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17.すべてはノリと〇

 煉璃さんはお兄ちゃんを後目に言葉を始めた。

「もうこんな話してても前に行けないから、私たちの本題にことを移しましょうか」

「そうですね。じゃあどこから話します?」

 それに武藏さんが乗った。どうやら本当にお兄ちゃんのことを呆れてしまったらしい。もう少しかばってやったらどうかと思ったが、そんなことは無理らしい。


「やっぱりなんでこういうことをするようになったのか、かな」

「そうですね。と言ってもそんなに話すことなんてありませんよね」

 その言葉に私は反応する。

「え? そうなんですか? 私が見ている限り、結構生死がかかっているような事柄だと思うのですが……」

「そうなんだけどね、ほら、私達年齢は少し離れているけれど、結構昔から仲良かったじゃん?」

「そうですね。私がここに来たときはもう御三人さんは一緒に遊ばれている仲でしたし」

 そう、私がこの家に来たのは十一年前。だが、その時にはもう三人はバカのように仲が良く、一緒に今のように遊んだりしていた。最初は私は馴染めずに一人で遊んでいることが多かったが、だんだんお兄ちゃんと煉璃さんに押されて一緒に遊ぶようになっていった。

 まあ、あの時はとても活発な時期だったのでほぼほぼ外で遊んでいたという記憶が多いが。

 

 というか、私十一年間も一緒にいるのにこの人たちのことは敬語で名字呼びしてたんだ。今気づいた、これは自分でも驚きだ。どっかでタメ口になっててもおかしくなかったよな。なんでこうなってるんだ? あ、ダメだ。わからない。


「でさ、さっき凛和ちゃんの話にも出てきたように、閏のお母さん――だから凛和ちゃんの義理のお母さんにあたる人は私たちの司令塔みたいなの。で、もともとその、ヒーロー? っていうのかな、なんていうかここら辺の地帯の安全を守る……あ、警察! そんな感じのものになる素質が私達にはあったんだって。それでならないかーって言われたの」

 そこで私は何かを察した。そしてこの人たちのことを呆れるを通り越して感心してしまった。

「それで、ノリで楽しそうだからいいよって言ったのですか?」

「あ、さすが凛和ちゃん。あったまいい。それであっているよ」

「あ、ああ、ありがとうございます。武藏さん」


 煉璃さんは話を続ける。

「そう、私たちはノリでいいよって言ったの。給料も出るっていうし、というか給料が高かったし」

「そこが本音ですね」

 私は瞬間的にそう指摘した。指摘してしまった。なぜなら、隣にいる武藏さんがうんうんと首を縦に振っていたからだ。これは解りやすすぎだろう。結局は金なのか、そうなのか。


「あ、ばれた。まあ、一般の会社員よりも何十万か多いぐらいで、そんなには貰ってないと思うよ。うん」

「まあ、僕たちはノリでヒーローを始めたんだよ。だから別にそんなに言うことない」

 目を泳がせながら二人は話を閉めた。


 私はそれには笑って入れなかった。なぜって、そりゃあさっき話したものよりももっと重大な事を話さなくてはいけないからだ。

「……わかりました。で、私はもう一つ話しておかなくてはいけません。そして、謝らなくてはいけないことがあります」

 ほかの人たちの頭の上にははてなマークが浮かんでいる。私が謝らなくてはならない事柄が浮かんでこないのだろう。

 しかし、言わなくてはいけない。私の、今の私の基盤を作ったこの物語げんじつを。


「お兄ちゃん、煉璃さん、武藏さん。私は、嘘を付いていました。思い出したくなかったから、口に出したくなかったから、もう、無かったものにしたかったから」

 私は椅子から降り、床に正座になり、そのまま頭を床につけた。土下座という謝りかた。

「え? 凛和ちゃん、話が見えないよ」

「凛和、どういうことだ?」

 煉璃さんとお兄ちゃんが私の頭を上げようと声を掛けてくる。しかし、私は頭を上げなかった。


「私は、覚えていました。一回も頭から離れなかった。地面にくっついたガムどころじゃない。接着剤で無理やり頑丈にくっつけたように、一回も頭から離れてくれることは無かった。あの、十一年前の出来事は。離れて、くれませんでした。ずっと、覚えていました」


 三人が黙る。怒っているのだろう。凄い形相で、怒っているのだろう。

「これまで嘘を付いててごめんなさい。話さなくてごめんなさい。弱みを見せたくありませんでした。余計な心配されたくありませんでした。ごめんなさい――ごめんなさい!!」

 私は悲痛な叫びに似た言葉を唇で紡ぐ。こんな表現でしか表せないんだ。

 頭はまるでボウリングの玉みたいに重くなっている。あげたくない、そう心のどこかで思っているのだろう。怖いんだ。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!ごめんなさい!」


「いいぞ」

 私が泣きながらそう言っていると、お兄ちゃんの声が聞こえた。

 私は目を見開く。同時に安堵と恐怖が一気に襲ってきた。

「大丈夫、そんなに怖がるなって。怒ってない、怒ってないから。大丈夫だから、辛かったな、怖かったな。だって目の前で親を……。それをずっと忘れてなかったとか、忘れならなかったとか、どれだけの拷問だよ。よく、頑張ったな」


 私はその言葉を聞いて、大粒の涙を流した。くさいセリフだと思った、お兄ちゃんらしくないと思った。でも、


 ――頑張ったな


 この言葉が心から響いたのは、今日が初めてだった。

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