19.やっぱりこれか
話し終わった後、彼女たちの方向を見るとなんとも言えない表情で私を見ていた。
これはどういう反応なのだろうか? 哀れみ? 感心? 同情? それとも、なに?
「……同情とかは要らないのですよ? むしろしないでいただきたいのですが」
私は眉を八の字にしながらとても嫌そうにそういうと、煉璃さんが少し笑ってから首を振ってきた。
「いや、そういうことじゃないんだよ。ただ、思っていたよりもグロイ状況だったんだなって思って。想像したらとんでもないものだっただけで……。ね……」
少し言葉を詰まらせた煉璃さんの言葉を武藏さんが受け継ぐ。
「そうそう、現実味がないというか、本当にそういうことが世の中にあるんだなあって。あ、でもこれは僕が言っていいことなのかな。いつもそんなこと味わっちゃてる僕たちが。でも、それを見て味わってよく凛和ちゃん壊れなかったね。頑張ったね」
お兄ちゃんを見ると彼は腕を組みながら、まるでそういう機械なのではないのか思ってしまうぐらいに大きく首を縦に振っていた。
「だな! 俺だったら壊れてるな! この前だって壊れそうだったし! だからさ、お前やっぱすごいよな! 偉いよな! 頑張ったな! でもさ、あまり溜めこまないでくれよ。お願いだ。お前が壊れるさまを俺は見たくない」
しかし、そんな笑ってしまうような行動とは逆に、お兄ちゃんの顔は真剣そのものだった。その他の人達もそうだ。どうやらお兄ちゃんの言葉が彼らの思いそのものらしい。
アニメの見過ぎか、ラノベ小説の読み過ぎかよくわからないけれど、随分くさいことを思ってくれるな。まあ、嬉しくないと言ったら嘘になってしまうけれどけれど、ちょっと照れ臭かった。
言われた側が照れ臭くなるような言葉なんてそうそう言えたものではないよ。やはりお兄ちゃんはいろんな意味ですごい。
「えー、どうしようかな。頼るにしてもお兄ちゃん少し感情的になるところあるからこっちが心配になっていくことろあるからなぁ」
「うぐっ! そ、そこはだな! なんとかなるさ! だって、俺の周りには煉璃や都己がいるんだぞ!? ほら、心強い」
私がおちょくるような目で見たら、お兄ちゃんは慌てながらそれでも一生懸命に私を安心させようとしてきた。これでは自分一人では何もできないことを分かっているようじゃないか。お兄ちゃんは強いのに。
「そっか。わかった。じゃあさ、私は精一杯壊れないように頑張るからさ、お兄ちゃん達も壊れないようにしてね。でも、もしお兄ちゃん達が壊れちゃったら私はお兄ちゃん達を無力なりに助けに行くから」
私ははにかみなからもそう答えた。もう大丈夫だよ、一人じゃないって気づけたよって言っているように。というか、お兄ちゃんは自分のペースに運ぶのが本当上手いと思う。まあ、それは悪いことだと思わないくて、逆にとてもいいことだと思うからいいのだけれど。
そして、私の言葉を聞いたお兄ちゃんは一瞬目を見開いてから、何かを決意したような顔になった。
「おう、じゃあ俺もお前が壊れたら真っ先に助けに行ってやる」
それは心強い。いくらでも私はぶっ壊れられるな。
「じゃあ、約束だよ、お兄ちゃん。約束」
そうしてお兄ちゃんに小指を差し出す。それを見て煉璃さんと武藏さんは顔を見合わせてからにまあと笑ってから、
「あ、僕も僕も!」
「私も約束する」
と私たちの会話に入ってきた。そのあと私たちは指切りげんまんをした。もう誰も、悲しそうな顔をしているものなど、この空間の中にはいなかった。
やはり、みんなが笑っている空間のほうが私はいやすい。
次の日、私はいつも通りに学校に行った。
教室に入ると私は窓側の一番後ろの自分の席に直行し、本を広げる。朝一緒に話すような友達など、いない。というか、いなくてもいいと思っている。
そういう私とは反対に、私の隣の席の人間は楽しそうにというか、けだるそうに話しを合わせながら会話をしている。名前は月詠紀異さん。とても人目を引き付けるような美貌を持ち、驚異的な身体能力を持つお方。
その美貌からか、どちらかというと貧乏な方なのに、勝手に家が金持ちだと思われているという悲しいお方でもある。
ちなみに私は一回だけなぜかお宅にお邪魔させてもらったことがあるが、とってもみすぼらしい二階建ての築三十年は経っているであろうアパートで独り暮らしをしていた。
あの時はとても度肝を抜かれたものだ。しかも意外と私の家と近いし。徒歩十分ぐらいでついてしまう。でも、それでも中学の学区は少しだけ違ったようで高校で初めましてだった。
そうして、今。彼女は私とは真反対に友達をたくさん持ち、クラスからの信頼も高い人になっている。やはりこういうものを見ていると、とてもじゃないけれども世の中は顔がすべてなのかと思ってしまう。
しかし、彼女は決定的な欠点があった。
「あ、凛和ちゃんおはよう」
「……。おはよう」
私は嫌な予感を胸に抱きつつ、彼女の話している友達を無視し、いきなりの私へのあいさつに応答した。そうして、その直後に彼女は私に頭を下げてきた。
「おねがいします。今日のテストで絶対出ると思われるところを私に教えてください。私には到底理解できない」
「自分で努力とかは」
「努力はしたよ? したんですよ? でもね、解んなかったんです!」
顔を上げた彼女は涙目だった。よっぽど危機感を抱いているのだろう。まあ、無いよりはましだとは思うけれど。
そう、彼女は頭が悪い。とてもじゃないけれどお世辞にでも頭がいいと言えないぐらい悪い。というか、この人の場合要点がつかめればわかるのも増えてくるのだが、それに行くまでに時間がかかりすぎるのだ。
私は溜息をこぼす。
「……。テスト当日になんでそれを言う」
「学年トップの凛和ちゃんなら何とかしてくれると思って」
「そんな周りに光が芽生えそうな笑顔でそう言ったって何にもなんないよ」
「せめて赤点回避できるだけでいいんです。教えてくれは致しませんか!」
「うわっ」
彼女は抱き着いてきた。そして同時に私の体を揺らす。うっわ、紀異さん涙目から泣くにグレイドアップしてるよ。これはひくよ? というかなぜそこまでなるまでそのことを放置して入れるのかが不思議でたまらないのだが。
「お願い、揺らさないで。お願い。って、?」
「? どうしたの? なにかおかしい事でもあったの?」
いきなり私が怪訝そうな顔をしたからか彼女は涙で濡れた目で私をじっと見てきた。そして、目が合う。
それを慌てて私はそらしてしまった。ちょっとびっくりしてしまった。というか本当彼女は綺麗な容姿をしていると思う。うらやましい限りだ。
「……いや、なんでもない。とりあえず勉強するよ。先生が来るまであと三十分の猶予あるし。あの、紀異さんのお友達のお方々はどうします?」
私は紀異さんの友達である立華 香織さんと、北海 胡桃さんに一応聞いてみる。
彼女たちは即答で、
「お願いできる?」
「得点取りたいからやる!」
と言ってきた。二人の答えはどこか上から目線で、お前は私たちに教えて当たり前という意味も解らない思いが堂々と溢れ出ていた。これだから権力に頼って生きてきた人間は……。
そんなこんなで学校はあっという間に終わった。テストが終わった後、紀異さんからはありがとうと頭を下げられた。そのようだとかなりの問題数をこなせたらしい。
まあ、教えていたところは完全なる私が根拠もなしにここはでるだろうと思ってヤマを張ってみたところだったので、出るかどうか不安だったものが多かったが、テストが来てから驚いた。教えたところがすべて出ていた。奇跡だった。
というわけで彼女が私が教えた所を覚えていたのならば、結構な点数を取れたことになるだろう。たった三十分しか教えなかったとしても、結構とれたと思う。うん。
そんなことを思い返しながら歩いていると、私の視界にあるものが映ってきた。
「え、刃物……?」
思いもしない物質に意識もなしに言葉が唇からでてしまった。私はあわてて口を真一文字に結ぶ。
そう、刃物を持った男の人が歩いていた。身長は百八十センチで喪服にシルクハットという何ともいえない格好だ。それに見たところ刃渡り約三十センチのナイフだ。顔は帽子が陰になって見えないけれでど、それでも見ていて危険ということが分かる。
そんな人が住宅街を歩いているなんて通報ものだ。けれども、通報はおろか、警察車両の音すら聞こえてこない。
――これは異様だ。
私は逃げようとした。けれども、そうしようとした時にはもう遅かった。
ああ、もう私は平和な日常に戻ることはできないのか。
更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
この話で今回の章は終わりです。次の章は面白いわちゃわちゃしたものにしたいです! わちゃわちゃ楽しい。




