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14.吸血鬼篇の後日談2

 私は、お兄ちゃん達の目を何とかごまかして、外出した。

 因みに今の服装は、猫がクレーンゲームのアームに引っかかっている絵が描かれている、紺がベースのフードがついた服に、深緑の七分丈の麻製のズボン。それにいつもはいているスニーカーが昨日使えなくなってしまった為、ローファーを履いている。


 そして、昨日私が吸血鬼に遭った公園へと赴いた。

 なぜそこに行こうとした? と問い詰められたなら、理由はたった一言で言える。事足りる。

「ケータイ、無くした……」

 私は今日の朝、顔を青くしながらそう呟いたのだった。それで私の体中の隙間に入っていた眠気が一気に無くなっていったと言っても過言ではない。

 本当は放課後探す予定だったのだが、もしかしたら家のどこかにあるのではないかという考えが脳裏に過った為、一回家に迂回ルートに入るつもりで帰ったのだ。そうしたらあの騒ぎだ。

 まあ、しょうがなかったと思うけれど。


 私にとって、ケータイとは日常に無くてはならないもの。というか、この世にいうヲタクという生き物は、それがなければ生きては行けないのだろうか? とさえ思ってしまうぐらい私はケータイが大事だ。

 この世にケータイを生んでくれて、進化させてくれた方々には心からお礼を言いたい。

 そんなケータイを、私はどうやら失くしてしまったようなのだ。これはピンチ。本当に絶体絶命。いろんな意味で死ぬ。


 だから、昨日襲われた公園に来たのだ。

 とりあえず、私は昨日暇を持て余した公園の遊具のあたりをなど、いろいろなところを隅々と探した。結果を言うと、見つからなかったのだが。

「ない……。え? いやいやいや。 これは、無いよ。まさか、まさか、ねえ。魔界とやらに忘れて行ったとか絶対ない。もう絶対帰ってこないパターンとか絶対嫌だ。もう一回探そう。うん」

 そうして、もう一回私はありとあらゆるところを隅々と探した。そして……。

「まじか」

 見つからなかった。私は膝から崩れ落ちた。


 それから数分経った後、

「うーん、もうこんな時間だし、今日は諦めて家に帰るか」

 と言いながら公園を後にしようと立ち上がった時だ。

「おーい、待て」

 もう一生聞かないだろう、というかもう一生聞きたくないと思っていた声が聞こえてきた。

「…………。は?」

 私は声がした方角を見る。

 すると、私のケータイらしき物を持った、あの、肌と他の物のコントラストが激しい、真っ黒い吸血鬼が立っていた。

 彼はまるで、私に会えたのがとてもうれしい! と言っているように笑いながら、話しかけてきた。

「や、これ、落とし物だよ。まったく、吸血鬼の屋敷に落としものとは、お前は馬鹿じゃねーのか」

 そんな吸血鬼を私はとても警戒して、睨みつける。

「は? 馬鹿? なんでお前にそんなことを言われなければならない? というか私のケータイ! なんでお前が……! というか、そもそも私、ケータイ絶対落ちないようにパーカーの裏ポケットにチャックをして──。あ! もしかして、お前、私のケータイぜった盗んで何かしただろ」

「あ、ばれちゃった? というか、君推理早いねー。実はさ、凛和ちゃんのケータイ盗んで、起動して、チャットアプリ起動して、お兄さんのケータイに凛和ちゃんの寝ているところと俺がピースしているところを映して動画にしたもの送ってから、GPS機能オンにしたんだよね。お兄ちゃんから聞かなかった?」

 にやにやと吸血鬼が笑う。

 私はお兄ちゃんからそんなこと聞いていない。もしかしたら、あとで話そうとしていたのかもしれないけれど。


 というか、異世界にいることをGPS機能なんかでわかるものなのだろうか。まあこのさい気にしては負けだ。

 それに、もっと違う重要な問題が存在しているんだよ。

「私、ケータイは誰にも見られないように複雑な暗証番号でロックしてたはずだが」

 そう、私はお兄ちゃんとかにバレても覚えられないように、ケータイのロックを結構複雑な番号にしている。それを解かれたということか。やばいな。番号一応変えた方がいいかも知れない。

 そんな考えが脳裏によぎる。が、そんなことは無駄だとわかった。吸血鬼が胸を張りながらこう言ったからだ。

「俺にかかればそんなもの、ケータイを乗っ取ればたやすく突破できる」

 え? ケータイ乗っ取りってまさか。いや、でもそんなこと、できるはずがないだろう。

「え? ケータイ乗っ取るって、どうゆう……」

「言葉通りの意味だよ。ケータイという機械を自分の手足のように操ることができるんだよ」

「マジか」

「マジだよ」

 ということは、ケータイのロック番号を変えても意味がないということか。あの個人情報の塊の箱のカギが変えられない。辛すぎる。

「だから、あんな八文字の数字列なんで一発で解ったよ。もう忘れたけど。あれさ、複雑すぎじゃない?」

「おお、そうか。覚えてなくてよかった」

 あ、これで嬉しい意味で変えなくて済む。私は少し嬉しくなった。

「また機械を乗っ取ればすぐ知ることできるけどね。また乗っ取ってあげようかこのケータイ」

「遠慮しとく」

 私は瞬間的に、とても低い声で遠慮した。


 というか、は?

「お前、自分が不利になることを自らやったの……」

 馬鹿ではないのか? 普通ならば、横取りされない為にもそういう連絡できてしまうものを破壊するのが一般ではないのか? しかし、吸血鬼はケラケラと笑う。

「うん、君が二度寝に突入した時に。それ終わったあとの十分後に君が起きたから、結構ぎりぎりだったけどね。危なかったよ」

 気づかれていたのか。というか、よくその時襲ってこなかったな。あ、こいつには変な段階があったんだっけ。

「ありがとうというべきなのかなこれは。というか、ケータイ返して」

「はい、いいよ」

 吸血鬼はあっさりと私にケータイを返してくれた。

「ずいぶんあっさり返すんだね」

「だって持ってたって意味ないし」

 吸血鬼は手を肩あたりまで上げてぷらぷらと揺らす。

 その行動に何か意味はあるのかと質問を投げかけたかったが、その言葉を飲み込んで私は吸血鬼が渡したこのケータイが本当に自分のなのか変な細工が施されていないか、目を皿のようにしながら確認する。

「何も、変な細工とかしてないね」

 確認し終わった私はケータイをズボンのポケットにしまって、吸血鬼のほうを向きなおした。

「当り前じゃーん。やったってどうせ君の異能で元に戻されてしまうのがオチだし。そして、ここまで逃げずに俺と話してくれた、凛和ちゃんにご褒美」

 私は警戒心を大にする。しかし、予想していたことよりはるかに上回ることを吸血鬼は私にしてきた。


「!?!?!!??」

 私と吸血鬼の唇が重なっている。え、なにこれ。

「はーい、ファーストキス、うーばった」

 吸血鬼は唇を私から離し、不敵な笑みを浮かべた。


 何をされたのか、少しずつ分かってきた。キスされたのだ。唇に。ほっぺたとかではなく、唇にされた。

 嘘だろう!? へ!?

 私は驚きのあまり硬直してしまう。

 そして吸血鬼は私の耳元で、そんなパニックを起こしている私にもちゃんと聞き取れるように、囁いてきた。

「昨日のことで俺はお前を気に入った。だから忠告だ。気を付けろ。出ないとお前は本当とは違う意味で、死ぬことになる」

「…………」

 私は、身体とかは完全にびっくりして硬直していたが、こういうものが完全記憶能力というのもなのだろうか。ちゃんと、忠告は聞き取れ、脳内で再生することができた。


 私が聞き取ったことを確認すると、吸血鬼は私から身を引く。

「じゃあ、帰れ。あと、なんでこんなことを言ったのか疑問に思っていると思うが、言っておくが、俺はお前が気に入った。理由は本当にそれだけだ」

「じゃあなんで、キスをして言う必要があったの」

 私は率直な質問を投げかけた。その質問に楽しそうに吸血鬼は答える。

「だって、ファーストキスって一番記憶に残るものだろう? この事が脳裏に焼き付いて、俺のことが忘れられなくなる」

「死ぬか。ここで」

 ムカついた私は武器を出す。もちろんもう手加減は無い。銀のナイフだ。本気でやれば一発で仕留められる。

「やめろ、それは冗談で済まなくなる。じゃあ、これで俺の用は済んだから」


 まるで厄介者を追い払うように吸血鬼はしっしと、手を上下に動かす。馬鹿にされた感が半端ない。

 ムカついたが、何とかその感情を抑え、

「解った。ありがたくその忠告を受け取っておくよ」

 と少し強がりで、ニタアというような効果音が付きそうな笑みを言葉とともに浮かべてみる。しかし、ファーストキスを奪われた恨みは絶対に忘れない。いつか仕返ししてやろうと心に誓った。

 は! これでは絶対にこいつを忘れることができないではないか。忘れられないとはこういうものか。このやろう、やりやがったな。

「ほら、帰れ帰れ、お前の義理の兄ちゃんが能天気に待ってるぞ」

 そう吐き捨て、吸血鬼はまた昨日と同じく霧のように消えてしまった。



 そのあと、私はやり場のない怒りを抑えながら家に帰った。家に帰るとお兄ちゃん達が真剣にテレビを見ながら、ノートとシャープペンシルを片手にわいわいと何かしていた。

 何を見ているかと思ったら、学生がクイズを解いて勝ち上がっていく番組だった。様子を見るに、どうやらテレビの中の人とどちらが答えを解くことが早いかを競っているらしい。あの三人は仲がいいな本当に。

 私はいったん自分の部屋に戻り、三十分やり場のない怒りを趣味を使って発散してから、居間に戻った。


 居間に戻った私は、お兄ちゃん達に水を運んだ。私に気づいたお兄ちゃんは、

「おお! 妹よ! ありがとうな! 今終わったから、お前に話しておきたいことがある!」

 テレビを見ると、お兄ちゃんが言った通り、三人が見ていた番組はエンドロールが流れていた。

「うん……」

 私はおいてあったガラステーブルの誰も座っていない右側の小さな椅子のところに座る。


「じゃあ、心の準備はいいか」

「うん」

 お兄ちゃんが真剣な顔つきになる。煉璃さん、武藏さんもお兄ちゃん同様にとてもこわばった表情をしていた。これはレアだ。写真に収めたい。

「俺は、俺たちは、おかしいと笑われるかもしれないけれど、悪と戦うヒーローなんだ」

「うん、知ってたよ」

 私は、さも当たり前のように真顔で答えた。

「ようだよな、おかしいよな。って、え?」

 お兄ちゃんが私の言葉にポカーンとする。まあ、当り前だろう。

 私は少し付けたしてもう一回答えた。

「知ってたよ。一年ぐらい前から」

「ふぁ!?」

「え!?」

「な!?」

 三人は驚き方は様々だったが、全員目を見開いて私を見てきた。どうやら本気で隠し通せていると思っていたらしい。すげえな。あんなにヒント要素私にたっぷり与えといて。

 私は少し気まずくなってしまったので、苦笑いをこぼした。

「バレバレでしたよ……すごく」

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