」

 キイは自分の膝を私を急かすようにバンバンと叩く。その行動に意味はあるのだろうか。まあ、いいんだけれど。

「ハーリーってなんですか。なんで訳も解らず急かられなきゃいけないの。解った? ってきくんならアーユーオッケー? とかじゃないのですか」

 私は赤く濡れた手を拭く為に、ハンカチを能力で取り出した。そして拭き、そのあと水を取り出してすすぎ、また拭った。


「記憶喪失と言っても、この傷たちに関することだけですよ」「え、ちょっとその証拠隠滅グッツはどこから出てきたの、ねえ」

 私は、キイの言葉を無視しながら傷の手当と言葉を続ける。

「そのほかの出来事は消し去りたいほど鮮明に覚えているのに、それだけがない。なんかおかしくないですか?」「おかしいも何も、あ、なんか怪我を治療する手際よすぎない? おかしくない? 背中に至っては迷いなく治療をしているけど、え? 背中に目でもついてるの? というかそれはどこから出てくるのですか!!」


「よしできた。で」

 私はきょろきょろとあたりを見渡す。誰もいない。悪魔以外誰もいない。

「ねえ、キイさん」

 全く相手にされなかったキイはご立腹なようで、大人っぽい外見とは真反対にかわいらしく頬っぺたを膨らませている。

「なんですかー。私の質問に答えなかったくせに、質問してくるとか虫が良すぎるのではないですかー。まず、私の質問に答えよ! 包帯女!!」


 包帯女言われた。まあ、確かに今いろんなところをガーゼでふさいだ後、包帯でぐるぐる巻きにしたからな。

 それに首に何か牙を刺された跡が新たに生まれていたが、あれは何だろうか。吸血鬼か、あいつがなんか私にやったのか。だとしたら本当に嫌だ。

 まあ、私には治療スキルみたいのは持ってないということで首にも包帯を巻いた。絆創膏でもよかったけれど、それだとお兄ちゃんがいろいろ言いながらそれを取ると思った。そうすると何かがばれるような気がして、嫌だった。まあ、包帯のほうがいろいろ言われて気が付かないうちに取られそうだけれど、そこはご愛嬌ということで。


 私は首の後ろあたりを掻く。いかにもめんどくせーなー。と言っている感じで。

「これは、いわゆる特殊能力、異能力、超能力と言われている代物で、それを使って取り出したのですよ。まあ、要するに応急処置とかそんなもんです。いつもは使わないのですよ? 使うのはお菓子作りでたまに道具をやっちゃったときとかで……」

「あ、なるほど。それでキリト様傷つけたナイフ取り出したんだ。ほー。ものを生み出す能力ですかー。体が追い付けば最強だな」

 あらま、バレてしまった。この悪魔、意外と推理力とか、洞察力とかいいらしい。


「そう、私は物を生み出す能力を持っているのですよ。だたし、出せるのは非生物に限りますが。それと、これ」

 私は自分の服を触る。すると瞬く間にしわのない綺麗なワンピースの制服に戻っていた。直す、ではなく戻る。これ重要。


 それを見たキイからは落胆の声が上がった。

「おお、バッチリと証拠隠滅完遂しやがったよこの子」

「物の時間を戻す能力です。ただし使える対象は非生物に限ります。たぶん。まあ、あまり使う機会とかありませんが」

 これからは解らないけれど。と、小声で付け足す。そうならないことを祈るばかりだが。


 私はパンパンと制服を叩く。その様子を見るキイは溜息をついた。

「その大胆さがあるのならば、もう敵に負けるあなたを見ることがなさそうだなとか思ってしまう。まあ、負けるのだろうけれど。あ、あと、首にある牙の後だけれど、それキリト様が貴方の血を吸った後だから。キリト様が貴方につけた傷はそれだけだからね。もうあなたはあの人の食料決定だって。おめでとう。祝福してあげるよ。まあ、これは決定事項だから。そこんところよろしく」

 ビッと効果音化付きそうな勢いでキイは右手の親指を上に突き出す。グッジョブという意味だろう。すっごく嫌、とても不快だ。


 少しの間沈黙が生まれる。そして、その沈黙を破ったのは包帯を巻いた首の牙の痕があるところを、右手で触って手を落した私だった。

「…………やはりか」


 もう私は日常に戻ることができないようだ。


包帯少女凛和爆誕。やったね!

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