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12.操り人形

「はー美味しかった。うまかった」

 俺はヒーローの妹の血を一滴残らず吸い取ってからそう言った。

 死なせる予定はなかったが、あまりにも気に入ったので、気に入らなかったので全部飲みつくしてしまった。ものすごい上物だった。また吸いたいが、死んでしまったらそんなことも言えない。

 


 俺がヒーローの妹を眺めていると、先程ずっと傍観に浸っていた悪魔の声が聞こえてきた。

「終わりましたか」

「ああ、終わった。もうこっちに来ていいぞ」

 見向きもせず、俺は命令を解く。

「わかりました。にしても凛和ちゃんいい子だったのにな。死んじゃうのもったいない気がする。こんなに顔を青くしちゃって。はは、面白い」

 そういいながら、キイはとても愉快そうに顔を歪めながらこちらに向かって歩いてくる。

「面白いのか」

「はい、面白いです。たまに勉強教えてもらったな。まあ、これで任務も終わったことだし、勉強することはなくなるのだろうけれど」

 本当に狂っているのは俺じゃなく、こいつだろう。俺は面白いなんてこれっぽっちも思ってないぞ。思えないぞ。

 今あるのは満足感というものだけだ。結構腹が満たされた。


 俺は抱き着く形でこの死んでしまった少女を拘束していた手を解き、床に寝かせ、優しく徐々に冷たくなっていく身体を撫でる。

「ま、眷属にして、蘇生するって方法もあるんだけそさ、どうする? この子とまだ居たいと思うか、お前は」

 キイはこちらまで歩いてくると、倒れている少女の顔を覗き込みながら座り込みながら俺の質問に答えてきた。

「うーん、どうでしょうかね。いい子だっだけれど、あくまでも監視対象者でしたからね。必要以上に話す、ということもあまりなかったし……私はどちらでもいいですよ、いてもいなくてもどちらでも、キリト様のしたいようにして下さい」

 こいつ、この機会を利用して人間との親交を深めようとかそんな気はさらさらなかったな。

 いや、作ったのだ俺だから、少し作った当初の俺の性格も反映されてしまっているところがあるのだろう。あの頃は自分以外の生きとし生けるものすべてを見下していたりしたからな。たぶんそれが今のこいつの性格の主軸にあるのかもしれない。


「うわああ、面倒くせえ」

 俺は気持ちを隠そうともせず、とても嫌そうな、まるで苦い汁をそそった後のような顔をする。

 その顔を見てキイが顔を膨らましてきた。

「な! あなた様が作るのですから、私は選ぶ権利を放棄して、決める権利を渡そうと試みたのに! 優しさでやってあげたのに、何なのですかその眼! 顔!!」

 どうやら誤解を生んでしまったようだ。俺は少女の体においていた手を放し、立ち上がってその手をキイの頭にのせ、宥めるように誤解を解く。

「いや、そういうことじゃない。でもそうか、お前がどうでもいいというなら、この子はいいや。よし、俺たちは違う部屋に身を顰めるとするぞ。たぶんそろそろ奴が来る」


 と俺が言った直後だった。

「俺の中に潜む、真紅の竜よ! あそこにいる吸血鬼及び悪魔に向かって突っ込め!」

 そんな大声と共に、本当に真っ赤な竜が俺たちに向かって突っ込んで来た。


「ああ、手遅れでしたね。どうします?」

 わくわくしたようにキイが立ち上がりながら俺の命令を即す。俺は溜息交じりにそれを下した。

「この子供はもう用済みだ。でもこいつは傷つけるな。ほかのヒーローを適当にあしらえ。引くときは俺が合図を出す」

「承知しました」

 望まない戦闘が始まった。


 ひとまず俺たちは竜を大げさに避け散り、この部屋の唯一の出入り口である竜が来た扉の方角を見る。すると、

「とりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 そんなよう幼稚な台詞と共に、俺にでっかい大剣をさっき大声を出して竜を突っ込ませてきた男──弥生閏、自称ヒーローが振り下ろして来た。

 因みにさっき竜を大げさに避けてしまったので、大剣を降り下ろしてきたやつの妹とは全くの違う位置に俺とキイはすました顔で佇んでいる。いや、いた。

 そして俺は適当にその一撃を避け、ヒーローを馬鹿にする。

 ヒーローは感情的になると力加減というものをしないので、大剣が床に突き刺さってしまっていた。当たっていたらたぶん相当危険だろう。絶対に当たらないと思うけれど。


「おお、楽しい威勢だね。まるで幼稚園児のお遊戯会みたい」

「おい、ふざけるな! お前、俺の妹に何した!」

「おお、血気盛んだねえ。そんなに怒鳴っていると顔も怒ったような、鬼のような顔になっちゃうよ?」

 怒鳴るものに対してそれを嘲る。いつもの手口だ。

「そんなのどうだっていい! 俺の妹に、凛和に! 何をしたんだって聞いてんだよ!」

 それに対して、煽られるように相手の怒りは強くなっていく。こいつは本当に単純なので面白い。

 煽れば煽るほど、怒りとかが強くなっていく。

「血を吸ったんだよ、腹が空いてたから」

「は?」

 相手の顔がみるみる青くなっていく。本当にこいつは感情が表に出やすいな。

「だから血を頂いた。一滴残らずに、吸いつくした。とても美味しかったよ。あの子死んじゃったぽいから、君に言っとくね、ありがとう、君の妹のエネルギーは俺の身体に力をくれた。とても上物だったよ」

「…………ふざけるな」

「え? 何が?」


「……なんで、なんで、なんで! あいつなんだよ。凛和なんだよ! ムカついてたんだろ! 俺のことを! だったら俺を狙えよ! それなのになんで、凛和に……!!」

自分で敵にムカつかれているって自覚してんのかよこいつ。いや、ただ言ってみただけっていう可能性もあるな。

「えー、だって君の妹ちゃんのほうがおいしそうだったんだもん。まあ? 君のヒーロー仲間のそこにいる煉璃ちゃんでもよかったんだけれど、それだと家の子の身が危ないと踏みまして、だから妹ちゃん」

「おう、わかってるじゃねえか」

 肯定するのかい。まあ、一回実害受けているんだよなあ、キイは。あの煉璃ってこは敵味方関係なく小さい子を見ると飛びついてしまう癖があるらしい。

 あの時だけ全力でこいつら退治したな。なつかしい。

「でしょ?」

「でも、なんで俺の妹なんだよ! あいつは……あいつは無関係のはずなんだぞ! 俺の行いと何にも関係ない! だか――」

 いきなり逆上してきた自称ヒーローに対して俺は安心させるような微笑みを作る。

「あるよ、ある」

「は?」

 そして、容赦なく言い放つ。

「君の家族だという時点で、関係が大ありなんだよ。今まで俺たち魔族に被害を受けなかったのが不思議なぐらいだ」

「それは、どういうことだ」

「気づけよ、お前の妹がああなったのはお前のせいだよ」

「…………」

 

 やっと黙ってくれた。これで殺りやすくなった。やった。

 が、その時だった。甲高い声が邪魔に入ってくれた。

「閏!」

 俺は声がした方を睨む。すると、そこには凛和ちゃんを看病している最中の煉璃がいた。なんか地味に役目を遂行しているところ見るとムカつくな。

「何、相手の言動にマリオネットの如く操られてるのよ! しゃきっとしなさい! しゃきっと! 私が蘇生の一つできないわけないでしょう」

 それにキイと対峙している都己が言葉を受け継ぐ。

「そうそう、煉璃さんは治療能力のエキスパートなんですよ? 蘇生もお手の物ですよ! それに俺は戦闘武器に対するエキスパートと言われています! 凛和ちゃんの身を守る装置を作るのなんてお茶の子さいさいですよ!!」

「だから! 私を信じて感情に流されずに奴をぶっ飛ばしなさい! いいわね! 閏!」

 そんな声に何かに気づかされたように、奴ははっとしてから、不敵に笑った。

「おう! わかった! お前らのことばで目が覚めたぞ! 俺は! こいつを! ぶっ飛ばす! 真紅の竜! 来い!」

 ……青春だなあ。いいな、こやつら絶対にリアル満喫してやがる。なんかムカつく。


 なんかいじめる方法は、あ。

「おお、来い。ジショ―ヒーロー。お前を返り討ちにしてやる」

 俺も対抗するように、不敵に笑いながらそう言ったのだった。


 そのあと、俺は奴と戦っている時にこう呟いた。

れ」



「——ん、——ちゃん、かちゃん、——凛和ちゃん、起きて凛和ちゃん!」

 ん? 何か誰かの声が聞こえる。とても聞き覚えがある声だ。

「凛和ちゃん! 起きて! 凛和ちゃん!!」

 私は暗い視界を明るくする。声の主は煉璃さんだった。そうか、助けに来てくれたのか。

 というかあれ? さっき私死んで……?

 そんなことが頭によぎると同時に誰かが、「殺れ」とつぶやく声が聞こえた。私は地獄耳なのだ。

「凛和……」

 ん? 何かおかしい。何がって、煉璃さんの様子が。

 そのあと、いきなり煉璃さんは、私に向かって大斧だいふを降り下ろして来た。

「っ!」

 私はとっさの判断で避ける。しかし、寝起きの為か反応が少し遅れたらしく、背中の部分をザックリやられてしまった。



 やると決めたら一直線にやってくるヒーローは、銃を使って俺が造った悪魔と戦っている武藏都己、俺に操られ、弥生凛和に大斧を降り下ろした、葱楽煉璃には一切目もくれず、俺に向かって竜と大剣を向けてくる。

 にしても弥生凛和、凄いな。ザックリやられたけど避けたぞ。尊敬するわ。だけどあれは即死だな。あれ、動いてるや。というか、傷の深さが浅くなってない? あ、髪の毛が短くなってる。一緒に斬られたのか。すげえな。


 俺はロリコンの女を操りの対象から外した。さて、これからどうなるのか楽しみだな。



「痛っ! あ、煉璃さん! 煉璃さん! 大丈夫ですか!?」

 私は背中からくる痛みに耐えながら、起き上がり、煉璃さんに呼びかける。

「凛和ちゃん……いま、私、あなたに、何を——」

 今の煉璃さんは少し虚ろになってしまっている。彼女は頭がいいので、どうやら今、自分がやってしまったことを一瞬で把握してしまったようだ。しかしそれが受け止められないらしい。

「何でもありませんよ。煉璃さんはなにもしてません。操られていたんですよね。あの吸血鬼ばかに。大斧を私に降り下ろしてきた時の煉璃さんの目はとても虚ろでした。例えるのならば、東洋の人形でしょうか。あの少し不気味な。だから気にしないでください。今は、そうですね、私が生きていたことを喜んでください」

 私は微笑む。

「…………」

 煉璃さんは黙り込んで何か考えている。

 私は背中の傷を手で触ってみた。すると、激痛と、さっき首を触った時の感触がよみがえった。

「痛った」

「!!」

 その声に反応し、煉璃さんは、持っていた大斧を捨て、私に駆け寄る。

 因みに煉璃さんが捨てた大斧は一瞬光って瞬く間に消えてしまった。

「傷、見せて」

「え、あ、はい」

 私は煉璃さんに傷がある背中を見せた。

「うわあああああああああああああああああ……」

 それを見た煉璃さんの口からそんな声が漏れ出す。それだけで私の傷は結構ひどい状況になっていることをいとも簡単に察することができた。

 

「凛和ちゃん、座って、治療する」

「え?」

「いいから!」

 私は少し反抗するが、すぐに床に落とされた。


 数秒後、煉璃さんが、

「よし、できたよ。というか、私体と一緒に髪の毛も斬っちゃったのか。綺麗なロングが……。うわああああああああああああああああああああ! 生のロリのツインテがああああああああああああああああああああああああああ! 見られなくなってしまったああああああああああああああ!!」

 治療の終了報告と、悲痛な叫びが聞こえてきた。

「あ、ありがとうございます。あと、今度、私、ウィッグを持っているので、それでツインテ作ってゴスロリ着てあげますから、ね、元気出してください」

 そういって私は微笑む。この人には笑顔でいてもらいたいので、こう言ったら少しでも気が紛れてくれると思ったからだ。


 というか、いつの間にか髪の毛のゴムが外れていたのだろうか。私は記憶を巡る。

 あ、ここに来た時すでにしてなかったや。全く気付かなかった。まさかのことだった。というか、そんなことにも気づかないほど心に余裕がなかったということか。まじか、これは結構な屈辱だ。


「!? なん……だと……!?」

 煉璃さんの顔に花が咲く。

「え、ほんと? 嘘じゃない? マジで?」

「マジです」

「マジで! 嬉しい! 元気出た! ありがとうございます!」

 おお、元気出てくれた。この人は笑っている方がいい。というか、この後結構な辱めを受けなければいけないのか……。辛い。


「うん、よし!」

 煉璃さんは自分の頬をバシッとすごい音を鳴らし、自分の気を引き締める。

 そして私向かって優しく微笑んだ。

「帰るよ」

 私も微笑み返す。

「はい」

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 そう行って煉璃さんはお兄ちゃんのほうに加勢しにいった。


 そのあとは、私はただただ傍観していた。別にそのあとの私には何も危害が及ばなかったし、加勢する意味もないので、ただただ見るしかなかったのだ。

 数分して、その戦いはあっけなく終わった。

 吸血鬼が「飽きた」と言ったのである。そして、こうも言った。「おい。キイ、今日はもう引くぞ」と。

 そのあとすぐに二人は霧のように消えてしまって、お兄ちゃんたちは追いかけるにもあてもないので、今日はもう引き返そうという形になったのである。


 お兄ちゃんがこっちに向かって歩いて来たとき、私はお兄ちゃんに飛びついた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、怖かった。怖かったよお……」

 そんなみじめな言葉が自然と口からこぼれ出ていた。それに、全身が小刻みに震えていた。自分が思っていたよりも、結構な精神的ダメージをくらっていたらしい。全く、みじめなものだ。

「うわ! 凛和、凛和! ごめん、ごめんな。俺がもっと要領が良ければ……お前をこんなをこんな事にあわせなかったのにな……本当にごめんな、怖かったな。今日は、泣いていいから。我慢してしいから」


 ──思いっきり泣け。


 お兄ちゃんは私に向かってそう言ってくれた。

「ごめんなさい。ありがとう」

 私はその言葉に甘え、その場で泣いてしまった。


 少し経った後、私が落ち着いた後に、

「では帰るとするか! おい、凛和大丈夫か!」

 お兄ちゃんがいつも通り、暑苦しく私に向かって問いかけてきた。

 私はそんなお兄ちゃんに向かって、泣きすぎて赤くなってしまった目を擦りながら笑みを作る。

「うん、大丈夫だよ」

「よーし、これは兄弟喧嘩は終わったことでいいってことですよね! 和解しましたね! では帰りましょう!」

「あ、このやろう! そのセリフ私が言おうと思ったのに都己! とったな!」

「ひっ! すみません!」

 そう言って、私の除く三人が出口に向かって歩き出した。

 ああ、楽しい。

 私は微笑み、駆け足でお兄ちゃん達の横に並んだ。


そのあとは無事に元の世界に戻れた。というか、本当に異世界に来ていた。怖え。


 私は隣で一緒に街灯と月明かりに照らされながら歩いているお兄ちゃんに話しかけた。

「お兄ちゃん」

「なんだ、妹よ」

「家帰ったら、またみんなで人生ゲームやろ」

 私はそうダメもとで言ったのだが、

「おお! いいぞ! おい! 煉璃! 都己! 人生ゲーム帰ったらやろうぜ!」

 お兄ちゃんは俄然やる気で、むしろその隣を歩いている煉璃さんと武藏さんを誘った。マジかよ。

「いいけれど、今日泊まってってもいい? こんな時間だし」

「あ! 俺も俺も! 泊めてくれるのならやります!」

 二人もやる気だった。元気だな。

 私は奇跡的に無事だった、腕時計を見る。ただいまの時刻は午前三時。よい子はもう寝ている時間だった。


 そのあと、私たちは家に帰って、寝落ちするまで人生ゲームをやった。

 みんな疲れているにもかからわず、三回か四回はやったと思う。ふざけて、笑って、とても楽しかった。


 喧嘩したり、怒られたり、怒ったり、泣いたり、笑ったり、負傷したりして、とても濃い一日で、絶対にもう経験したくないことが起こった一日だったけれど、でも、お兄ちゃん達のことを、もっと知れたことには代わりはない。

 それはとてもよいことだった。けれど、気がかりなことはたくさんできてしまったことは否めない。

 だから、私はもうこんなとこが起こらないことを願いながら、もう、お兄ちゃん達のことに巻き込まれないように祈りながら眠りの中に入っていったのだった。


 そして私は、今日は何だかんだ助けてくれたお兄ちゃんと二人寄り添って、とても幸せそうな顔で寝たのだった。

吸血鬼編、完結しました!

ここまで読んでくれたかた、ありがとうございました。

次は何篇になるのか、まだ書いている本人もわかっておりません。


追記:3.17、違和感をなくすために、物語の最後の部分を大幅削除&変更しました。

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