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2.葱楽さんの秘密

「ならよかった」


 葱楽さんは安心したように笑う。


「あ、そうだ。葱楽さん何か飲みます?」


「え、いいよ、お構いなく。あと名前呼びでいいよ。煉璃れんりって」


 彼女は照れるように頭を掻く。前から薄々気づいていたのだが、彼女はたぶん私に名字でさん付けされるのは照れ臭いみたいだ。なんだかかわいい。


 美人で中身かわいいとか最強だ。うらやましい。


「あ、じゃあ、あの」


 私が頑張って名前呼びをしようとしたその時、なぜか葱楽さんはいい顔で私に近づいてきた。

 そして私を壁際まで連れていって壁を使って覆いかぶさるように、逃げ場がないようにされた。

 それをやりとげると、嬉しそうに顔を私の耳元に近づけた。

 葱楽さんの口元が私の耳すれすれだ。いや、何がしたい。


「なんですか?」


「いや、一度やってみたかっただけだよ。凛和ちゃん小さいからやっぱかわいいね、小動物見たい。ワンピース型の制服もとっても似合ってるよ」


 吐息が耳元に伝わる。くすぐったい。いや、なにがしたい。


 しかし一応私は礼儀というものを知っている。誉められたからには礼を言わねば。


「あ、どうも。ありがとうございます」


 私の学校の制服はワンピース型だ。裾上げ防止策らしい。因みにスカートの下部には微妙に柄が入っているので、スカートを切って短くするという方法も取れないという素晴らしい鬼畜な二段階構造になっている。

 まあ、物は選べてブラウス型もあるのだけれど、私はあえてこちら側を選んだ。着たり脱いだりするのが楽という理由で。


 そして私は認めたくないが、背が少し小さい。百四十センチだ。いつかまた成長期が来てくれると信じている。こい、私の成長期。あと、ついでにいうと葱楽さんは女子にしては大きいほうで百七十五センチだ。


 身長分けてほしい。切実に。


「でも、小さいのは余計です」


「えー。いいじゃん。茶色いポニテの髪も合わさって素晴らしいと思うよ。まだロリいけるよ。合法ロリという素晴らしいジャンルに入れるよ? なんなら私がゴスロリ買ってきてあげるよ」


 あ、やばい。葱楽さんのスイッチが入ってしまう。話題を変えなければ。

 なぜなら葱楽さんは極度の小さい子好きで、ロリコンで、勿論ショタも大歓迎らしい人だ。

 さっきお兄ちゃんがやめろと言っていたのはそれ関係の本だったからで、知られたらすべて盗んでいかれるのはもう軽く予想ができるほどの人なのだ。だからあの人はあんなにも嫌がったのである。


「あ、そうだ。話は戻りますけど、今何か飲み物飲むのなら昨日私が作ったレアチーズケーキがついてきますよ」


「飲みます! 食べます! いただきます!」


 素晴らしい三連コンボ。


「わかりました。えっと、煉璃さん。では、その体をどけていただけませんか」

「!! 私の名前どさくさに紛れて呼んでくれた! やった! かわいいかわいいかわいいかわいい!! もっと呼んでいいんだよ? それにこんなにいま近いんだから、吐息混じりで、上目遣いで、ギュッって私の体に手を廻したりして、なんなら耳を甘噛したっていいんだよ? あっ想像しただけでもこれはご飯何杯でもいける感じですごくいい……」


 彼女の方が吐息混じりなんだが。ハアハアうるさいんだが、というか息が耳にあたってくすぐったくて終わりそうなんだが。


 うわ、煉璃さんの顔が怖いよ。火照ってるよ。どんな妄想してんの。いや、どんな妄想しているのかは手に取るように解っちゃうんだけれど、というか誰か助けて。


「いや、やりませんよ、それより退いてくださいよ。ちょっと本当に嫌です。やりたくないです。耳を甘噛なんてやったら私が私じゃなくなるような気がします」


「え、そんなことないよ。大丈夫、すぐ終わるから、なんもないから」


 なんかどっかで聞いたことあるような台詞だ。


 私はとても嫌そうな顔をしながらぐぐぐと腕で煉璃さんの肩を遠退ける。効果は無いに等しいが。一応やる。抵抗する。


「いやいやいや、ありますから、お願いです。退いてください」


 と、そんなとき、ポンと、煉璃さんの肩に手が置かれた。


「おいおい、そんなことしたら我が妹凛和が、凛和じゃなくなるじゃないか」


 お兄ちゃんだった。


「あ、おはよ。起きるの意外と早かったね。もう少し寝てても良かったのに。あ、なんならもう少し寝る? 落としてあげようか」


 煉璃さんは正直だった。お兄ちゃんの方を向いて澄ました顔でそう言いやがった。


 いや、怖いよ。しかし、お兄ちゃんのおかげで煉璃さん監視下から一瞬省かれた私は、静かにちゃっかりと、拘束から逃れるのであった。


変態が生まれてしまった…………これからも量産したいです!

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